初級翻訳・ふしぎ国探検 第12話

ふしぎ国探検

会長が女史に、白い手拭で目かくしをし、その上にさらにゴム布で二重の目かくしをする。
そしてうしろへ身を引き、合図の手をあげると、綱をもった幹部と会員とが女史のそばへより、女史の身体や手足を、むごいほどきつく椅子にしばりつける。
二重にしばったところもある。
両手などはうしろに組合わしてしばった上、さらにそれを椅子の背にしばりつける。
これでは女史は全く身うごきもできないし、さぞ身体が痛いことだろうと思われた。
「これ位でいいでしょう。
岩竹先生、痛くありませんか」
「今日はずいぶん、きつくしばりましたねえ」
「すこしゆるめましょうか」
「いや、いいです。
もう二三本しばってみて下さい」
 また追加の綱でしばった。
「それでは、岩竹先生のお身体を、心霊にひきわたします」
 髭の会長は前にでて、女史に向って合掌し、なにか呪文のようなものをいって、えいっと声をかけると、椅子の中の女史は、うーんと呻って、身をうしろへそらせた。
「かかったようです。では電灯を消します。
二十分間、おしずかにねがいます」
 会長が、ぱちっと電灯のスイッチをひねった。
室内はまっくらになった。

怪奇な実験

 一座はしずまりかえって、こわいようだ。
そのとき会長のおさえつけるような声が闇の中にした。
「どうぞゴングさん。
お現われ下さい。
心霊ゴングさん。
今どこにおられますか」
 すると、またうーんとうなる声がして、
「わしは、もうここにきている」
 と、いんいんたる声がした。
岩竹女史のねむっているあたりだ。
東助とヒトミは、急におそろしくなってポーデル博士にすがりついた。
「大丈夫、大丈夫。
よく見ておいでなさい」
 博士はやさしく肩をなでてくれた。
「もう、おいでになっていましたか。
それでは何か見せていただきたいですね」
「よろしい。
ラッパをとりよせて、吹いてきかせよう」
 ゴングさんの声がしたと思うと、闇の空中にラッパの形をしたものが浮きあがった。
全体が青白い光をはなっている。
東助とヒトミは、また博士にすがりついた。
そのラッパは宙をくるくるまわりだした。
そのうちに大きく宙をとび始めた。
会員の頭の上にもきた。
会員の中には、あっとおどろきの声をあげたものもいる。
そのうちにラッパは正面へもどった。
あいかわらず宙に浮いている。
それが、ぷっぷくぷっぷくと、あやしげな音をたてて鳴りだした。
やがてこれはゆれだした。
そしてあいかわらずぷっぷくぷっぷくである。
と、とつぜんラッパは消えた。
するとこんどは大きな青い火の玉が二つあらわれた。
それがくるくると闇の中をまわりだした。
会員の頭の上を輪になってとんだと思うと、見えなくなった。
次はがたんがたんと音がして、小さい卓子が青い光を放って正面にでてきた。
その上に、もう一つのテーブルがのった。
やはり青い光をはなっている。
「熱帯の島から、蘭をひきぬいてきて、このテーブルの上へおく。
熱帯の蘭だ」
 ゴングの声だ。
ゴングがうなる。
と、こつんと音がして、青い蘭のような植物の形があらわれた。
「これが、そうだ。
あとで調べてみなさい。
まちがいない」
 ゴングの声だ。
「わしが、この世にいたときの姿をちょっと見せる。
今から約四千年前だ」
 すると天井から、すーッと何か降りてきたと思ったら、長い裾をひいた人の形があらわれた。
エジプト人ことは一目でわかる。
目鼻はぼんやりしている。
「こんどは、にぎやかになる」
 ゴングの声に、二つの火の玉に、ラッパに、蘭に小卓子などが、みんなゆらゆらひらひら飛び上り、まい下った。
そのふしぎさは、息がつまるようだ。
そのとき、ポーデル博士の低い声が東助の耳にささやいた。
「この眼鏡をかけてごらん。
くらやみの中の物が、はっきり見える。
これは赤外線眼鏡です。
わしは今、ゴングの方へ、誰にも知られないように赤外線灯を照らしています。
赤外線だから肉眼では見えない。
しかしこの赤外線眼鏡をかけると、よく見えます。
早くごらんなさい。
何が見えるか。
しかし笑ってはいけませんよ」
 東助は博士から渡された眼鏡を急いでかけてみた。
おお、これはふしぎ。
くらやみの室内が、夕暮ぐらいの明るさで、はっきり見える。
東助はおどろいた。
何よりもおどろいたのは、岩竹女史をしばりつけてあった椅子の中に、女史の姿はなかった。
そしてその女史は、正面に立ち、両手を自由に使って、二つの火の玉が糸でつりさげられた長い二本の細竹をあやつって、しきりに会員の頭の上でふりまわしていた。
別の男が、やはり同じようにラッパを細竹につってふりまわしていた。
そのラッパには長いゴム管がついていた。
その男は頬をふくらませて吹いた。
するとぷっぷくと音がでた。
もう一人の男は、エジプト人形をつった細竹をもって、ゆらゆらと左右にふっていた。
(ひどいインチキだ。
なにが心霊ゴングだ)
 と、東助は腹が立った。
そのとき博士が眼鏡をかえすようにと、ささやいた。
そしてこの会の最後まで、何もしらないことにして、さわいではいけないと注意をあたえた。
この実験会が大成功に終って、ゴングの霊は拍手におくられて消えた。
そしてそのあとで会長が電灯をつけた。
すると岩竹女史は、いつの間にか前と同じ形で椅子に厳重にしばりつけられて、ねむっていた。
それをよびさまさせるために、髭の会長は、また呪文のようなことをいった。
女史は大きな声で、
「ああ、よくねむった。
わたしは何かしたでしょうか。
何も知らないのです」
 としらっぱくれていった。
その会が終っての帰路に、ポーデル博士は東助とヒトミにいった。
「今日のふしぎ国探検は、インチキのふしぎ国探検でありました。
あれを、会員のみなさんは、ほんとのふしぎだと思って信じているのです。困ったものですね」
「あんなに霊媒の身体をよく椅子にしばりつけておいたのに、どうして綱をはずして抜けでていたのでしょうか」
「あれは綱ぬけ術という奇術なんです。
インチキなしばり方をしてあるのですから、かんたんにぬけたり、またしばられたようなかたちになります」
「あの蘭は、熱帯産のものではなかったのですか」
「あれは本ものです。
しかし温室に栽培してあるものを利用したのですよ。
やっぱりインチキなやり方です」

四次元世界

 このところしばらく、ポーデル博士にゆきあわない東助とヒトミであった。
二人は、この一週間ばかり、毎日のように浮見が原へ通い、博士が樽ロケットに乗って地上へ下りてくるのを待ちうけた。
しかしいつも待ちぼうけであった。
「ヒトミちゃん。
どうしたんだろうね、ポーデル博士は」
 東助は、いつになく博士のあらわれ方がおそいので、ひょっとしたら、あのような神か魔か分らないほどのえらいポーデル博士も肺炎にでもなって、床についてうんうん呻っているのではないかと心配している。
「ほんとに、どうしたんでしょうね。
どこかたいへん遠方へ旅行していらして、なかなかここまでおいでになれないのじゃないかしら」
 ヒトミは、博士の遠方旅行説をだした。

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