もう おまえは この いおりを そつぎょうして いいぞ。
」
「はい。
みな おしょうさまの ごおんで ございます。
」
「ついては、おまえに さしょうを あたえたい。
」
さしょうと いうのは、いまの そつぎょうしょうしょと おなじものです。
わしの もとで 五ねんあまり こっくべんれいして、ぶっきょうの おうぎに たっしたと いう しるしです。
かそうさまの さしょうは、どんな りっぱな てらの じゅうしょくにも なれる 高い ねうちの あるものです。
が、一休さんは いいました。
「おしょうさま、ありがとうございます。
でも、わたしは ごじたい いたします。
」
「いらぬか?」
おしょうさまは やさしく いいました。
「はい……。
」
「一休よ。
おまえは わしの あとを ついで、大とくじの じゅうしょくにし てもらわねばならぬ。
それには この さしょうが いるのじゃ。
」
かそうさまは 一休さんを じぶんの あとつぎにして、むらさき野の 大とくじの じゅうしょくに しようと して いたのでした。
「はい。
おしょうさまの おなさけに そむくようで こころが いたみますが、わたしは てらの じゅうしょくには なりたく ございません。
てらの じゅうしょくになれば、いろいろ わずらわしい 人とも、また えらい人とも つきあわねば なりません。
そう すると わたしの こころは けがれます。
それよりも わたしは いっしょう ひとの みちを さぐり、ほとけの みちを たずねる きゅうどうしゃと して おくりたいと おもいます。
」
かそうさまは それを きくと、
「そうか。
一休、よくいった。
わしも そのみちを あゆみたいと おもった くらいじゃ。
一休よ、おもう みちを あるくが よい。
」
と、いって、一休さんを はげまして くれました。
ある日、一休さんは おしょうさまの ゆるしを えて どこへとも しれぬ たびに でました。
てんぐの どうじょう
たびに でた 一休さんは、いつか えちぜんのくにの たけう と いう町を あるいて いました。
えちぜんの くには、いまの ふくいけん です。
このまちに ありた はやと という けんじゅつの せんせいが いて、大きな どうじょうを かまえて いました。
一休さんは、まちの ひとから、この けんじゅつの せんせいは、うでは りっぱだが、こころが わるく、いつも うでを はなに かけては、まちの ひとに めいわくを かけ、まちの ひとから はなつまみに されて いると いうことを ききました。
一休さんは ひょっこりと その どうじょうの まえを とおりかかりました。
「ああ、ここが うわさにきく てんぐの どうじょうか。
」
一休さんが そう つぶやいたとき、どうじょうの まどから くびを だした ひとりの もんじんが、ふしぎそうに 一休さんの すがたを ながめました。
たびに でた 一休さんは いつも 木刀を こしに さし、尺八を ふいて いたと いうことです。
もんじんは 木刀を こしに さした こじきぼうずを、ふしぎに おもったのです。
その もんじんが一休さんの ひとりごとを、ききつけて、
「おい、ぼうず、てんぐの どうじょうとは なんだ。
」
と、さけんだので、ほかの もんじんも たくさん まどぎわに あつまってきて、
「なんだ、なんだ。
」
と、さわぎだしました。
「あの ぼうずが へんな ことを いいやがったんだよ。
」
「けしからん ぼうずだな。
」
一休さんは たちどまって、にこにこ もんじんたちを ながめて いましたが、なにを おもったか、ずかずかと どうじょうの げんかんに はいって いって、
「たのもう。
」
と、こえを かけました。
すると 目つきの わるい もんじんが でてきて、
「これは たびの ぼうさん、どちらから おいでか?」
「うん、あちらから きた。
」
「いや、うまれた ところは どこかと きいているのだ。
」
「ははは、ききかたが まちがって いる。
」坊主には生まれた土地がないものじゃ。無理にいえば天竺からか。」
門人はむっとしました。
「ここは清き道場じゃ。こじき坊主などの来る所ではない。何かほしければ台所にまわれ。」
「なるほど。」
一休さんはくるりと向きをかえて、道場の勝手口にまわりました。
そして大ごえでいいました。
「この道場は、横車を押しては町のひとを苦しめ、大もうけをしているそうじゃから、かねもちだろう。わしははらがへった。ごちそうをたのむ。」
ほかの門人がでてきましたが、一休さんずうずうしくどなっているので、かんかんに怒って、
「せっかくだが、ここは武芸の道場だ。こじき坊主にめぐむものなどない。はらがへったらめしやに行け。」
「何かほしかったら、勝手口にまわれと言ったぞ。」
このさわぎを聞きつけておくにおいた先生が、
「なんじゃ、そうぞうしい。」
「先生、こじき坊主がめしをくわせろ、と言っています。先生のことを天狗と言っています。」
「台所にとおして、めしをくわしてやれ。」
門人は先生がそう言うので、
「坊さん、こちらに来てください。」
「それはかたじけない。」
一休さんはわらじをぬいで、どんどん道場はいり、上座にある先生のざぶとに、どっかとあぐらをかいて、
「ちょっとことわっておくが、わしはまずいものはきらいじゃ。たんとおいしいものをもってみいれ。」
「坊さん、そこはちがいます。台所に来てください。」
「いや、ここのほうがよい。」
門人はまた先生の部屋にきて、
「先生、こじき坊主が先生のざぶとにすわって、いばっています。」
「そうか。」
なにかわけがありそうだと思ったらしく、先生が道場にでてきて、
「これこれ、道場には道場の礼儀がある。かっ手なことをしてはかんらん。」
「もんくを言うまえにごちそうをたのむ。」
道場の先生もおこってしまいました。
「あまりかっ手なことをすると、すててはおかんど。」
「どうなさろうと言うのじゃ。」
先生はふと一休さんのさしている木刀をみて、
「おや、坊さんはけんじゅつをなさるか?」
「いや、いたさぬ。」
「では、その木刀はなんのためにもちじゃ。」
「よのなかのせものにみせるためじゃ。」
「にせもの?」
「そう。よのなかにはこの木刀のようなにせものがたくさんいる。こうしてこしにさしていると、かたなのようにみえるが、木刀はかたなのにせものじゃ。」
「わしをにせものだと言うのか?」
「おまえもそう思うだろう。」
「くそ坊ずッ!」
と、先生はまっかになって怒りました。
いきなりそこにあった木刀をとりあげると、やっとばかりにふりあげ、
「坊ず、もいちどいってみろ。ただではおかぬぞ。」
が、一休さんはへいぜんとしています。
「にせもの、どこからでもうってこい。」
門人たちは、ああ、かわいそうに、このこじき坊ずあたためをたたきわられるだろう、とじっとみつめています。
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