気の早い田口求馬が、まるで五重塔のてっぺんから飛び降りるような、決死の覚悟を決めたような悲壮な目をしながら、
「よし、それならまず拙者のから披露しよう」
そう言って、あらかじめ用意してあったらしい許し書きをスッと取り出し、厳かにみんなの前に広げました。
四人の目が、一斉にその紙の上の文字に集まりました。
そして、そこに美しく見事な墨色ではっきりと書かれていた五つの文字を読み上げました。
……ゆだん大敵。
誰からともなく「あっ」という驚きの声が漏れました。
すると今度は藤吉郎がスッと立ち上がり、自分の許し書きを持ってきて、そこに黙ってパッと広げました。
そこにも同じように「ゆだん大敵」と書かれていました。それを見た甚右衛門が、まるで独り言のようにポツリと呟きました。
「……なるほど、そういうことか」早川駿五郎はうーむとうめきました。
それなりにぼんやりと黙り込んでしまった四人の顔を、どこか疑うような目で順番に眺め回していた賢七は、大槻も早川も同じものを手に入れたに違いないと察し、突然「わははは」と笑い出しました。
それはなんとも不自然な笑い方でした。
例えば、不意に殴りつけられて、「痛い」と叫ぶべきところで間違えて笑い出してしまうような、そんな感じの笑い方です。そして実際、彼はすぐに笑うのをやめました。自分で自分の笑い方にびっくりしたような、そんな不自然な止め方でした。
「いや、笑い事ではないぞ」
賢七は目を怒らせて四人を睨みつけました。
「……おれもおかしいとは思っていたが、よもやこんなばかげたこととは想像もできなかった。これは愚弄だ、侮蔑というものだぞ。貴公たち、すぐに……いや、だめだ、貴公たちではまともな談判もできまい。おれが引き受けてやる」
彼はニッと唇を緩めてうなずきました。
「そうだ、おれが膝を突き合わせて、あの澄ました師範をぎゅっと……」
「ぎゅっと」と言いながら、賢七は両手で力任せに何かを絞めつけるような仕草をしました。四人はなんとも形容しがたい目で、一人でいきり立つ賢七の様子を眺めていました。
それからわずか数日のことでした。
「お召しである」という知らせを受けて久之助がお城へ参内すると、殿様である忠辰(ただとき)の前に老臣たちが並び、下座の方には見慣れない男が正座していました。
肌の色が白く、眉がすっきりと整っていて、目は少し険しいものの、世間で一般に美男と言われるような容姿をしており、正座している姿勢にもなかなかの立派な風格が表れていました。
「許す、そこへ参れ」
忠辰は上段の端を示してそう言いました。
「……失礼いたします」
久之助は老臣たちに会釈して、お殿様のすぐ近くまで座を進めました。
「あそこに淵田主税助(ふだちからすけ)という者がおる」
忠辰は下座の男を一瞥して言いました。
「……梶岡伊織(かじおかいおり)を頼って当家に仕えたいと申しておる。神道流の武芸者で、尾州家(びしゅうけ)のお前(おまえ)の前でも見事な腕前をごらんに入れたということだ。今ここで余にも見せたいと申しておるが、相手に出すべき者をそのほうが選ぶがよい」
「……私めの相手が必要なのでございますか」
「しかるべき者をとおしておる。誰でもよい、そのほうがこれぞと認める者を出せ」
八
久之助は少し考え込みました。
そして、「少し難しいかも知れませんが」と言いながら、家中でも小野派(おのは)の達人として知られている福島弥六(ふくしまやろく)の名前を挙げました。
「……弥六でよいか」
忠辰は念を押してから、すぐに呼びに行かせました。
福島弥六はすぐに参内し、事情を聞くと喜んでその大役を引き受け、武芸者と一緒に庭へと降りていきました。
淵田と名乗る武芸者はそのまますぐに木剣を右手にして所定の位置に立ちました。汗止めもせず、襷(たすき)も掛けず、袴の股立(もだち)も取りませんでしたが、それが彼の美男の風貌とよく似合って、まるで絵に描いたような見事な印象を与えていました。
……一方、弥六はしっかりと身支度を整え、一度締めた汗止めを、二度までしっかりと締め直しさえしました。それからやおら位置につき、武芸者と向き合いました。
「……いざ!」
と声をかけたのは弥六でした。
そして身構えたと見た瞬間、まるで通り魔のごとく淵田主税助の体が飛びかかり、カッと高い音を立てて弥六の木剣が空へと舞い上がりました。
……刹那の勝負でした。弥六は呆れたように棒立ちになり、二十間ほどもはね飛んだ木剣が玉砂利の上にカラカラと落ちてから、ようやく「まいった」と声を上げました。
主税助は見向きもしす、黙って自分の木剣の先端を撫でていました。
その姿勢はかなり尊大なもので、こんな相手では満足できないという不満をあからさまに示していました。忠辰は久之助を振り返りました。
「そのほう、出てみよ」
「……はっ、御意ではございますが」
「なにも言うな、出ろ」
有無を言わせない忠辰の声に、久之助は頭を下げて座から滑り出ました。
……自分が代わりに相手をすると聞いて、主税助はニッと白い歯を見せました。それは素早い表情でしたが、確かな会心の笑みでした。
彼は庭へ降りてくる久之助を鋭く注視し、突然、木剣で素振りをしました。「ヒュッ」と空を切る素振りの音は、彼の闘志をそのまま表しているかのようでした。
久之助は静かに汗止めをし、襷を掛け、袴の股立を取りました。
主税助は相変わらず何の身支度もしません。ただ鋭い光を放つ両目で、食い入るようにじっと久之助の全身を見守っていました。
支度が整うと、久之助は一礼し、木剣を軽く左手に下げました。
両者の間隔は二十尺(約六メートル)ほどあります。向き合って、じっと目を合わせました。久之助はまだ木剣を左手に持ったままです。主税助は静かに、
「いざ!」
と声をかけました。
そして、普通のものよりはよほど長く見える木剣を正眼(せいがん)に構えました。
……久之助は黙ったまま、相変わらず木剣を左手に下げたままです。
そのまま十呼吸ほどが過ぎました。
それは短くもなく長くもない時間でした。そして、その時間の糸がぷつりと切れる瞬間が目に見えるかのようでした――「今だ」と人々が思ったその刹那でした。そして、主税助の顔面にも微風がかすめるかのように、まさに技を繰り出そうとする闘気が閃いた、まさにその瞬間でした。久之助の右手がゆっくりと動きだし、左手に下げた木剣をしっかりと握り直して、静かに右側へと持ち上げました。それは本当に落ち着いた、静かな動作でした。
しかし、そのすぐ次の瞬間、主税助の口から凄まじい絶叫が響き渡り、まるで稲妻が走るようなものすごい一撃が打ち込まれました。久之助はふらりと二間(約三点六メートル)ほど後ろへ下がり、「まいった」と言いながら、再び静かに木剣を左手に持ち直したのでした。
久之助はそのまま一度下がりましたが、半刻(約一時間)ほど経ったころ、再びお城へ呼び出されました。
お殿様の忠辰は、家来も連れずに一人で庭に立っており、とても機嫌が悪そうな様子でした。
「先ほどの勝負はいったいどういうことだ。
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