初級翻訳・北極のアムンセン 第2話

北極のアムンセン

天気はすこぶる良く、空はすっかり晴れ渡り、南西からそよ風が吹いていました。
飛行機は快調に進んでいきました。
スピッツベルゲンの雪をかぶった山々がまだ後ろに見えているうちに、前方の海には早くも氷の原が見えてきました。
いよいよ極地の氷の海の上にさしかかってきたのです。

やがて、出発してから一時間ほど経った頃、どこからともなく霧が出てきて、飛行機はその中にすっぽりと包み込まれてしまいました。
けれど、北極地方では天気が急に変わることは珍しくなく、それほど心配するほどのことではありません。また、海の上ですから、山にぶつかる心配もありません。
霧の中を少し高く飛んで、北へ北へと進んでいきました。
二時間ほど経つと、霧が薄くなって、あたりが明るくなってきました。
北極地方では、春から夏にかけて、太陽は一日中沈むことがなく、夜でも昼間と同じ明るさなのです。

午後十時を過ぎた頃、今まで南西からの追い風だったのが、急に北東からの向かい風となり、しかもその風がたいへん強くなりました。
そのために、飛行機は北へ真っ直ぐ進むことができず、西へ西へと押し流されてしまいました。
こうして風と戦っているうちに、時間はどんどん過ぎ、ガソリンはひどく消費され、さらに困ったことに、今自分たちがどこを飛んでいるのか、その場所が分からなくなってしまいました。
何の目印もない大氷原の上ですから、正確な場所を知るには天体観測をするしかありません。
アムンセンは、このまま飛行を続けることの無意味さと危険さを悟り、どこかに着水して位置を確かめようと考えました。
しかし、見渡す限りの大氷原で、その氷の表面にはひどい凸凹があり、所々に水が見える割れ目があっても、それはあまりに狭く、適当な着水場所が見当たりません。
熱心に探しているうちに、ようやく少しだけ大きな水面が見つかりました。
アムンセンは直ちに着水の命令を下しました。
二十五号機は無事に着水しました。
二十四号機も水面を見つけて着水しました。

ところが、二機は今まで広い空を連れ立って飛んでいたのですが、着水してみると、意外に遠く離れてしまったらしく、お互いにどこにいるのか分からなくなりました。
二十五号機の方でも、二十四号機がどうしているかと心配しましたが、二十四号機の方では特に、隊長であるアムンセンと離れてしまったため、今後の行動に迷いました。
皆は飛行機から降りて、氷の塊を登ったり下りたりしながら二十五号機を探しました。
しかし、二十五号機の姿は見えず、氷の裂け目から大きなアザラシがぬっと頭を出したのには、ひどく驚かされました。
それでも、北氷洋の氷の塊は、潮の流れや風のために常に動いています。そのため、次第に見通しが良くなり、やがて遠くの方に二十五号機の姿が見えました。
「いた!あそこにいたぞ!」ということで、すぐに手旗信号を送りました。
すると、二十五号機の方でも手旗信号を返してくれて、お互いに連絡を取ることができたのです。二十四号機は、着水したときに機体を氷の塊にぶつけて少し壊してしまい、もう一度飛び立つことが難しくなっていました。
その報告を受けた隊長のアムンセンからは、次のような命令が下されました。
「食料には限りがある。このまま氷の上で毎日を過ごすのは危険だ。
隊員たちは二十四号機を捨て、持てるだけの食料を持って、二十五号機へ合流せよ。」
そこで、エルズワースたち三人は、運べるだけの食料を背負い、ボート代わりの天幕とスキーを持って、二十五号機へ移動することになりました。
氷の上はでこぼこで、あちこちに海面が見える割れ目があります。
三人は、お互いに助け合いながら、一歩ずつ足場を探して、二十五号機の方へ進みました。
二十五号機にいるメンバーは、ただただ彼らの無事を祈るだけで、手助けをしてあげることもできません。
その途中、二人が足を滑らせて冷たい水の中に落ちてしまいました。氷の上に残っていたエルズワースは、自分まで引きずり込まれそうになる危険を冒しながら、どうにか二人を引き上げました。
そうした困難な場所を乗り越え、ついに二十五号機までたどりついたとき、言葉にならない感動とともに、みんなでしっかりと握手を交わしました。
このとき、彼らがいた場所は北緯八十七度四十四分。北極点からはわずか二百五十キロの地点でした。
六人の隊員は、二十五号機の中で寝起きすることになりました。
そして、もう一度飛び立つために、氷の上に滑走路を作る作業に取りかかりました。
厳しい決まりを守りながら、仕事が進められました。
心も体も強い彼らは、果てしない氷の世界の中で、お互いに励まし合い、助け合いながら働きました。
飛行機が飛び立つために必要な、長さ五百メートル、幅十二メートルの平らな滑走路を作るのです。
でこぼこの氷の表面を、毎日少しずつ削っていくのですが、せっかく作業が進んでも、風や雪でまた埋まってしまったり、氷が動いて作業が中断されたりすることもありました。
作っては壊れ、壊れてはまた作るということを繰り返し、ついに七回目で、五百メートルの滑走路が完成しました。
みんなは万歳と叫び、この三週間の苦労を振り返りました。
そして記念として、近くの少し高い氷の塊の上に、ノルウェーの国旗を立てました。
六月十五日の朝、空は晴れ渡り、風も穏やかで、飛ぶには最高の天気でした。
六人の隊員は、不要な荷物を氷の上に捨てて、飛行機に乗り込みました。
飛行機は五百メートルの滑走路をぎりぎりまで滑り、氷の丘を上手に避けて、無事に空へと舞い上がりました。
進路はまっすぐ南です。
陸地を目指して、広大な氷原や氷の海の上を飛び続けました。
七時間ほど飛んだとき、誰かの叫び声が上がりました。
「陸が見える!」
六人は目を凝らして前方を見つめました。
だんだんと陸地の形がはっきりしてきました。
波の静かな湾も見えました。
このとき、飛行機の舵に少し故障があったので、その湾の中に着水することにしました。
そこは、スピッツベルゲン群島の中にある、北東島の北岸でした。
着水して調べてみると、ガソリンはわずかに九十リットルしか残っていませんでした。
これでは、もう遠くまで飛ぶことはできません。
しかも、着水した場所は陸地から千メートル以上も離れていました。
さて、どうしたものかと困っていたときのことです。沖の方に小さな船が見えました。
一同は大喜びして、力の限り旗を振り、いろいろな合図を送りました。
船もこちらに気づいて近づいてきてくれました。
そして飛行機の中に、垢とひげだらけの六人の姿を見つけました。
この船は、ノルウェーの漁船「シュリク号」でした。例年より早めに漁に出ていたため、偶然そこを通りかかったのです。
シュリク号はアムンセン一行を乗せ、キングス・ベイへと向かいました。
キングス・ベイの基地では、五月二十一日にアムンセンたちが飛び立ったきり戻ってこないので、みんなの心配は日に日に募っていました。
万が一のために用意されていた二隻の救助船もすでに出動し、ノルウェーの人々も一生懸命に捜索していましたが、一行の行方は全く分かりませんでした。
みんなの生死について、いろいろな噂も流れていました。

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