どんな人たちが住んでいるんだろう」
「まあ、落ち着いて、よくご覧になれば分かりますよ」
先生はそう言って微笑んだ。
三人が樽ロケットから外に出ると、この大きな部屋の一方に立派な戸口ができていた。
戸口を出たところには、これまた広々としたプラットホームのようなものがあった。
そして、そのホームとホームの間には、何やら川のようなものが流れていた。
「こんなところに川が流れているわ」
「いや、それは川ではありません。
あれは『動く道路』ですよ」
「動く道路というと、いったい何のことですの?」
「文字通り、道路そのものが走っているのです。
あそこに九本の道路が並んでいますが、両側のいちばん外側が白。
それから青、橙色、藍、赤となっていて、真ん中が赤色です。
白い道路が一番おそく走っている道路で、となりの色へいくほどスピードが速くなり、真ん中の赤い道路が一番速くて、なんと時速百キロで動いているのです」
なるほど、よく見れば川ではない。
動いているものだから、つい川が流れているのだと勘違いしてしまったのだ。
しかし川ではなく、博士の言う通り、道路そのものが動いているらしい。
「すると、この動く道路というのは、ふつうの土やコンクリートじゃないのですね」
「そうです。
特殊な一種のゴムです。
ちょうどよい摩擦をもっていて、弾力もぴったりで、そのうえ丈夫さにかけては巨人がのってもブルドーザーがのっても平気なほど頑丈で、きめられたスピードで安全に走り続けるのです。
さあ、私たちもあれにのりましょう。
はじめは外側の、一番ゆっくりと動いている白い道路へとび移るのですよ。
のり移るときは、両足をそろえてウサギのようにぴょんととびのるのです。
またいではいけませんよ」
博士は、ちょっと怖がる二人を両脇にしっかりと抱えかかえ、
「いち、にの、さんっ!」
の掛け声とともに、白い道路へとびのった。
実際にびのってみれば、なんでもないことだった。
目まいがすることもない。
「これは時速わずか五キロです。
さあ、その次の青い道路へとび移りましょう。
こうしてだんだんと速い道路へとび移っていくのです」
なるほど、やってみればどうってことのない簡単なことだった。
この国では自動車や電車はほとんど使われておらず、みんなこの「動く道路」を使って移動しているのだそうだ。
すばらしい事業だ。
とうとういちばん速い赤い道路へとび移った。
その頃ちょうど、明るい建物やお店が両側に立ち並ぶ賑やかな地区へと入っていった。
人々がぞろぞろと歩いている。
どうやら日本人のようだが、道路のスピードが早すぎて、よく顔かたちが分からないほどだ。
そのとき、東助は急に心配になってきた。
「先生、ぼくたちはこれからどこへ行くんですか。
こんな速い動く道路にのっていたら、しまいには海のなかに放り出されてしまうんじゃないでしょうか」
「大丈夫ですよ。
この動く道路は、ちゃんと海底国の大きなおおきな広場へとつながっているのです。
もうすぐ、その広場に到着しますよ」そろそろ、おそく動く道路の方へ乗りかえましょう」
ポーデル博士は、東助とヒトミの手をとって、五色の道すじをぴょんぴょんと一つずつ飛び越えていった。
きれいなにぎやかな町のすぐそばを、白い道路はゆるやかに走っている。
「あ、日本人もいる。
いや、日本人が一番多い。
先生、ここは日本人の移民地ですか」
東助は目をかがやかせながら、たずねた。
「ここは日本人がひらいた海底国です。
国土のわりに人口が多すぎる日本人は、暮らしていくのにとても困っていました。
そこで考えたのは、海の底をひらいて、そこに住むことです。
いや、住むだけではなく、海底にも陸地があるから、そこを掘れば陸にあるのと同じように、銅や鉄をふくんだ鉱石や、石油や石炭もたくさんあるにちがいない。
そういう信念と調査研究とを力として、この海底国をすこしずつ建設していったのです」
ポーデル博士のお話を聞いて、「なるほどなあ、海の底に陸地があるということを、すっかり忘れていたよ」と、東助は自分の頭の悪さが恥ずかしくなった。
「さあ、広場が見えだしました。
おりましょう」
ポーデル博士といっしょに白い道路から、動かない舗道の上へとび移った。
「ああ、きれいだこと。
立派な広場ですわねえ」
「広いなあ。
こんな立派な広場を見たことがない」
広場は円形になっていて、二万坪ほどの広さがある。
そのまわりには、何十階という高層ビルが立ちならんでいるが、その一つ一つが形や色あいを変えているうえに、全体のバランスがじつに美しい。
広場のまん中には噴水塔があり、水晶のようなしずくが下に落ちて、大きな水盤にたまっている。
空は青くかがやいている。
「はてな。
ここは海の底でしょう。
それなのに、なぜあんなに空が青くかがやいているのですか」
「もっともな疑問ですね。
あれはね、東助君。
本当の空ではなく、青と同じ色のガラスが天井にはりつめているのです。
そしてその上に、太陽と同じ光をだす電灯がついているのです。
しかし海底国にいながら、よく晴れた空が見えるようで、この国の人々はこの広場に集まって、いい気持ちになるのです」
「なるほど。
でも本当の太陽でないと、体に必要な紫外線なんかがふくまれていないから、よくありませんね」
「そんなことは、ちゃんと衛生官がしらべてあります。
そしてあの光の中には、高原に近いほどの紫外線がふくまれているのです。
ですから陸上の都会に住んでいる人たちよりは、ずっと強い紫外線にあたっているわけで、その証拠に、海底国では病人が非常に少ないのです。
陸上の三分の一ぐらいですね」
博士の話を聞けば聞くほど、海底国はいいところである。
「先生、この海底国の人たちは、どんな仕事をして生活をささえているんですか」
「いろいろな仕事がありますよ。
お店で物を売るような商売は大したことではなくてね。
主な仕事は、海底を掘って貴重な鉱物をとること、いろんな深さの海でお魚をとること、海水の中から金をとったり、貴いお薬をつくったりすること、地熱を利用して発電したり、物を温めたりすること、建築用の水成岩を掘り出して切って石材にすること……数えていくできりがないほどです」
「まあ、ずいぶんたくさんの仕事があるのですね。
陸上よりは忙しいぐらいね」
「そうです。
なかなか利益をあげていますよ。
さあそれでは、海底採鉱場を先に見て、それから海底漁場の方へ案内してあげましょう」
博士は二人の手をひいて、広場をあとにした。
そのとき、東助がとつぜん大きな声をあげた。
「あそこに電車がとまっていますが、『東京行き』と書いた札をぶら下げていますよ」
「そうです。
本土との間を、あの地底列車が連絡しているのです。
帰りはあれに乗りましょう」
しばらくいくと、ヒトミがおどろきの声をあげた。
「あら、あそこで売っている新聞の日付が、昭和四十三年五月となっていますわ。
どうしたんでしょう」
すると博士はにやりと笑って言った。
「その通りです。
今は昭和四十三年です。
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