第一、おれが地球に関するいろいろなものを、どのくらいたくさん、あつめているか、地球博物館というのを見せてやろう」
千二は、これを聞くと、首をふって、
「ああ、そんなものは、もうたくさんです」
「なぜだ。
何がたくさんだ」
「だって、丸木さん。
僕は地球の人間だから、地球博物館なんか、ちっともおもしろいことはありませんよ」
「ああ、そうだったな。
じゃあ、土星から逃げて来た動物を見せてやろう。
そいつはもう数万年も飼ってあるのだ」
「えっ、土星の動物ですって」
そう言っているとき、どこからあらわれたか数人の火星兵が、丸木のそばへとんで来た。
「ああ、兵団長。
わが軍は苦戦ですぞ。
すぐクイクイ岬へおいで下さい」
70 地底戦車
火星兵団長の丸木のところへ、三人の部下が伝令にやって来て、クイクイ岬でわが軍は苦戦をしているというのだった。
丸木は、目をぐるぐる動かして、おどろきの表情を示し、
「わが軍が苦戦だというが、一体、何者とたたかっているのか」
「さあ、それが、よくわからないんですが、敵の立てている旗を見ると、むらさきの地に、まん中のところに白い四角をくりぬいてあります」
「なに、むらさきの地に、まんなかのところが白い四角形にぬいてある旗? はてな、どこかで、見たような旗だが……」
「なにしろ、クイクイ岬のわが兵営が、いきなり、焼きうちにあったのです。
兵営は全滅です。
そこへ、いまの旗を立てた軍ぜいが切りこんで来たのです」
「むこうの兵は、どんな、かたちをしていたか」
「それが、みんな胸のところと背とに、いま申した白四角形のむらさき旗をぶらさげているのです」
「はてな。
むらさきに白い四角形の旗というと」
丸木は、じっと考えている。
千二はそばにいたが、その白四角軍がどこの兵であるか、ちゃんと知っていた。
それは、ペペ山にたてこもって兵をあげたロロ公爵とルル公爵の軍ぜいに違いない。
丸木は、そこまで気がつかないから、首をぐらぐらとふって、
「どうもよくわからん。
しかし、わが兵営を焼きうちにするなどとは、ふとどきな奴ばらだ。
火星の兵力を、一手ににぎっているおれの力を知らないらしいな。
よろしい、おれがいって、そのあやしい敵をみなごろしにしてくれるぞ。
さあ、あんないしろ」
火星兵団長の丸木は、千二の手をしっかりとって、宙を走り出した。
火星兵団長の丸木のめざすところは、クイクイ岬であった。
丸木は、まるで軽飛行機のように走って行く。
丸木の足や触手が、風に吹かれる凧の尾のように、うしろへなびく。
千二は、その丸木に手をとられて、おなじく宙を飛んで行くのであった。
「丸木さん。
もうすこし、ゆっくり走って下さいよ」
千二は、いつもおくれがちで、そのために、途中、木にぶつかったり岩石にあたったりして、大事な服やかぶとが、今にもこわれそうで、心配であった。
「ぐずぐず言うな。
早く、おれが行ってやらんと、味方が敵にやられてしまうではないか。
しんぼうしろ」
そう言って、丸木は、どんどん走る。
そのうちに、前面に、海が青白く光っているのが見えだした。
そうして、長い岬がつきだしている。
クイクイ岬であった。
このクイクイ岬は、まるで戦艦の檣楼のような形をしていた。
つまり、細長い要塞だと思えばいいのだ。
しきりに、硝煙のようなものが、あがっている。
「ああ、やっているな。
おい千二、あれがクイクイ岬だ」
千二は息を、はあはあ切らせつつ、クイクイ岬の様子に、ひとみを定めた。
どがどがどが。
どがどがどが。
奇妙な音が、しきりに聞える。
「おお、なるほど。
ペペ山に、敵のやつがたてこもっている。
ものすごい砲撃戦の真最中だ。
ふん、なるほど。
敵は、いつあのような大砲を手に入れたか。
けしからん話じゃ」
高いペペ山と、その下に入江をへだてて向きあうクイクイ岬要塞との間に、今や、撃ちつ撃たれつの砲撃戦がくりひろげられている。
どがどがどが。
どがどがどが。
砲弾は白い尾をひいて、上へ下へと飛交う。
どがどがどが、どがどが。
ペペ山にたてこもったのは、ロロ公爵軍であった。
その前のクイクイ岬要塞を死守しているのは、火星兵団であった。
そこへ丸木がとんで来た。「おい、どうした! みんな、すっかり元気がなくなっているじゃないか! 撃て、撃て!」
そこへ、クイクイ岬要塞の司令官がやって来ました。
司令官は、胸のところに、湯たんぽを横にしたような機械をぶら下げています。
その機械にはたくさんのボタンがついており、ボタンを押せば、どこにいる相手とも話ができるし、遠くの様子を見ることもできるというすぐれものでした。
彼の大きな頭には、小さな円錐(えんすい)型の帽子がちょこんと乗っています。それこそが、彼が司令官であることを示す帽子でした。
司令官は、丸木戦争大臣の姿を見つけると、何本の触手もクジャクが羽を広げるように左右いっぱいに広げました。それは、兵団長に対する最高の敬礼だったのです。
「丸木大臣閣下、今回の相手は手ごわいですぞ!」
「相手が手ごわいとは、どういうことだ……」
「ペペ山に立てこもっているのは、火星の前の女王の王子たちです。ロロ公爵とルル公爵であります!」
「ほう、ロロとルルか! あのときの死にぞこないめらが、もうあんなところに陣取って、いい気になっていやがるのか!」
「丸木閣下、奴らはものすごい勢いでこちらへ攻めかかってきております。このままだと……」
「おれが来たからには、もう大丈夫だ! うむ、ちょうどいい。ペペ山をぐるりと包囲して、ロロとルルをここで完全にやっつけてしまおう。あいつら二人さえいなくなれば、火星の上には不平を言う者などいなくなって、すっかり静かになる。それに、あの蟻田(ありた)博士なんかも、きっとおとなしくなるだろうよ」
そう話し合っている間にも、お互いの大砲から放たれた砲弾が激しく飛び交い、そのすさまじい爆発音は大地と空をふるわせました。たちこめる黒煙はますます濃くなり、お互いの陣地をすっぽりと隠してしまいます。
丸木戦争大臣は、高い司令塔へとよじ登り、明るい映写幕をのぞき込みました。
そこには、自分たちと敵軍の戦いの様子が、まるで空の真上から見下ろしているかのように映し出されています。
「なんだ、こっちもどんどん撃ちまくっているというのに、なぜかこっちが押されているじゃないか! おい、司令官、いったいこれはどういうわけだ?」
「それなんです、丸木閣下! こちらが撃っているのは普通の破壊弾なんですが、ロロ軍が撃ち込んでくるのは、とんでもなく奇妙な砲弾なのです」
「奇妙な砲弾だと?」
「一種の『溶解(ようかい)砲弾』であります。しゅうーっと音を立てて飛んできて、ぽかんと破裂すると、あたり一面に白っぽい液体をまき散らすのです。
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