おなかをぽっこりさせたタラスは、借金がふくらんでどうにもならなくなってしまい、親父のところへ逃げ帰ってきたのでした。
タラスはイワンを見て言いましたおい、もう一度商売ができるようになるまで、おれと家内を養ってくれ」
「いいとも、いいとも。
よかったら、いつまでもいなさるがいい」
とイワンは言いました。
イワンが上着をぬいで、椅子に腰を下ろそうとすると、タラスのおかみさんが言いました。
「私はこんな土百姓といっしょにご飯はいただけません。
この汗の臭ったら、もうがまんができないんですから!」
すると、おなかをぽっこりさせたタラスは言いました。
「どうもお前の臭いはひどすぎる。
悪いが外で飯を食ってくれないか?」
するとイワンは言いました。
「いいとも、いいとも。
どのみち私は馬の世話をしなくちゃならんし、ちょうど飼い葉を刈る時刻だからね」
五
タラスを担当している小悪魔も、その晩はちょうど手が空いたので、約束どおりイワンの馬鹿をギャッと言わせるために、仲間を手伝おうとやって来ました。
彼は畑へ行ってさんざん仲間をさがしましたが、一人もいませんでした。
ただ一つの穴を見つけただけでした。
彼は今度は牧場へ行って、沼地で別の小悪魔のしっぽをほんのちょっぴり見つけました。
そしてライ麦の刈りあとでも、また一つの穴を見つけただけでした。
「こりゃきっと、仲間たちに何かよくないことがあったにちがいないぞ」
と小悪魔は考えました。
「一つおれが代わりに、あの馬鹿をとっちめなくちゃならないな」
そこで小悪魔は、イワンをさがしに出かけました。
イワンはもうとうに麦のしごとをすませて、森で木を伐っていました。
二人の兄たちは、急に人数がふえて家が狭苦しくなったので、新しい家を建ててもらおうと思い、イワンに木を伐るように言いつけていたのです。
小悪魔は森へ出かけていくと、木の枝へスルスルと這い上り、枝の分かれ目にドッシリと陣取って、イワンの仕事のじゃまをしはじめました。
イワンは一本の木の根元を斧で伐りました。
ところが、木はバッサリと気持ちよく倒れるはずなのに、倒れぎわに急にまがりくねって、ほかの枝へと引っかかってしまいました。
そこでイワンは、それをこじ外すために、別の木を伐って棒をつくり、やっとのことで地面へと倒すことができました。
イワンはまたほかの木を伐り倒しにかかりました。
するとまた、さっきと同じようなことが起こりました。
イワンは汗びしょびしょになりながら、ようやくその木も倒すことができました。
イワンは三本目の木に取りかかりました。
しかし、今度もやっぱり同じ目にあいました。
イワンは、その日のうちに百本くらいは伐り倒すつもりだったのに、まだ十本も伐らないうちに日も暮れかかり、疲れてすっかりへとへとになってしまいました。
イワンの身体からは、汗がまるで湯気のようにボーッと立ち上りましたが、それでも休まないで働き続けました。
そしてまた別の木を伐りにかかりましたが、急に背中がピキッと痛くなってきて、まっすぐ立っていることもできなくなってしまいました。
そこでイワンは、斧をその木の根元にグサリと突き立てると、どっかりと腰を下ろして一休みしました。
小悪魔は、イワンが仕事をやめたのを見て大喜びしました。
「あいつめ、とうとうくたびれ果てたな!
あれであいつもうおしまいだな。
どれ、おれの方もこれで一休みすることにするかな」
と小悪魔は考えました。
小悪魔は木の枝にまたがったまま、クスクスと意地悪く笑いました。
そのとき、イワンは急にガバッと立ち上がると、斧をスッと引っこ抜き、反対のわきからうんと力いっぱい一撃をくらわせました。
すると木はひとたまりもなく、ドッと盛大に倒れました。
小悪魔はすっかり油断していたので、足をはずすひまもなく、倒れてきた木に手を挟まれてしまいました。
イワンは木の枝を切り落とそうととりかかりました。
すると、小悪魔がその枝にひっかかって、ジタバタともがいているのを見つけました。
イワンはびっくりして言いました。
「おやおや、汚いやつめ、また出てきやがったな!」
「い、いや、ちがうんです!
私はあなたの兄さんのタラスのところについていたんです!」
と小悪魔は必死で言いました。
「だれであろうがかれであろうが、もうおしまいだぞ!」
とイワンは言うと、斧を大きくふり上げて勢いよく打ち下そうとしました。
小悪魔はあわてて叫びました。
「た、助けてください!
どうか打たないでください!
あなたのおっしゃることなら、何でもいたしますから!」
「ほう、じゃあ何ができる?」
「あなたの欲しいだけ、お金をこしらえてあげることができますよ」
「よしよし、それじゃさっそくこしらえてくれ!」
すると小悪魔は、イワンにそのやり方を教えました。
「樫(かし)の葉をたくさん取って、手の中でもみなさい。
そうすれば、金貨がジャラジャラと地面に落ちてきますから」
イワンが樫の葉を何枚か取って手の中でゴシゴシともんでみると、なんと本物の金貨が手からパラパラとこぼれ落ちました。
「こいつはお祭のときに若い者たちに見せるのに、もってこいだな!」」
とイワンは言いました。
「じゃ、はなして下さい」
と小悪魔は言いました。
「いいとも、いいとも」
とイワンは言いました。
そして、棒で木の枝をこじて、小悪魔をはなしてやって、
「じゃ行け、神様がお前をお守り下さるように」
と言いました。
イワンが神様の名を口にするかしないかに、小悪魔は水に落とした石のように、地べたへ消えてしまいました。
そして後には、一つだけ小さい穴が残りました。
六
こうして二人の兄たちの家をたてて、べつべつの暮しをはじめました。
そしてイワンは秋のとり入れをすまし、ビールをつくると、お祭りをするから一しょに祝ってくれといって、兄たちを招びました。
兄たちはどうしても来ませんでした。
「百姓のお祭なんてちっとも面白くない」
と兄たちは言いました。
そこでイワンは、百姓やおかみさんたちを招んで、御馳走を食べて酔っぱらうまでに飲みました。
それから通りへ出て、村の若者や娘たちが踊っている広場へやって行きました。
そして踊りの仲間に入り、女たちに、
「一つ私のために唄を唄ってくれ、そうすりゃ皆が生まれてまだ見たこともないものをやる」
と言いました。
女たちは大笑いしてイワンをほめたたえる唄を歌いました。
そして唄がすむと、
「さあ、約束のものをおくれ」
と言いました。
「今すぐ持って来るよ」
とイワンは言いました。
そして種を入れる籠を持って森へ走って行きました。
女たちは大笑いしました。
「あいつは馬鹿だ」
と言いました。
そしてもう他のことを話しこんでいました。
ところがまもなく、イワンは何か重いものを籠いっぱいに入れて、帰って来ました。
「これをやろうか」
「ああ、おくれよ」
イワンは、金貨を一つかみつかんで、女たちにまいてやりました。
すると大へんな騒ぎになって、女たちはおしあいへしあい、ころげ廻ってそれを拾いました。
ぐるりの男まで拾おうとして、おし合い、引ったくりました。
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