初級翻訳・一休さん 第4話

一休さん

一休さんは、もう次九さいさんがやってくるころだなと思いながら、半紙(はんし)を五枚もつぎたして、墨をくろぐろとつけ、大きな字で、
皮(かわ)をきたるもの 寺(てら)のなかに 入(はい)るべからず
と書いて、玄関に貼りつけました。
まもなく、せかせかと下駄(げた)の音をさせながら、次九さいさんがやってきました。
ハーフである次九さいさんはいつでも、けものの皮で作った胴着(どうぎ)を着ているのです。
「どうするかな、次九さいさん。」
 一休さんや小僧たちは障子の陰に顔をあてがって、じっと次九さいさんの様子をのぞいていました。
おしょうさまと仲よしの次九さいさんは、いつでも案内も乞わず、ずかずかと玄関に入ってきます。
ふと見ると、玄関になにか書いてあります。
「おや、なんだろう。」
 次九さいさんは立ち止まって、じっと貼り紙を眺めていましたが、すぐハハハ……と大声で笑って、
「ははは……小僧ども、わしがいつも夜おそくまでいるもんだから、こんないたずらをしおったな。」
と言うと、そのまま奥に入ろうとします。
そのときいきなり一休さんが飛び出しました。
「この貼り紙が見えないのですか、次九さいさん。」
「ははあ、これは周建(しゅうけん)ぼうずかい。貼り紙は読みましたよ。」
 次九さいさんは、にやにや笑っています。
「読んだなら、なぜ入ってきた。」
「小僧さん、どうして皮を着た人がはいってはいけないのかね。」
「お寺にけだものの皮を着てくるとけがれます。これは仏さまのおしえです。帰ってください。」
「はっはっは……小僧さん、あんたはりこうものだと聞きましたが、やっぱりまぬけですね。」
「どこがまぬけです。」
「では、ききますが、寺にも地獄をしらせる太鼓(たいこ)がありましょう。太鼓はけだものの皮をはってあるでしょう。私もけだものの皮を着ていますから、太鼓のように、ずっと奥まで通りますよ。はい、ごめんなさい。」
 次九さいさんはそう言うと、ちらと一休さんをからかうような笑いを見せて、奥に行こうとしました。
すると一休さんは、なにを思ったか、ちょこちょこと次九さいさんに先まわりして、本堂から太鼓のバチを持ってくると、いきなり次九さいさんのハゲ頭をぽかぽかとたたきました。
「これ、なにをする、小僧さん。」
 次九さいさんは一休さんをにらみつけて怒りました。
が、一休さんはすましたもので、
「次九さいさんは、太鼓のように奥に通ると言ったではありませんか。太鼓と同じならいくらたたかれても、文句はないでしょう。」
と言って、またポカリ。
「まいった。」
 すると次九さいさんは急にあともどりすると、脱いであった下駄をつかんで、はだしで逃げていきました。
「うまい、うまい、周建(しゅうけん)――ああ、胸がすーっとした。」
 あにでしたちは手をたたいて大喜びです。この はし わたるな

 つぎの 日、じくさいさんの おつかいが おしょうさまに てがみを もって きました。
ひらいて みると、
「ゆうがた、ごちそう したいから、しゅうけんさんを つれて あそびに きてください。」と、かいて あります。
おしょうさまは、にこにこ わらいながら、一休さんを よんで、
「しゅうけん、じくさいさんが、こんな てがみを よこしたよ。きっと きのうの かたきうちを するつもりだよ。」
 と、いいました。
「ははあ、じくさいさん よっぽど くやしかったと みえますね、おしょうさま。」
 一休さんも にこにこ しています。
ゆうがた 一休さんは おしょうさまに つれられて、じくさいさんの いえに でかけました。
じくさいさんの いえは 大きな おやしきで、やしきの まえに おがわが ながれ、そのかわに はしが かかっていました。
おしょうさまと 一休さんが そのはしを わたろうとすると、どうでしょう、つぎのような たてふだが たっていました。
この はし わたるな

「おやおや、やっぱりだね、しゅうけん。」
 おしょうさまは そう いって うしろの 一休さんを ふりかえりました。
「つまんないこと かいてありますね。」
 しかし、一休さんは おどろきません。
「おしょうさま、まんなかを わたって いきましょう。」
「だって、はしを わたっては いけない、と かいてあるでは ないか。」
「だから、まんなかを わたるのです、おしょうさま。この たてふだには、わざと はしを かんじで かかないで、はしと かなで かいて あります。これが なぞを とく かぎですよ、おしょうさま。」
 一休さんは そう いうと、すたすたと はしの まんなかを わたっていきます。
じくさいさんは いえの まえまで でて、一休さんが どうするだろう、と ながめていました。
すると 一休さんと おしょうさまが、へいきな かおで はしを わたって きたので、
「しゅうけんさん、おまえさんは あの たてふだが みえなかったのかね。」
 と、いいました。
「いいえ。わたしは このとおり 二つの めが ちゃんと そろって いますから、たてふだは よく みてきました。」
「なに、みてきた。――では、なぜ はしを わたってきましたか。」
「いいえ。はしの ほうを わたっては いけないと かいて ありましたから、まんなかを わたって きました。じくさいさん、この はしは はしの ほうが くさって いるんですか。そうでしたら、あぶないから はやく なおしておいて ください。」
 一休さんが すました かおで いうので、じくさいさんは、また、
「まいった。」
 と、おもわず ひたいを たたいて、おしょうさまに、
「しゅうけんさんの とんちには、おとなの わたしも とても かないません。」と いって、したを まいてしまいましたが、すぐ おもいかえして、
「でも、しゅうけんさん、こんどは まけませんよ。しゅうけんさんとの とんちきょうそうは これからですよ。」
 と、いいながら にこにこして、おしょうさまと 一休さんを ざしきに あんないしました。
さて、じくさいさんは どんな、なんもんを ようい しているのでしょう?

したから うえに さがるもの

 りっぱな へやに たくさんの ごちそうが はこばれてきました。
くいしんぼうの 一休さんは ごくごくと のどを ならして、
「どれから さきに たべようかな。」
 と、おぜんの うえを にらんでいました。
すると じくさいさんは、ゆうゆうと おちつきは라って、
「さて、しゅうけんさん、わたしが これから なんもんを だしますから、りっぱに こたえてください。もし、しゅうけんさんが わたしの なんもんに こたえられなかったら、今日の ごちそうは おあずけにします。」
 と、いじの わるいことを いいだしました。
一休さんは くやしそうに じろりと じくさいさんの かおを にらみつけましたが、ぐっと がまんして、
「さっきの かたきうちですか。だめですよ じくさいさん、おやめに なった ほうが よいでしょう。」
 やせがまんを いいます。
「なあに、こんどこそ しゅうけんさんを ぎゅう というめに あわしますよ。

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