初級翻訳・ビジテリアン大祭 第8話

ビジテリアン大祭

『半々』とはいったい何の基準で半分だと言っているのですか?
おそらく、単純に『重さ(目方)』でお測りになるおつもりなのかもしれませんが、重さで栄養価を比較するのは大いなる大損というものです。
食べ物の中で実際に体内で消化される分の『熱量(カロリー)』ででも比較していただければ、割合として正確な数字が分かるものと存じます。
そうやって計算し直してみますと、一般に動物質のほうが消化率も高いため、一見すると栄養の効率がよくなって得をしたように思えるでしょう。
得にはなりますが、だからといって『動物と植物がぴったり半々になる』なんていうわけには到底なり得ません。
これまでこんな珍しい議論をする必要性がほとんどありませんでしたから、おそらくこの正確な計算をまだ誰もやったことはないでしょうが、計算方法のヒントだけ申し上げておきましょう。
どうぞ、シカゴ畜産組合の立派な事務所にお戻りになって、じっくりとゆっくりご計算願いいたいものであります。」つまり、世界中の小麦、大麦、米、エンバク、カブ、キャベツといったあらゆる食べ物の収穫量を調べて、まず最初にその中から、家畜たちが食べる分の量を引き算するのです。
そのときに、あまりの多さにびっくりしないでくださいね。
次に、残ったそれぞれの食べ物から、タンパク質、脂肪、炭水化物の消化できる量を計算して、そこからそれぞれが生み出すカロリーを計算してぜんぶ合計します。
「四千三百兆大カロリー」とか、だいたいそんな感じの数字が出てくることでしょう。
今度は、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ニワトリ、そしてクジラというふうに、同じやり方で計算します。
合計して「二千三百兆大カロリー」とか、そんな感じの数字が出てくるはずです。
両方を合わせたら、それをざっと二十億で割って、さらに三百六十五で割って、栄養研究所の人たちにでも見てもらいなさい。
計算が間違っているかどうか、きっとお返事をくれることでしょう。

さて、しかしここまでお話しした議論というのは、私にとってはぶっちゃけどうでもいいことでありまして、最初の質問に対する答えの本当の肝心な部分は、この次からなのです。
つまり、先の反対論者が「動物を食べないとなると、食料が半分に減ってしまう」と主張した、まさにその点についてです。
冗談ではありませんよ!
いったい、その動物たちは何を食べて生きているというのですか?
空気や岩石や水を食べているわけではありません。
ウシやウマやヒツジは、エンバクや牧草を食べています。
そのために作ったカブやカボチャも食べています。
よく見てごらんなさい。
人間が自分たちの食べる穀物や野菜の代わりに、家畜が食べるものを作っているのですよ。
ウシを一頭育てるには、八エーカーの牧草地が必要になります。
もしそこに、一番効率よく育つ小麦を作ってみたらどうでしょう?
十人の人が一年間食べていけるだけの食料が、毎年たっぷりとれるのです。
ウシならどうですか?
一年の間に太る分といえば、せいぜい百六十キログラムの牛肉ですが、それで十人の人が一年間生きていけるでしょうか?
一人あたり一日たったの五十グラムですよ。
親指三本分くらいの大きさでしかありません。
そんなんでお腹が空きませんか?

よくおわかりになっていないようですが、もっと手短に言いますと、もし人間が自然と相談して「牛肉や豚肉の代わりに、もっとムダのない食べ物を恵んでおくれ」と頼んだなら、今よりもっとたくさんの人間が生きていけるくらいの、たくさんの食べ物を自然のほうで用意してくれる、そういうことなのです。
ただし、これは海産物や人間の食べられない残りカスによって育つ分の家畜は、とりあえず別の話とします。
しかし、それを計算に入れたって、まったく問題ありません。
家畜だって、みんな食べるためだけのものではなく、ヒツジのように毛をいただくものや、ウマやウシのように労働をしてもらうものなど、いろいろと役に立っていますからね。

次に、「食料が半分になっちゃえば、人間も半分になる」というのは、いかにも面白い考えですが、実際にはそんなふうに食料が半分になることなんてありません。
減るどころか、もしかすると少し増えるかもしれないくらいです。
ですから安心してください、戦争も起きませんし、無期懲役の心配をしていただく必要もありません。
それどころか、菜食主義はみんなの心を平和にし、お互いを正しく愛し合うことができる素晴らしい生き方なのです。
多くの宗教で肉食を禁止することが大切な儀式になっていることを見ても、それはよくわかるでしょう。

戦争どころか、菜食主義はあなた方に対しても永遠のせせらぎのような平和をもたらし、わざわざ避暑に来ているというのに自動車まで雇って変な宣伝をしたり、大祭の会場にずけずけと踏み込んできて嫌なことを言い、女性たちを気絶させたりしなくてもすむようになるのです。
それに私たちだって、無期懲役囚になるどころか、人類の仲間たちや、哺乳動物組合、鳥類連盟、魚類事務所などからも、たくさんの勲章や感謝状を贈られることでしょう。
どうですか?
意味が分かったなら、あなたも今すぐビジテリアン(菜食主義者)になりなさい!」

すると、さっきの反対論者が立ち上がりました。
ものすごく反省したような顔をしていましたが、なぜかどこか吹き出したいのを必死にこらえているようにも見えました。
しょぼんとした様子で壇上に登ってくると、
「深く反省しました。今日から私もビジテリアンになります!」
と言って、さっきの青年の手をギュッと握りしめたのでした。

会場からは、本当に盛大な拍手が巻き起こりました。
二人は仲良く連れ立って私たちのほうへと降りていき、技師も自分の空いた席に腰を下ろすと、肩でふうふうと息をしていました。

ところが、当然のことながら、この展開に異教徒席の怒りはすさまじいものでした。
一人の、これまた技師らしき男が、なかなかに荒々しい態度で壇上に昇ってきました。

「諸君、私の疑問に答えてもらおう!
動物と植物の間には、っきりとした境界線などないのだ。
今朝配られたパンフレットにも書いてあった通り、それは人類が勝手に決めた分類にすぎない。
動物がかわいそうなら、いつの間にか植物だってかわいそうということになるはずだ。
動物の中の原生動物と、植物の中の細菌類とは、ほとんど見分けがつかないほど親密な関係にある。
それに、動物の中にもヒドラやサンゴ類のように植物に似たやつがいれば、植物の中には食虫植物だってあるし、ちゃんと眠る植物もある。眠る植物なんて、毎晩わざと邪魔して眠らせないと枯れてしまうし、食虫植物の中には小鳥を捕まえるやつや、人間を殺すようなものさえいるのだぞ!
なにより、バクテリア(細菌)などは、少し前まで学者たちによって何度も動物の仲間に入れられていたのだ。
今はまあ、植物のほうに分類されているが、それはほんの気まぐれ、はずみにすぎない。

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