初級翻訳・ブレーメンの町楽隊 第1話

グリム ヴィルヘルム・カール

昔々、あるところに、一頭のよく働くろばがいました。
もう何年もの間、毎日こつこつと重たい荷物を背中に乗せて、粉ひき所へ通っていました。
ところが、年をとるにつれてだんだんと体が思うように動かなくなってきました。さすがにこれ以上働かせるのは無理だとわかると、主人は「そろそろこのろばの世話もやめにしようか」と考えはじめました。
それに気づいたろばは、「こりゃあ、ろくなことにならないぞ」とすばやくさとると、こっそり逃げ出しました。そして、ブレーメンの町を目指してトコトコ歩き出したのです。
そこへ行けば、町の音楽隊に入れてもらえるかもしれないと考えたからでした。

しばらく歩いているうちに、道の真ん中で一匹の猟犬が、だらしなく横たわっているのに出会いました。犬は口をぽっかりと開けて、「はぁ、はぁ」と激しく息を切らしています。
すっかり野山を駆けまわって、へとへとになっている様子でした。
「おい、がんばり屋の大将、どうしてそんなにあっぷあっぷしているんだい?」
ろばが声をかけると、犬はこう言いました。
「いやはや、聞いてくれよ、こういうわけさ。何しろ年をとって体が弱くなり、昔みたいに元気いっぱいに猟場を駆けまわるわけにはいかなくなったんだ。それで主人は、いっそたたき殺してしまえと言い出したのさ。あわてて逃げ出したはいいけれど、この先どうやって食べ物を得たらいいものか、ちょうど考えていたところなんだよ」

「実はな、おいら、これからブレーメンの町へ行って、町の音楽隊に入れてもらおうと思っているんだ。どうだい、お前もいっしょに行って、音楽で一緒に食っていかないか? おいらがリュートを弾くから、お前はカンカラ太鼓をたたくといい」
猟犬は、「うん、それはいいな!」と賛成し、ふたりはいっしょに出発しました。

それからあまり遠くへ行かないうちに、今度は一匹の猫が道の脇に座り込んでいるのに出会いました。その顔は、まるで三日も雨に打たれたかのように、すっかりしょんぼりしていました。
「やあ、どうしたんだい、床屋の親方。なんだかおヒゲの手入れどころじゃないって顔をしているね」
ろばが声をかけると、猫は言いました。
「命がかかっているんだもの、景気のいい顔なんてしていられるもんかい。何しろ年をとってきて、歯がすり減ってボロボロになっただろ? ネズミを追いかけ回すよりも、温かいストーブのそばで丸くなって、のどをゴロゴロ鳴らしていたくなったんだよ。そうしたら、主人の奥さんが、いっそこの猫を水に沈めておしまいって言い出したのさ。そうされる前に飛び出してはきたものの、これからどうしたものか、どこへ行けばいいのかさっぱり見当がつかなくて困っているんだよ」
「それなら、おれたちといっしょにブレーメンの町へ行かないか。お前さんは夜の音楽が得意だろうから、町の音楽隊にきっと雇ってもらえるぜ」
ろばがそう言うと、猫はすぐに賛成し、ふたりに加わって出発しました。

やがて、旅を続ける三匹の脱走者たちは、ある大きなお屋敷のそばを通りかかりました。
門の上には、その家の飼い主であるおんどりが止まっていて、ありったけの声をふりしぼって叫び立てていました。
「おい、骨のしんまで響くようなすごい声だなあ。どうかしたのかい?」
ろばが声をかけました。
「なあに、明日もいいお天気になりますよって、みんなに知らせてやっているのさ。今日はとってもありがたい聖母マリアの日で、幼いキリスト様の下着を洗って干した日なんだ。ところが、明日の日曜日にはお客さんが来るっていうんで、ここの意地悪なおくさんが、『明日はこのおんどりをスープにして食べてしまおう』って女中に言いつけたんだよ。だから今晩のうちに、首をちょん切れってね。だから、今のうちに声が出せなくなる前に、のどが破れそうなくらいわめき立てているのさ」

「やれやれ、そいつは大変だな、赤トサカさん。おれたちといっしょに行くがいいよ。これからブレーメンの町へ向かうところなんだ。殺されて死んでしまうくらいなら、どこへ行ったって、ここよりましな場所があるさ。お前はいい声をしているんだから、なかまに入って一緒に音楽を奏でれば、ひと稼ぎできるぜ」
ろばがそう誘うと、この申し出はおんどりにとても気に入りました。
こうして、こんどは四人連れだって旅立つことになりました。

二

ところで、ブレーメンまではとても一日ではたどり着けません。
そのうち日が暮れてきたので、森の中へ入って、そこでひと晩すごすことにしました。
まず、ろばと犬は一本の大きな木の下にゴロリと横になりました。
猫とおんどりは、安全のために木の枝の上で休みました。おんどりはわざわざ一番高いこずえの先まで飛んでいって止まりました。そこが、夜を明かすには一番安全な場所だったからです。さて、眠る前にこのおんどりがもう一度、東西南北、風の吹く方角はどちらかと見まわしたとき、ふと、向こうにちらちらと火のようなものが見えるのに気づき、仲間たちに声をかけて、どうやらそう遠くないところに家があって、明かりがついているらしいと知らせました。
ろばはそこで、
「じゃあおれたち、ここを引き払って、もっと先まで行ってみようや。どうもこの宿は上等とはいかないからな」
と言いました。すると犬も、そこへ行ったら骨の一本や二本、ことによると肉の香りくらいはかげるかもしれないと思って、さっそく賛成しました。
こういう次第で、四人組はその明かりのさしている方角に向かって出かけました。
行くうちに明かりはどんどんはっきりしてきて、ぱあっと照り出したと思うと、そこは泥棒の家で、中にはこうこうと灯がともっていました。
ろばは仲間の中で一番の背たかのっぽだったので、窓のところまで行って中をのぞいてみました。
「親方、何かあったかね?」
とおんどりは尋ねました。
「どうして、あったかどころの騒ぎじゃないぞ」
とろばは答えました。
「ちゃんとテーブルごしらえがしてあって、結構なごちそうと飲み物が山とならんでいるよ。泥棒どもが、てんでに、はちきれそうな顔で、楽しくやってるところさ」
「そいつをものにしようじゃないか」
とおんどりは言いました。
「うん、うん、どうしたって割り込まなくちゃあな」
とろばは言いました。
そこで、まず泥棒どもを追い払うにはどうすればいいかと、四人組の動物は相談をはじめましたが、やがていい工夫が見つかりました。
ろばは前足を窓に乗せることになりました。
犬はろばの背中に飛び乗ることになりました。
猫は犬の背中によじのぼることになりました。
おしまいに、おんどりがばさばさと飛び上がって、猫の頭の上にのっかりました。
いよいよ支度ができあがると、一、二、三の合図で四人組は一斉に音楽をやりだしました。
ろばはひひーんと思い切りわめきました。
犬はわんわんとほえたてました。
猫はにゃおーんとなきました。
おんどりはこけこっこうと時をつくりました。
とたんに窓を突き破って、一同は部屋の中へとびこみました。がらん、がらん、がらんと音を立ててガラスはこわれました。
泥棒どもはびっくりぎょうてん、きゃあと叫び声をあげて飛び上がりました。

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