初級翻訳・ガリバー旅行記 第13話

ガリバー旅行記

私の乗った船は、『アドベンチュア号』でした。
船がマダガスカル海峡を過ぎる頃までは無事な航海でしたが、その島の北あたりから海が荒れだしました。
そして二十日あまりは難儀な航海をつづけました。
が、そのうち風もやむし波もおだやかになったので、私たちはたいへん喜んでいました。
ところが、船長はこの辺の海のことをよく知っている男でした。
暴風雨が来るからすぐその用意をするよう命令しました。
はたして、次の日から暴風雨がやって来ました。
船は荒れ狂う風と波にもまれ、私たちは一生懸命奮闘しましたが、なにしろ恐ろしい嵐で海はまるで気違いのようでした。
船はずんずん押し流されて、もう自分たちがどこにいるのか見当がつかなくなってしまいました。
私たちの船はどこともしれない海の上を、陸を求めて進んでいました。
まだ船には食糧も十分あるし、船員はみんな元気でしたが、ただ困るのは水でした。
ある日、マストに上っていた少年が、
「陸が見える!」
と叫びました。
それが一七〇三年六月十六日のことでした。
翌日になると、何か大きな島か陸地らしいものがみんなの目の前に見えてきました。
その南側に小さな岬が海に突き出ていて、浅い入江が一つできていました。
私たちはその入江から一リーグばかり手前で、錨をおろしました。
みんな水を欲しがっていたので、船長は十二人の船員に水桶を持たせてボートに乗せ、水探しに出発させました。
私もその国が見たいのと、何か発見でもありはしないかと思ったので、いっしょにそのボートに乗せてもらいました。
ところが、上陸してみると川もなければ泉もなく、人ひとり住んでいる様子もないのでした。
船員たちはどこか清水がないかと海岸をあてもなく歩き回っていましたが、私は別の方角へ一マイルばかり、一人で歩いてみました。
だが、あたりは石ころばかりの荒れ地でした。
面白そうなものも別に見つからないし、そろそろ疲れてきたので、私は入江の方へぶらぶら引き返していました。
海が一目に見わたせるところまで来てみると、船員たちはもうちゃんとボートに乗り込んで、一生懸命に本船めがけて漕いでいるのです。
おーい待ってくれと、私は大声で呼びかけようとして、ふと気がつきました。恐ろしく大きな人間がぐんぐん海を渡って、ボートを追いかけているのです。
膝のあたりしかない海の中を、その男は恐ろしい大股で歩いて行きます。
だが、ボートは半リーグばかりも先に進んでいたし、あたりは鋭い岩だらけの海だったので、この怪物もボートに追いつくことはできなかったのです。
もっとも、これはあとから聞いた話なのです。
そのときの私は、そんなものを見ているどころではありません。
もと来た道を夢中で駆け出し、それから私は、とにかく険しい山の中をよじ登りました。
山の上に登ってみると、あたりの様子がいくらか分かりました。
土地は見事に耕されていますが、何より私を驚かしたのは草の大きさです。
そこらに生えている草の高さが、二十フィート以上ありました。
やがて、私は国道へ出ました。
国道といっても、実は麦畑の中の小路だったのでしたが、私にはまるで国道のように思えたのです。
しばらくこの道を歩いてみましたが、両側ともほとんど何も見えないのでした。
取り入れも近づいた麦が、四十フィートからの高さに伸びています。
一時間ばかりもかかってこの畑の端へ出てみると、高さ百二十フィートもある垣でこの畑が囲まれているのが分かりました。
だが、樹木などはあんまり高いので私には見当がつきませんでした。
この畑から隣りの畑へ通じる段々があり、それが四段になっていて、一番上の段まで行くと一つの石をまたぐようになっていました。
一段の高さが六フィートもあって、上の石は二十フィート以上もあるので、とても私にはそこは通れませんでした。
どこか垣に破れ目でもないかしらと探していると、隣りの畑から一人の人間がこちらの段々の方へやって来ました。
人間といっても、これはさっきボートを追いかけていたのと同じくらいの大きな怪物です。
背の丈は塔の高さくらいはあり、一歩歩く幅が十ヤードからありそうです。
私は肝を潰し、麦畑の中に逃げ込んで身を隠しました。
そこから見ていると、その男は段々の上に立ち上がって右隣りの畑の方を振り向いて、何か大声で叫びました。
その声の物凄いこと、私ははじめ雷かと思ったくらいでした。
すると、手に手的大鎌を持った同じような七人の怪物がぞろぞろと集ってくるではありませんか。
鎌といっても、普通の大鎌の六倍からあるのを持っているのです。
だが、この七人はあまり身なりもよくないので、召使いらしく思えました。
はじめの男が何か言いつけると、彼らは私の隠れている畑を刈り出しました。
私はできるだけ遠くへ逃げようとしましたが、この逃げ道がなかなか難儀でした。
なにしろ、株と株との間が一フィートしかないところもあります。
これでは私の身体でもなかなか通りにくいのでした。
どうにかこうにか進んでいるうちに、麦が風雨で倒れてしまっているところへ出ました。
もう私は一歩も前進できません。
茎がいくつも絡み合っていて潜り抜けることもできないし、倒れた麦の穂先はナイフのように尖っていて、それが洋服ごしに私の身体を突き刺しそうなのです。
そうこうしているうちに、鎌の音は百ヤードとない後から近づいて来ます。
私はすっかりへたばって、もう立っている力もなくなりました。
畝と畝との間に横になると、いっそこのまま死んでしまいたいと思いました。
私は残してきた妻や子供たちのことが目に浮かんできました。
みんなが止めるのも聞かないで航海に出たのが今になって無念でした。
ふと私はリリパットのことも思い出しました。
あの国の住民たちはこの私を驚くべき怪物として尊敬してくれたし、あの国でなら一艦隊をそっくり引きずって帰ることだってできたのです。
だが、ここではこんなとてつもなく大きな連中に会っては、この私はまるで芥子粒みたいなものです。
今に誰かこの大きな怪物の一人につかまったら、私は一口にパクリと食われてしまうでしょう。
しかし、この世界の果てにはリリパットよりもっと小さな人間だっているかもしれないし、その世界の果てには今ここにいる大きな人間もっともっと大きな人間だっているかもしれないと、私は恐怖で気が遠くなっていながらこんなことを思い続けていました。
そのうちに、刈り手の一人が私の寝ている畝から十ヤードのところまで近づいて来ました。
もうこの次には足で踏みつぶされるか、鎌で真二つに切られるかもわかりません。
その男が動きかけると、私は大声でわめき散らし、助けを求めました。
巨人は立ち止まってしばらくあたりを見回していましたが、ふと地面にひれ伏している私を見つけました。この小さくて危険な生き物に、騒がれたり噛まれたりしないように、どうやって捕まえればいいものか――そんな顔をしながら、男はしばらく考えていました。
私もイギリスで、イタチやネズミを捕まえるときには、ちょっとこんなふうにしたものです。

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