王様は大そう怒って、シモンの領地を取り上げてしまったし、みんなは明日、あいつを死刑にしようとしているところさ。
だから、おれの仕事はあと一日だけ、あいつを自分の国へ逃がしてやるために牢屋から出してやればいいだけだ。
明日になったら、お前たちに手を貸してどんなことでもしてやるよ」
すると今度は、タラスのところへ行った第二の小悪魔が、
「おれの方は手伝ってもらわなくてもいいくらい、うまく運んでいるよ」
と言いながら、話し始めました。
「タラスは、もう一週間ともたないだろうさ。
おれはまず第一に、あいつをますます欲張りにして、どんどん太るようにしたんだ。
あいつの物欲しさはますますひどくなって、目に入るもの何でもかんでも買い込みたくなるように仕向けたのさ。
だからあいつは手持ちの現金をすっかり使っちまった挙句、さらにさかんに買いまくっている。
もう、とてつもない借金をして買っているんだ。
あと一週間たつと勘定の日が来るけれど、その前に、おれはあいつが買い込んだ品物をすっかり台無しにしてやるつもりさ。
そうすればあいつは代金を支払えなくなって、親父のところへ舞い戻るだろうよ」
「ところで、お前の方はどうなんだ?」
と、二人の悪魔は第三の悪魔(イワンの担当)に聞きました。
「それがさ……」
と、第三の悪魔はすっかり元気のない様子で言いました。
「おれの方は、どうもうまくいかないんだ。
まず最初、あいつに激しい腹痛を起こさせてやろうと思って、あいつのお茶の中に自分の唾を吐き込んでやったのさ。
それから、あいつの畑を石のようにカンカンに固めて、鋤(すき)で耕せないようにしておいたんだ。
だから、あいつはとても鋤を出してなんか来ないだろうと思っていたのさ。
ところが、あいつはとてつもない馬鹿だから、鋤を持ってきて耕し始めたんだよ。
あいつはお腹が痛くて、うんうん唸りながらも、仕事をやめようとしないのさ。
だからおれは、あいつの鋤をバキッと壊してやったんだ。
そうしたらあいつは家に戻って、別の鋤を持ってきてまた耕し始めた。
おれは地面にもぐり込んで、その鋤の先っこをつかんでやったのさ。
だけど、鋤の先にはうまくつかめるところがない。
あいつは一生懸命に鋤へ体重をあずけて押し込むんだ。
おまけに鋤の先は鋭く切れる。
とうとうおれは手を切ちまったよ。
あいつはあの畑をほとんど耕しちまって、あと小さな畝(うね)が一つ残っているだけなんだ。
兄弟たち、どうか一人手を貸しに来てくれよ。
あいつの始末をつけないと、せっかくの苦労が台無しになってしまうんだ。
もしあの馬鹿がああして畑仕事を続けちまったら、あいつらは『困る』ということを知らずに生きていけるようになっちまう。
だってあいつが、あの二人の兄貴たちまで養っていくことになりかねないんだからな!」
兵隊シモンの担当だった小悪魔は、明日から手伝いに行くと約束しました。
こうして、彼らは別れたのです。
三
イワンは畑をたった一畝残しただけで、すっかり耕し終えていました。
お腹は相変わらず痛かったけれど、残りの一畝を片づけようと、また畑やって来ました。
そして、例の牝馬に鋤を取りつけて、仕事に取りかかりました。
ところが、一畝を耕し終えて、また後ろへ鋤を返そうとしたとき、まるで鋤が木の根っこにでも引っかかったように、ピクリとも動かなくなってしまったのです。
それは、例の小悪魔が両脚を鋤の先にからみつかせて、後ろへ引き戻そうとしていたからでした。
「これは妙だな」
と、イワンは考えました。
「木の根っこなんて一本もなかったはずなのに、やっぱりあったのかな」
イワンは片手を畝の土にグッと突っ込んで、探ってみました。
すると、何かやわらかいものに触れたので、それを力いっぱい掴み出して引きずり出しました。見るとそれは木の根のようにまっ黒で、しかも、のたくり廻っているのでした。
それはまぎれもなく、例の小悪魔でした。
「なんてきたねえもんだ」
イワンはそう言って、鋤(すき)にぶっつけようとして、それをふり上げました。
すると小悪魔は苦しがって声をたてながら、言いました。
「どうかひどくしないで下さい。
そのかわり何でもあなたの言いなり次第にいたします」
「手前、何ができる」
「あなたの言いなりに何でも」
イワンは頭をかいて考えました。
そして言いました。
「おりゃ腹が痛い。どうだ、なおせるか」
「はい、なおせますとも」
「よし、じゃなおしてくれ」
小悪魔はすぐ畝(うね)の中へ這い込んで、しばらく爪で引っかいてさがし廻っていましたが、やがて、三本根の出た木の根を引っこぬいて来て、イワンに渡しました。
そして、
「この根を一本だけお上りなさい。
これを召し上がればどんな病気だってなおらないことはありません」
と言いました。
イワンはそれを受取ると、根を一本むしり取って飲みました。
腹痛はそれですぐなおりました。
小悪魔はまた放して下さいとたのみました。
「私はすぐさまこの地の下へ飛込んでしまいます。
そして二度と再び出ては参りません」
と言いました。
「よろしい」
とイワンは言いました。
「じゃ行け、神様がお前をお守り下さるように」
イワンが神様の名を口にするかしないかに、小悪魔は水に落ちた石のように地面へはまり込みました。
そして後には小さい穴が一つ残りました。
イワンは残りの木の根二本を帽子の中へしまって、また仕事をつづけました。
そしてすっかり鋤きおえると、家へ帰りました。
彼は馬をときはなして家へ入りました。
するとそこには、兄の兵隊のシモンとそのお嫁さんが、夕飯を食っていました。
シモンはその領地をすっかり取り上げられてしまい、命からがら牢屋をぬけ出して父親の家で暮すつもりで帰って来たのでした。
シモンはイワンを見ると、こう言いました。
「おれはお前と一しょに暮すつもりでやって来たんだが、おれの主人が見つかるまでおれと家内をやしなってくれ」
「いいとも、いいとも」
とイワンは言いました。
「どうぞいなさるがいい」
ところがイワンが長椅子へ腰を下そうとすると、シモンのお嫁さんがその着物の臭いのを嫌って、シモンに、
「私はこんな汚い百姓と一しょに御飯をたべるのはいやです」
と言いました。
そこでシモンは、
「お前の着物が大へん臭いので家内がいやだというのだよ。
お前外へ行って飯を食ったらいいだろう」
と言いました。
「いいとも、いいとも」
とイワンは言いました。
「どうせ私は馬の飼葉の世話をせにゃならんから、外へ行こう」
そうしてイワンは少しのパンと外套を持って牝馬をつれて野原へ行きました。
四
シモン係の小悪魔は、その晩すっかり自分の仕事をおえて、約束通りイワン係の小悪魔をたすけて、馬鹿をへこましてやるつもりで畑へやって来ました。
彼はそこらあたりをさがし廻りましたが、仲間のすがたはみえないで、ただ一つ小さな穴を見つけました。
「こりゃきっと仲間の上によくないことが起ったわい。
するとおれがあいつの代りをしなくちゃならない。
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