初級翻訳・三人の糸くり女 第1話

グリム ヴィルヘルム・カール

むかしむかし、あるところに、ひとりの女の子がおりました。
この子はとてもなまけもので、糸をつむぐのが大きらいでした。
お母さんがいくら注意しても、どうしてもお母さんのいうことをききませんでした。
とうとう、お母さんはがまんがしきれなくなって、あるとき、怒りにまかせて女の子をぴしゃりとぶってしまいました。
すると、女の子は大声でわあわあ泣きだしました。
ちょうどそのとき、お妃さまが豪華な馬車にのって通りかかりました。
お妃さまは、その泣き声をききつけて、馬車をとめさせました。
それから、家の中へはいっていって、お母さんに、
「道のほうまで泣き声がきこえますが、どうしてそんなにこの子をぶるのですか?」
と、たずねました。
するとお母さんは、自分の娘がなまけてばかりいることをほかの人に知られるのがはずかしかったものですから、このように言いました。
「この子に糸くりをやめさせることができないものでございますから。
この子は年がら年じゅう、糸くりをしたがるのですが、わたくしどもは貧乏で、アサを手に入れることができないのでございます。」
それをきいて、お妃さまはこうこたえました。
「あたしは糸くりの音をきくのが大すきなのです。
あの、糸車のブンブンいう音をきくぐらい、楽しいことはありません。
おまえの娘を、いますぐお城によこしなさい。
あたしのところにはアサがたくさんありますから、すきなだけ糸くりをさせてあげましょう。」
お母さんは心の底からよろこびました。
こうして、お妃さまはお女の子をいっしょにつれていきました。
お城につきますと、お妃さまは女の子を、上のほうにある三つならんだ部屋につれていきました。
見ると、どの部屋にもそれはそれはみごとなアサが、床から天井までぎっしりつまっています。
「さあ、このアサをつむいでおくれ」
とお妃さまがいいました。
「これをのこらずつむいでしまったら、あたしの一番上の息子のよめさんにしてあげますよ。
おまえは貧乏ですけど、そんなことはかまいません。
いっしょうけんめいせいだしてはたらくことが、なによりの嫁入りじたくですからね。」
女の子は、びっくりしてしまいました。
だって、こんなにたくさんのアサでは、三百歳くらいのおばあさんになるまで、毎日朝から晩までひっきりなしにつむいだとしても、とてもつむぎきれるわけがありませんもの。
女の子はひとりになりますと、しくしく泣きだしました。
そうして、三日のあいだ、手も動かさずに泣きつづけていました。
三日めの日に、お妃さまがやってきました。
お妃さまは、まだなんにもつむいであきらかになっていないのを見ますと、ふしぎに思いました。
けれども女の子は、
「お母さんのうちを遠くはなれてまいりましたものですから、それがとてもかなしくって、まだお仕事にとりかかれなかったのでございます」
と、いいわけをしました。
お妃さまは、それも無理もないと思いましたが、部屋をでていくときにこう言いました。
「あしたは、お仕事をはじめてくれなければいけませんよ。」
女の子はまたひとりになりますと、どうしていいのかわからなくなって、かなしみながら窓ぎわに歩いていきました。
すると、むこうから三人の女がやってくるのが見えました。
そのうちのひとりは、ひらべったい、ものすごく広い足のうらをしていました。
もうひとりは、大きな下くちびるがあごまでぶらさがっていました。
三人めの女は、はばのひろい大きな親指をしていました。
三人の女は窓のまえに立ちどまって、上を見あげて、
「どうかしたの?」
と、女の子にたずねました。
女の子は、自分のこまっているわけを話しました。
それをききますと、三人の女たちはたすけてあげようと言って、
「おまえさんがわたしたちを婚礼のせきによんでくれてね、わたしたちのことをはずかしがらずにおばさんたちだと言って、おまえさんの食卓につかせてくれるなら、そのアサをかたっぱしからつむいであげよう。
それも、いくらもたたないうちにやってしまうよ。」
「ええ、そうするわよ!」
と女の子はこたえました。
「さあさあ、はいってきて、すぐに仕事をつづけてちょうだい!」
そこで、女の子は、この三人のきみょうな女たちを中に入れて、さいしょの部屋にすこしばかり場所をつくってやりました。
すると、女たちはそこに腰をおろして、さっそく糸をつむぎにかかりました。
ひとりが糸をひきだして、車をふみました。
するともうひとりが、その糸をしめらして、三人めの女がそれをぐるぐるまわして、指でうけ盤をたたきました。
そして、この女がたたくたびに、いくらかのより糸が下へおちました。
しかもそのより糸は、まことにみごとにつむいであるのでした。
女の子は、この三人の糸くり女をかくしておいて、お妃さまの来るたびに、つむぎあがったより糸をたくさん見せました。ですから、お妃さまは言葉をつくして女の子をめいっぱいほめました。
最初の部屋がからっぽになると、こんどはふたばんめの部屋にうつりました。
こうして、とうとう三ばんめの部屋も、あっという間にかたづいてしまいました。
そこで、三人の女たちは女の子におわかれを告げて、こう言いました。
「あたしたちに約束したことを、わすれるんじゃないよ。
きっとおまえさんのしあわせになることだからね。」

女の子がお妃さまに、からっぽになった部屋と、つむぎあがった糸の大きな山を見せますと、お妃さまはさっそく婚礼(こんれい)のしたくをすすめました。
花むこである王子さまも、こんなにてきぱきとよく働くおよめさんをもらえることを大よろこびして、女の子のことをそれはそれはベタぼめしました。
「じつは、あたしにはおばが三人いるのです」
と、女の子はお妃さまと王子さまに言いました。
「いままでこのおばたちが、とっても親切にしてくれたのです。だから、こんなにしあわせな身になっても、おばたちのことをわすれたくはありません。
どうか、おばたちを結婚式によんで、いっしょのごちそうを食べていただくようにおゆるしいただけないでしょうか?」
「いいとも、ぜひそうしておくれ!」
とお妃さまと花むこはこたえました。

さて、いよいよ楽しいお祝いの日がはじまりました。
そのとき、とっても変わったかっこうをした三人の女たちがやってきました。
すると、花よめはすすんでいって、こう言いました。
「おばさまがた、よくおいでくださいました!」
花むこの王子さまは、それを見てびっくりして言いました。
「おいおい、きみはまた、ずいぶんヘンテコな人たちとお知り合いなんだねえ。」

それから花むこは、ひらべったい足をしている女のところへいって、きいてみました。
「あなたはどうして、そんなにものすごくいびつな、ひらべったい足をしているのですか?」
「車をふむからだよ、ずーっとふんできたからだよ!」
と、その女はこたえました。

そのつぎに、花むこはもうひとりの女のところへいってききました。
「あなたはどうして、そんなに大きな下くちびるがぶらさがっているのですか?」
「糸をしめらせるために、なめるからだよ、ずーっとなめてきたからだよ!」
と、その女はへんじをしました。

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