初級翻訳・ふしぎ国探検 第19話

ふしぎ国探検

今や原子力時代となり、巨大な原子力が使えるから、こんな海底国の大工事も、なんの苦もなくできてしまったんです。
早くに亡くなってしまった人に、海底国の話をしても、きっと本当だとは思わないでしょうね」

力の神秘

 美しいチューリップやカーネーション、ヒヤシンス、ゼラニウム、シクラメンなどの花をあつめ、まわりをアスパラガスの葉で包んだ花束を持ったヒトミと東助が、雑草ののびた野原のまん中をめざして歩いていく。
言うまでもなくみなさんもごぞんじの通り、今日は二人がポーデル博士を訪問する日だ。
博士は月に一度、二人をふしぎな国に案内してくださるのだ。
先月は海底都市へ連れていってもらった。
先々月は大宇宙のはてまで案内してもらった。さて今月はどんなふしぎな世界にひっぱっていってくださることだろうかと、二人は足をいそがせる。
樽ロケットに腰をかけていたポーデル博士が立上って、二人の方へ手をふった。
「先生、こんにちは」
「先生。
今日は花束をさしあげようと思って持ってまいりました」
「ほう、ほう。
なかなかきれいな花です。
たくさんの花です。
ありがとう、ありがとう」
 ポーデル博士は、ひげをゆすって、うれしくてたまらないという風に、にこにこ顔。
「それでは、これを樽ロケットの中の花活にいけましょう。
さあヒトミさんも東助君も、いっしょにおはいりなさい」
 みんなは、樽ロケットの中へはいった。
「先生。
今日はどんなにふしぎな国へ連れていって下さるのですか」
「今日はですね、ふしぎな力の国へご案内いたします」
「ふしぎな力の国って、どんなところですの」
「みなさんは、ここにAとBと、二つの物があるとき、この二つの間に、引力という力がはたらいて、たがいにひっぱりっこをしていることを知っていますか」
「引力なら、知っています」
「よろしい。
その引力の法則を知っていますか。
ニュートンが発見したその法則です。
どうですか、東助君」
「引力の法則は、だれでも知っていなくてはならない法則だから、ぼくもよくおぼえていますよ。
――二ツノ物体ノ間ノ引力ハ、ソノ二ツノ物体ノ質量ノ積ニ比例シ、二ツノ物体ノ距離ノ自乗ニ反比例スル。
――これでいいのでしょう」
「それでよろしいです。
つまり、ここに物体Aと物体Bの二つだけがあったとします。
物体の間には引力がはたらくのです。
その引力の大きさは、今も東助君がいったとおり、AとBの質量――これは重さのことだと考えていいのですが、大きければ大きいほど、引力は大きい。
また、AとBとがどのくらいはなれているか、その距離が近ければ近いほど、引力はずっと大きい。
距離が遠くなると、引力はずっと小さくなる。
この距離と力の関係のことを、今日はとりあげて、おもしろい光景をお見せしますが、これはなかなか人類にとって、ありがたい法則なのであります」
「先生。
今日はお話がむずかしくて、よく分りませんわ。
もう一度いって下さい」
「ほう、ほう。
そんなにむずかしいことありません。
引力の法則などというから、むずかしく聞えますが、そんなに頭をかたくしないで、私のいうことだけ、考えてみて下さい」
「はい。
そうします」
「いいですか、ヒトミさん。
引力はね、物体Aと物体Bの距離の自乗に反比例するのです。
ははは、それ、むずかしい顔になりました。
それ、いけません――。
AとBの距離が一メートルの場合と二メートルの場合と、引力は、どんなにちがうか。
それを今申した法則をあてはめて、考えてみましょう。
ヒトミさん、あなた計算してごらんなさい。
わけなく、できます」
 ヒトミは、小首をかしげたが、おずおずと口をひらいた。
「二つの物体の距離に――いや、距離の自乗に反比例するのですから、距離が一メートルの場合は一の自乗はやはり一です。
この一に反比例するんだから、分数にして、一分の一。
一分の一はやはり一です」
「それから距離二メートルの場合は、どうなりますか」
「二メートルの場合は、二の自乗というと、二に二をかけることだから、二二が四で、四です。
反比例だから、この四の逆数は、四分の一。
小数にして〇・二五です。
これでいいでしょうか」
「計算はいいですが、その意味はどうなりますか」
「さあ……」
「ABの距離が一メートルのときは、引力は一。
二メートルはなれていると〇・二五。
ですから、距離が二倍になると、引力は四分の一になるのです。
もし距離が三メートルになって、三倍になると、引力の方は九分の一、つまり、〇・一一に弱まります。
分りますか」
「ええ。
分ったような、分らないような……」
「それでは、図にかいてみましょう。
そうすると、よく分るでしょう」
 博士は席を立って、奥へいった。

隕石落下

 まもなく博士は、巻いた紙を持ってきた。
「これをごらんなさい。
図面が三つありますよ」
 博士が紙をひろげると、(イ)と(ロ)と(ハ)の三つの図面が並べてあった。
「この(イ)の図が、今考えた距離の自乗に反比例する場合です。
太い曲線が、がけのように下りていますね。
その曲線の高さが引力をあらわしています。
距離が一メートルのところでは引力が一。
二メートルでは〇・二五。
三メートルでは〇・一一と、急に引力が小さくなっていきます。そのことがこの図で分るでしょう」
「ええ、分りますわ」
「(イ)の場合は、距離の自乗に反比例しましたが、(ロ)の場合は、距離に反比例するとしたら、どうなるだろうか、それを図にしてみたのです」
「自乗に反比例ではなく、ただ『反比例』する場合のことですか」
「そうです。
ですから、(ロ)の場合は、ABの距離が一メートルなら、その逆数は一。
距離が二メートルなら、その逆数で二分の一。
つまり〇・五ですね。
距離が三メートルなら、その逆数で三分の一。
つまり〇・三三。
(ロ)の場合の曲線と、前の(イ)の場合の曲線とをくらべてみますと、(ロ)の方がずっと、いつまでも力が減りませんね」
「ええ」
「そうでしょう。
距離一メートルのところでは、どっちも同じですが、距離三メートルになると(イ)の場合は〇・一一に減るのに、(ロ)の場合は〇・三三にしか減らない」
「ポーデル先生。
そんな計算ばかりしていて、それがどうなるのですか。
早くふしぎの国へ連れていって下さい」
 東助が、すこしたいくつの顔であった。
「この計算がね、ふしぎの国の案内書でありますよ。
われわれは、(イ)の法則の世界に住んでいるから幸福なので、もし(ロ)の法則の世界に住んでいるとしたら、とてもそうぞうしくて、胸がどきどき、頭がぴんぴん、神経衰弱になるでしょう。
それからまた(ハ)の法則の世界に住むならば、神経衰弱どころではなくて、けがばかりしていなければならないでありましょう。
われわれは(イ)の法則の世界に住んでいるから、たいへんしずかで、安全であります」
「その(ハ)の法則の世界というと、どんな法則なんですの」
「おお、まだ説明しませんでしたね。
(ハ)の場合は、AB間の引力が距離に無関係な場合であります。
つまり距離が近くても遠くても、引力は同じにはたらくのです。

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