」
アマガエルは透き通るくらい青くなって、財布をひっくり返して見ましたが、たった一銭二厘しかありませんでした。
「ある位みんな出しますからどうかこれだけに負けて下さい。」
「うん、一円二十銭もあるかい。
おや、これはたった一銭二厘じゃないか。
あんまり人を馬かにするんじゃないぞ。
勘定の百分の一に負けろとはよくも言えたもんだ。
外国のことばで言えば、一パーセントに負けてくれと言うんだろう。
人を馬鹿にするなよ。
さあ払え。
早く払え。」
「だって無いんだもの。」
「なきゃおれの家来になれ。」
「仕方ない。
そいじゃそうして下さい。」
「さあ、こっちへ来い。」
トノサマガエルはアマガエルをまた次の部屋に追い込みました。
それからまたどっかりと椅子へかけようとしましたが、何か思いついたらしく、いきなりキーキーいびきをかいているアマガエルの方へ進んで行って、片っぱしからみんなの財布を引っ張り出して中を改めました。
どの財布もみんな三銭より下でした。
ただ一つ、いかにも大きくふくれたのがありましたが、開いて見ると、お金が一粒も入っていなくて、椿の葉が小さく折って入れてあるだけでした。
トノサマガエルは、よろこんで、にこにこにこにこ笑って、棒を取り直し、片っぱしからアマガエルの緑色の頭をポンポンポンポンたたきつけました。
さあ、大変、みんな、
「あ痛っ、あ痛っ。
誰だい。」
なんて言いながら目をさまして、しばらくきょろきょろきょろきょろしていましたが、いよいよそれが酒屋のおやじのトノサマガエルの仕業だとわかると、もうみな一ぺんに、
「何だい。
おやじ。
よくもひとをなぐったな。」
と言いながら、四方八方から飛びかかりましたが、何分トノサマガエルは三十匹分の力がありますし、鎖帷子は着ていますし、それにアマガエルたちはみんな舶来ウイスキーでひょろひょろしていますから、片っぱしからストンストンと投げつけられました。
おしまいにはトノサマガエルは、十一匹のアマガエルを、もじゃもじゃにまとめて、ぺちゃんと投げつけました。
アマガエルはすっかり恐れ入って、ふるえて、透き通るくらい青くなって、その辺に平伏いたしました。
そこでトノサマガエルが厳かに言いました。
「お前たちはわしの酒を呑んだ。
どの勘定も八十銭より下のはない。
ところがお前らは五銭より多く持っているやつは一人もない。
どうじゃ。
誰かあるか。
無かろう。
うん。」
アマガエルは一同ふうふうと息をついて顔を見合わせるばかりです。
トノサマガエルは得意になってまた始めました。
「どうじゃ。
無かろう。
あるか。
無かろう。
そこでお前たちの仲間は、前に二人、お金を払うかわりに、おれの家来になるという約束をしたが、お前たちはどうじゃ。この時です、みなさんもご存じの通り向うの部屋の中にいた二匹が、戸のすきまから目だけを出して「キー」と低く鳴いたのは。
みんなは顔を見合わせました。
「もうどうしようもないな。
そうしようか。」
「そうお願いしよう。」
「どうかそうお願いいたします。」
どうです。
アマガエルなんていう生きものは本当に人がいいものですから、すぐトノサマガエルの家来になってしまいました。
そこでトノサマガエルは、うしろの戸を開けて、前の二人を引っ張り出しました。
そして一同に向かって、おごそかに言いました。
「いいか。
この集まりは『カイロ団』ということにしよう。
わしはカイロ団長だ。
明日からはみんな、おれの命令に従うんだぞ。
いいか。」
「仕方ありません。」とみんなは答えました。
すると、トノサマガエルは立ちあがって、家をぐるっと一まわりしました。
すると酒屋はたちまちカイロ団長の本部にかわりました。
つまり前までは四角だった家が、今度は六角形の家になったのですな。
さて、その日は暮れて、次の日になりました。
お日さまの黄金色の光は、うしろの桃の木の影法師を三千寸も遠くまで投げ出し、空はまっ青にひかりましたが、誰もカイロ団に仕事を頼みに来ませんでした。
そこでトノサマガエルはみんなを集めて言いました。
「さっぱり誰も仕事を頼みに来んな。
どうもこう仕事がなくちゃ、お前たちを養っておいても仕方ない。
俺もとうとうとんでもないことになってしまったよ。
それにつけても仕事のない時に、いそがしい時の仕度をしておくことが一番必要なんだ。
つまりその仕事の材料を、こんなヒマな時に集めておかないといかんな。
ついてはまず第一が木だがな。
今日はみんな外に出て行って立派な木を十本だけ、いや十本じゃすくないな、ええと、百本、百本でもすくないな、千本だけ集めて来い。
もし千本集まらなかったらすぐ警察へ訴えるぞ。
貴様らはみんな死刑になるぞ。
その太い首をスポンと切られるぞ。
首が太いからスポンとはいかない、シュッポォンと切られるぞ。」
アマガエルどもは緑色の手足をぶるぶるぶるっとふるわせました。
そしてこそこそこそこそ、逃げるようにおもてに出て、一人が三十三本三分三厘強ずつという見当で、一生けん命いい木をさがしましたが、大体もう前々からさがすくらいさがしてしまっていたのですから、いくらそこらをみんながひょいひょいかけまわっても、夕方までにたった九本しか見つかりませんでした。
さあ、アマガエルはみんな泣き顔になって、うろうろうろうろ動きまわりましたが、ますますどうもいけません。
そこへちょうど一匹の蟻が通りかかりました。
そしてみんなが飴色の夕日にまっ青にすきとおって泣いているのを見て、びっくりして尋ねました。
「アマガエルさん。
昨日はどうもありがとう。
一体どうしたのですか。」
「今日は木を千本、トノサマガエルに持っていかないといけないのです。
まだ九本しか見つかりません。」
蟻はこれを聞いて「ケッケッケッケ」と大笑いに笑いはじめました。
それから言いました。
「千本持って来いというのなら、千本持って行ったらいいじゃありませんか。
ほら、そこにあるそのけむりのようなカビの木などは、一つかみで五百本にもなるじゃありませんか。」
なるほどとみんなはよろこんで、そのけむりのようなカビの木を一人あたり三十三本三分三厘ずつ取って、蟻にお礼を言って、カイロ団長のところへ帰って来ました。
すると団長は大機嫌です。
「ふんふん。
よし、よし。
さあ、みんな舶来ウイスキーを一杯ずつ飲んで休むんだよ。」
そこでみんなはアワのつぶほどのコップで舶来ウイスキーを一杯ずつ飲んで、頭をくらくらさせながら「キーイ、キーイ」とうなって、眠ってしまいました。
次の朝またお日さまがおのぼりになりますと、トノサマガエルは言いました。
「おい、みんな。
集まれ。
今日もどこからも仕事を頼みに来ない。
いいか、今日はな、あちこちの花畑へ出ていって花の種をひろってくるんだ。
一人が百粒ずつ、いや百粒ではすくない。
千粒ずつ、いや、千粒もこんな日の長い時にはあんまり少ない。
万粒ずつがいいかな。
万粒ずつひろって来い。
いいか、もし持って来なかったらすぐお前たちを巡査に引き渡すぞ。
巡査は首をシュッポンと切るぞ。
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