老人は、パトラッシュを見て立ち止まり、不思議に思って脇により、みぞの草むらにうずくまって、同情のこもった優しい目で犬を調べました。
二、三歳くらいの、少しバラ色で金髪の、黒目をした子どもが老人と一緒にいました。
子どもは、胸の高さもある草むらの中をぱたぱたと走って、このかわいそうな、大きな、じっとしている動物を、立ったまま、かわいらしくまじめにじっと見つめました。
小さなネロと大きなパトラッシュは、このようにして出会ったのでした。
その日の結末はというと、年老いたジェハンじいさんは、たいそう骨を折って苦しんでいるパトラッシュをジェハンじいさんが住んでいる小さな小屋に引きずっていったのでした。
その小屋は、パトラッシュが倒れていた場所から、石を投げれば届くような、ごく近いところにありました。
そこでパトラッシュはじゅうぶんに介抱されました。
病気は熱と渇きと疲れによる脳発作でしたから、日陰で時間をかけてゆっくりと休むと、健康と力が戻ってきたのです。そして、パトラッシュは、四本の丈夫な茶褐色の足で、再びよろめきながらも立ち上がることができるようになったのでした。何週間もの間、パトラッシュは使い物にならず、無力で、体中が痛み、ほとんど死にかけていました。けれども、この間、パトラッシュは荒々しい言葉を耳にしませんでしたし、残酷に殴られることもありませんでした。そのかわりにただ、同情のこもった子どものつぶやきと、老人のいたわるような愛撫だけを感じたのでした。
パトラッシュが病気の間、この孤独な男と小さな幸せな子どもは、パトラッシュのことが大好きになりました。小屋の片隅に干し草を積んで、パトラッシュのベッドにしました。そして、二人は、パトラッシュが生きているかどうか確かめるために、暗闇の中でパトラッシュの息づかいにじっと耳を澄ませるようになったのです。そして、パトラッシュがはじめて大きくうつろな、かすれた鳴き声をあげた時、それが回復したという確かなしるしだったため、二人は声をあげて笑い、一緒に喜び、ほとんど泣き出しそうになりました。
そして、小さなネロは、喜びのあまり、マーガレットの花輪をパトラッシュの頑丈な首にかけて、新鮮な赤い唇でキスをしたのでした。それから、パトラッシュがたくましい、大きな、少しやせた、力のある犬として再び立ち上がったとき、その大きな熱心な目は、穏やかな驚きに満たされていました。なぜなら、二人はパトラッシュをののしって駆り立てたり、ぶって歩かせたりすることはなかったからです。パトラッシュの心に強い愛が芽生えました。そして、この忠実な愛は、パトラッシュの命ある限り、決して揺らぐことがありませんでした。しかし、パトラッシュは犬なりに、受けた恩を決して忘れませんでした。パトラッシュは横たわり、まじめで、優しい、茶色い目で友人たちの動きを見つめながら、じっと物思いにふけっていたのです。
年をとった元兵士のダースじいさんが生計を立てるための仕事といえば、今や毎日小さな荷車でミルクをアントワープの町まで、足を引きずりながら運ぶこと以外にありませんでした。ジェハンじいさんよりは少し運のいい近所の村人たちが、ミルクの缶を積ませてくれたのです。村人たちは、ジェハンじいさんに同情して、ちょっとした仕事を分けてあげていたのでした。しかし、もっと大きな理由は、自分たちよりも正直な運び手に町までミルクを運んでもらい、その間に自分たちは家に残って、牛やアヒルの世話をしたり、庭や小さな畑の仕事をしたりする方が好都合だったからです。
しかし、この仕事は、老人にとっては大変骨の折れるものになってきていました。彼はもう八十三歳だったのです。それに、アントワープまでは五キロもあり、それ以上離れている場所もありました。パトラッシュがすっかり元気になり、マーガレットの花輪を茶褐色の首にかけたまま日なたぼっこをしていたある日のこと、パトラッシュはミルク缶を積んだ荷車が家を出ていき、やがて帰ってくるのを見つめました。
翌朝、老人が荷車に触れる前に、パトラッシュはさっと起き上がり、荷車の方へ歩いていくと、そのハンドルの間に自分の体を差し入れました。こうすることで、自分を食べさせてくれたお返しに働かせてほしい、それに自分にはちゃんと働く力もあるのだと、はっきりと訴えたのでした。ジェハンじいさんは、ずいぶんと抵抗しました。というのも、老人は犬に労働させるなんて犬の本性に反していて、恥ずべきことだと考えていたからです。
しかし、パトラッシュはあきらめませんでした。引き具をつけてくれないとわかるやいなや、自分の歯で荷車をかじり、引っ張ろうとしたのです。ついにジェハンじいさんは根負けしました。彼が助けたこの動物の一徹さと、深い感謝の気持ちに降参したのです。ジェハンじいさんは、パトラッシュが引っ張りやすいように荷車のつくりを直してやりました。その日から一生の間、毎日荷車を引っ張ることがパトラッシュの仕事となったのです。
冬が来たとき、ジェハンじいさんは、ルヴァンの祭りの日にもみぞで死にかけていたあの犬を自分の小屋に連れ帰ってきた幸運に、心から感謝しました。というのも、老人はあまりにも年をとっており、年を重ねるごとに弱っていっていたため、もしこの助けた動物の力と頑張りがなかったら、雪と泥の深いわだちの中で、どうやって重いミルク缶の荷物を引っ張っていけばいいのか、きっと途方に暮れていたに違いなかったからです。
パトラッシュの方と言えば、まるで天国にいるような心地でした。前の主人は、一歩ごとに鞭をふるって、恐ろしいほどの重荷を無理やり引っ張らせていましたが、そんなひどい経験をした後でしたから、いつも自分を優しく撫で、あたたかい言葉をかけてくれる穏やかな老人と一緒に、真鍮のミルク缶を積んだこの小さくて軽い緑色の荷車でお出かけすることは、パトラッシュにとってはまるで遊びのようだったのです。その上、仕事は昼過ぎの三時か四時には終わり、その後は自分のやりたいようにのんびりと過ごすことができたのでした。のびをしたり、日なたで眠ったり、野原をぶらついたり、ネロといっしょに飛び回ったり、仲間の犬と遊んだり、何でもすることができました。
パトラッシュは、とても幸せでした。
パトラッシュにとって幸いなことに、元の主人は、メクレンの祭りの市で大酒を飲んで暴れ、死んでしまいました。
だから、元の主人が新しい愛情に満ちた家に、パトラッシュを追いかけてきたり、じゃまをする心配はなかったのです。
年とったジェハンじいさんは、いつもびっこを引いていました。
数年経ってひどい痛風で足がほとんど動かなくなってしまい、もうこれ以上荷車につきそって外出することもできなくなってしまいました。
そのとき、ネロは六歳になっていました。
ネロは、何度もおじいさんに連れられて一緒に町に行ったことがあるので、町をよく知っていました。
それで、ネロが代わりに町に荷車を運ぶことになりました。
町でミルクを売ってその代金を受け取り、今度はそのお金をかわいらしくもけなげに、それぞれの牛の持ち主のところにとどけるのでした。
そうしたネロの様子に、見る人は皆、魅せられたのでした。
コメント