」
ポン公は目を丸くしました。
「それに第一、あのターマンの野郎が気に食わないんだ。勝手な真似ばかりしやがって、あんな黒猫なんかも拾いこんできやがってさ……おれがその黒猫の担当だってよ。黒猫がなんだってんだ、黒猫が……!」
ポン公は、何かを深く考えるような笑みを浮かべました。
そして、若者のそばにそっとしゃがみ込みました。
「ああ、あの黒猫のことかい。そんなの、いっそ捨てちまえればいいじゃないか。おれが代わりに捨ててやろうか? 海にドボンとぶち込んでやるよ。おれにまかせておきなよ。」
そう言ってポン公は、「345」のメダルを若者に見せました。
若者はうれしそうな顔をしました。
「ほう、君も仲間だったのか! それならちょうどいいや。もうどうとでも勝手にしてくれよ。ほら、これがあの部屋の鍵だ。」
ポン公は、飛び上がらんばかりに喜びました。
大きな鍵を受け取ると、わざとそれを周囲に見せつけるようにくるくると打ち振りながら、おまけに口笛まで吹き鳴らして、まるで店の関係者のような顔をして店内を通り抜け、二階へと駆け上がっていきました。
あたりを見回すと、見ている人は誰もいません。
でも、ぐずぐずしている暇はありませんでした。
ポン公は秘密の部屋の扉をガチャリと開けました。
部屋の中には、電灯が明るく灯っていました。
そこにいたのは、クロだけです。
ポン公に飛びついてきたクロを、彼はしっかりと胸に抱きとめました。
さて、ここからどうやって逃げ出そうか――クロの頭を優しくなでながら考えているうちに、あの鉄の扉が目に入りました。
クロの首には、小さな銀の鍵が下がっています。
「よし、さっそく調べてやろう!」
ポン公は銀の鍵を取り外しました。
メダルの数字は「345」です。
第一の扉は、「3」の三倍である「9」の鍵穴でした。
鍵を三回まわすと、カチャンと扉が開きました。
白ひげのおじいさんが言っていたとおりです。
第二の扉は、「4」の三倍である「12」、その「12」から「10」を引いた「2」の鍵穴でした。
鍵を四回まわすと、これまた開きました。
そして次に、これもおじいさんが言っていたとおり、第三の扉がありました。
「5」の三倍である「15」、そこから「10」を引いた「5」の鍵穴です。
鍵を五回まわすと、ついに扉が開きました。
中から出てきたのは、深い鉄の箱でした。
中には、くるくると巻かれた厚紙などがいっぱいに詰まっています。
ポン公がそれに手を伸ばそうとしたその時――
「待て!」
とてつもなく大きな声が響きました。
ポン公はぞっとし、思わず体がすくみました。
振り返ると……そこには、不気味な笑みを浮かべたターマンが立っていました。
「はっはっは、とうとう開けてくれたな。ありがとよ。だがね、生憎とわたしは今日はいそがしいんだ。続きは明日まで待ってもらおうか。少し話したいこともあるしね。悪いが、今夜は君を帰すわけにはいかない。その鍵はこっちへわたしなさい。」
いつものターマンとはちがって、ものすごくいかめしい様子でした。
ポン公は声も出せず、言われるがままに銀の鍵を渡してしまいました。
ターマンは鉄の扉をピシャリと閉めました。
すると、店の人間に違いなあの若者が、毛布を抱えて部屋に入ってきました。
「とうとう罠にかかったな、はっはっは! まあ、そこでゆっくり休みなよ。」
若者は酒に酔っているようですが、足取りはしっかりしていました。
ポン公は悔し涙を流したい気持ちでした。
相手をだますつもりが、すっかり逆にだまされてしまったのです。
もうどうすることもできません。
若者から毛布をもらい、ポン公はクロと一緒にその部屋へと閉じ込められてしまいました。
ターマンと若者は部屋から出ていき、外からガチャンと重い錠が下ろされました。
六 島の図と星の図
トム商会の家は、今日はいつもにも増してひっそりと静まり返っていました。
店は臨時休業です。
中にいるのは、若者が一人きり。
ほかの人間たちはみんな出かけていました。
向かった先は、丘の上にある墓地です。
そこでは、亡くなった主人のための石碑が建てられることになっていたのです。
しかし、建てられるのは主人のものだけではありません。
主人と一緒に亡くなった人たちが大勢いるそうで、その全員をまとめて祀る大きな石碑が作られるのです。
店には黒い幕がぐるりと張り巡らされていました。
そこへ、白猫のシロを連れた、薬屋の白ひげのおじいさんがやってきました。
シロの優れた探偵の力によって、すべての真相がすっかり明るみに出ていたのです。
秘密の部屋の中にある鉄の扉が開いたこと、そしてポン公もクロと一緒にその部屋の中に閉じ込められてしまっていることも……。
「そんなはずはない、――」」とお爺さんは考へたのでした。
お爺さんはきつとした顔つきをしてゐます。
シロはぴんと尾をたててゐます。
どちらもおこつてゐるやうです。
「ターマンさんにあひにきました。
」とお爺さんはいひました。
若者は目をぱちくりさせました。
「おるすなら、かへられるまで待ちませう。
」
若者はどうしてよいかわからない様子です。
わからないから、かつてにさせておくことにきめたやうです。
お爺さんはシロをだいて、椅子にこしかけました。
そして目をつぶりました。
そのまゝじつとしてゐます。
眠つたのでせうか、考へこんでるのでせうか。
おひるすぎになつて、ターマンがおほぜいの男をつれてかへつてきました。
しほ風にふかれた、目のぎよろりとした、たくましい男たちです。
中には、手足にかうやくをはつてる者もあります。
お爺さんがこさへてやつたきず薬です。
お爺さんは、こしかけたまゝ、ターマンをじつと見ました。
ターマンもお爺さんの顔をじつと見ました。
「あなたの薬は、たいへんよくきゝますね。
」とターマンはいきなりいひました。
「なか/\なほらなかつたきずが、このとほり、ぢきによくなりました。
」
さういつて男たちをさししめしました。
お爺さんはうなづきました。
ターマンは一人の男に、なにかさゝやきました。
男たちはみんな二階にあがつていきました。
「さあ、ご案内しませう。
」とターマンはいきました。
お爺さんはシロをだいたまゝ、立ちあがりました。
ばかにあつさりしたものです。
おたがひに考へてることが、よくわかつてるやうなてうしです。
それきり何ともいはないで、二人は二階にあがつていきました。
ターマンはひみつの部屋の扉をあけました。
ポン公とクロはびつくりしました。
お爺さんが、シロをだいてはいつてきたのです。
お爺さんはやさしくうなづいてゐます。
ポン公は目にいつぱい涙をためました。
シロとクロは、もう頭や身体をなめあつてゐます。
ターマンは椅子をとりよせました。
そして、扉をしめきり、窓をあけはなしました。
「じつは、あなたを待つてゐたのです。
」とターマンは、お爺さんにいひました。
「ひととほりお話ししませう。
」
ターマンは、方々にできるいろ/\の品物を、売買しながら、南洋にちらばつてる小さな島、人間のすんでる島や誰もゐない島を、探検してまはつてる男です。
ところが、ある日、ふいに海賊船におそはれました。
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