初級翻訳・一休さん 第6話

一休さん

すると よしみつ公が いいました。
「こりゃ、しゅうけん、おいしいか。
」
「はい、わたくしは くいしんぼうですから、おいしくて たまりません。
」
「ほう。
では、一つ きくが、しゅっけは にくや さかなを たべても いいのかな。
わしは、しゅっけは なまぐさものは たべないものだ、と きいていたが……。
」
「はッ!」
 と、いって 一休さんは しばらく かんがえこみました。
それから にこりとして、
「しょうぐんさまも たべて おいでですね。
」
「おお。
わしは さむらいじゃ。
にくも さかなも たべる。
」
「でも、しょうぐんさまも あたまを ぼうずに して いらっしゃいますね。
」
「そうだ。
わしも ぶつもんにはいったのじゃ。
」
「そうすると やはり ぼうさんの なかまいりを したのでしょう。
」
「その とおりじゃ。
」
「おなじ ぼうさんなら しょうぐんさまも さかなや にくを たべては いけないのでは ないでしょうか。
」
「うむ、うむ……わしは しかし ほんとうの ぼうさんではない。
」
「なまぐさぼうず ですか。
なまぐさぼうずなら いたしかた ありません。
」
 一休さんは ぎゅうっと まず よしみつ公を とっちめました。
すると よしみつ公は、
「すると おまえも なまぐさぼうずかな。
」
 と、ぎゃくしゅう して きました。
「いいえ、ちがいます。
」
「へいきで なまぐさを たべる ところを みると、なまぐさぼうず だろう。
」
「いいえ、わたしのは ちがいます。
」
「どう ちごう。
」
「にんげんの のどには、しょくどうと きどうと ございます。
」
「ほう、二つ あるか。
」
「このみちは、とうかいどうと かまくらかいどう みたいな ものです。
」
 しょくどうは たべものを たべるみち、きどうは くうきを すったり はいたり するみち――みなさんは、のどに 二ほんの くだなど ないことは ちゃんと しっているでしょう。
しかし これは とんちもんどうですから、また べつです。
「ほう。
」
 よしみつ公は 一休め なにを いいだすか、と にこにこしています。
「かいどうならば、もちやも とおれば、さかなやも とおります。
とうふやも にくやも とおります。
」
「かいどうなら とおるじゃろうな。
」
「はい。
それで、わたしの かいどうを ただいま さかなやと にくやと とうふやが とおった わけで、けっして にくや さかなが ひとりで とおった わけでは ございません。
」
「ははあ、小ぞう うまく にげたな。
」よしみつ公は思わずニッコリとしましたが、すぐギュッと一休さんをにらみつけて、グッとそばの刀を一休さんに突きつけると、
「これ、周恵(しゅうえん)、街道ならば武士も通るであろう。速やかにこの武士を通してみよ」
さあ、大変な難問です。
刀を通したら、死んでしまいます。
が、一休さんは平気で、
「いや、むやみやたらにはお通しできません」
「なぜじゃ」
「おそれながら申し上げます。ただいまは世の中も静かではありますが、まだまだ刀をさした盗賊もおれば、将軍様に手向かいしようと狙っている者もあるかもしれません。
魚屋や肉屋や豆腐屋はそんな悪いことをしませんが、刀をさした武士は、いちいち調べないと通すことはできません」
一休さんはまんまといい逃れてしまいました。
ことに将軍様に手向かいする者がいるかもしれない。
それを調べないで通すわけにはいかない、と言ったのが、とても将軍様のお気に召したので、将軍様は、
「周恵、でかしたッ!」
と、大喜びで、
「周恵、これからもよくよく学問してりっぱな僧侶になれよ。それ、周恵にご褒美をとらせよ」
と家来に命じて、たくさんのご褒美を周恵に与えました。

本当の僧

しかし一休さんは、こんなトンチ問答ばかりしていたのではありません。
和尚様について熱心に学問にはげんでいました。
それで、一休さんは本当の人間の道、本当の僧の道というものもだんだんわかっていきました。
あるときの事でした。
一休さんが和尚様の使いで町を通りますと、
「もしもし、あなたは安国寺(あんこくじ)の小僧さんではございませんか」
と、ひとり見知らぬおばあさんが一休さんを呼びとめました。
「はい、そうです。安国寺の周恵です。なにかご用でしょうか」
一休さんが驚いて立ちどまると、おばあさんは一休さんを拝むようにして、
「やっぱり仏様のお導きです」
と、言います。
が、一休さんはなんのことかわかりません。
「どうしたのですか、おばあさん」
「はい、はい。実はけさ早くおじいさんが亡くなったのです。どうぞ引導(いんどう)を渡していただけないでしょうか。もしもお願いができれば、仏も浮かばれます」
「でも、おばあさん、それでしたらあなたの檀家寺(だんかでら)にお願いしたらよくはありませんか」
「それがだめでございます。私の家は おじいさんの長わずらいで、一文のお金もありません。けさお寺に引導を渡してくださいと頼みに行きましたら、お寺さんでは、私が布施(ふせ)を出せないことを知っていて、来てくれません。どうぞお願いします」
おばあさんは悲しそうに涙を流してぴたりと地べたに座り、一休さんに手を合わせて頼みました。
「そうですか」
一休さんはぐっと胸が熱くなりました。
おばあさんがかわいそうなのと、それよりも布施が出せないからといって、お経も上げてやらないその寺の僧に対する怒りのためでした。
仏教の元を開かれたお釈迦様は王子の身分を捨てて、山に入り、乞食のような暮らしをしながら、だれにでもおんなじにお経を読んでくれました。
ところがそのころの僧の中にはお金持ちや、えらいひとにばかりこびへつらって、たくさんのお金をもらい、ぜいたくをすることばかり考えている僧がたくさんいました。
そんなことは僧としては、一番悪いことです。
本当の僧の道をみっちりと心の中にいれている一休さんは、はらわたが煮えくりかえるほど嫌な気持ちになりました。
「ああ、なげかわしいことだな」
そう思うと、
「そうですか。それは困りましょう。それではわたしがお経を読んであげましょう」
と言って、一休さんはすぐおばあさんと一緒におばあさんの家に行きました。なるほど、おばあさんの家はひどい家でした。
屋根も壁もくずれかかり、ちょっとの風にもふっとんでしまいそうなきたない家です。
「さあおばあさん、おきょうを読んであげましょう。」
一休さんは心をこめておきょうをあげてやりました。
おばあさんは、
「あなたは生き仏(いきぼとけ)さまです。」
と言って喜びました。

口と手

さてまた一休さんのとんち話にうつりましょう。
ある日のことです。
和尚さまが、一休さんを呼んで、
「周恵(しゅうえん)、本堂のお灯明(とうみょう)を消してきなさい。」
といいつけました。
「はい。」
一休さんはすたすたと本堂に行って、ふっふと、お灯明をふきけしました。
すると、これを見ていた和尚さまが、また、
「周恵、周恵、ちょっとおいで。」
と呼びました。
「はい、なんでございますか。

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