仕方がないので、こう言い訳をしました。
「あたし、野原でつい眠ってしまったの」
あくる日、母親は今度は三つ目に向かって言いました。
「今日は、おまえが一緒にお行き。ふたつ目が外で何か食べていないか、誰か食べ物や飲み物を持ってきてやる人がいないか、よく気をつけて見てくるんだよ。こっそり何かを食べたり飲んだりしているに決まっているんだから」
そこで三つ目はふたつ目のところへ行って、こう言いました。
「今日はあたしが一緒に行くわ。あんたがちゃんとやぎの番をして、草をたくさん食べさせているか見ていてやるから」
けれども、三つ目が心の中で何を考えているか、ふたつ目にはちゃんと分かっていました。ふたつ目はやぎを背の高い草むらの中に追い込むと、こう言いました。
「ねえ、三つ目ちゃん。ここに座ろうよ。あたし、何か歌を歌ってあげるわ」
三つ目は腰を下ろしました。うんと歩いたうえに、お日さまに照りつけられたので、すっかりくたびれて眠くなっていました。ふたつ目は、また前と同じ歌を歌い始めました。
「三つ目ちゃん、起きてるの?」
ところが、その次に「三つ目ちゃん、寝てるの?」と歌わなければいけないのに、ついうっかりして、こう歌ってしまったのです。
「ふたつ目ちゃん、寝てるの?」
そして、それを何度も何度も繰り返して、こう歌い続けました。
「三つ目ちゃん、起きてるの?」「ふたつ目ちゃん、寝てるの?」
と、歌い続けました。
それを聞いているうちに、三つ目の、三つある目のうち、ふたつはまぶたが重なって、眠ってしまいました。
ところが、三番目の目だけは、おまじないをかけられなかったので、眠りませんでした。
それでも三つ目は、この目も閉じて、眠っているようなふりをしました。
ですが、それは三つ目の作戦だったのです。
本当は細く目を開けて、何もかも、しっかり見ていたのでした。
ふたつ目のほうでは、三つ目がぐっすり寝てしまったと思い込みました。
そこで、いつもの言葉を唱えました。
「メエメエ やぎさん、テーブルだして」
ふたつ目はテーブルに向かって、好きなだけ食べたり飲んだりしました。
それから、今度はテーブルが消えてなくなるように、
「メエメエ やぎさん、テーブルさげて」
と、言いました。
ところが三つ目は、最初から最後まで、すっかり見ていたのです。
それからふたつ目は三つ目のところへ行って、三つ目を起こして言いました。
「まあ、三つ目ちゃんったら、寝てしまったのね。
さぞ、いい番ができたでしょうねえ。
さあ、もううちへ帰りましょうよ」
こうして、ふたりは家に帰りました。
ふたつ目は、今日もまた何も食べません。
それを見て、三つ目は母親に言いました。
「あの生意気なやつが、どうして何も食べないのか分かったわ。
あいつったら、野原へ行くとね、やぎに向かって『メエメエ やぎさん、テーブルだして』っていうのよ。
そうすると、すーっとテーブルがあらわれてくるわ。
そのテーブルには、びっくりするくらいのごちそうがいっぱい並んでいるのよ。
うちで食べるものなんか、比べものにもならないわ。
それから、おなかがいっぱいになると、今度は『メエメエ やぎさん、テーブルさげて』っていうの。
そうすると、みんな消えてなくなっちゃうわ。
あたし、ちゃんと見たんだから。
あいつにおまじないをかけられて、ふたつの目は眠ったの。
でも、運よくひたいの真ん中の目だけは、眠らずにいたのよ」
それを聞くと、母親はねたましい気持ちでいっぱいになりました。
そして思わず、
「おまえって子は、あたしたちよりも楽をしようってのかい。
そんなお楽しみをいつまでもさせるもんか!」と、どなりつけました。
母親はすぐさま、牛や羊を殺す包丁を持ってきて、やぎの心臓めがけてぐさりと突き刺しました。
やぎはばったり倒れて、死んでしまいました。
それを見ると、ふたつ目は悲しくて悲しくてたまりません。
外に出ていって畑のあぜに座り、わあわあ泣き出しました。
すると、いつかの女の人が、ふいに目の前にあらわれてきて、
「ふたつ目や。何を泣いているの」と、たずねました。
「だって、泣かずにはいられませんもの。
あなたの教えてくださった言葉を唱えると、あのやぎさんは毎日毎日、おいしいごちそうを出してくれたんですよ。
それなのに、そのやぎさんがお母さんに殺されてしまったんですもの。
あたし、これからはまた、おなかがすいてつらい思いをしなくちゃなりません」
と、ふたつ目は答えました。
すると、女の人が言いました。
「ふたつ目や。それでは、あたしがいいことを教えてあげましょう。
姉さんと妹に頼んで、殺されたやぎの腹わたをもらっておいで。
そして、それを門の前の地面の中に埋めなさい。
そうすれば、今に幸せになれますよ」
こういうと、女の人の姿は消えてしまいました。
そこでふたつ目はうちに帰ると、姉さんと妹に向かって、
「ねえ、お願い。あたしのやぎのどんなところでもいいから、少しわけてちょうだい。
いいところでなくてもいいわ。腹わただけでいいのよ」と、言いました。
それを聞くと、姉さんも妹も、にやにや笑って、
「そんなものだけでいいんなら、やるよ」と、言いました。
こうしてふたつ目は腹わたをもらいました。
そして夜になると、女の人から教わったとおりに、こっそり門の前に埋めました。
あくる朝、みんな一緒に起きました。
みんなで門の外へ出てみますと、これはまた、どうしたことでしょう。
それはそれは不思議な美しい木が一本、はえているではありませんか。
銀の葉がしげっていて、葉のあいだからは、金のりんごがキラキラ光っています。
きっと世界じゅうを探してみても、こんなに美しくて尊いものはないでしょう。
けれども、こんなところに、こんな立派な木がどうしてひと晩のうちにはえたのでしょう。
誰にもわけがわかりませんでした。ただ、ふたつ目だけは、その木がやぎの腹わたからはえてきたのだと気がついていました。なぜなら、その木が生えている場所は、ちょうどふたつ目が腹わたを埋めた場所だったからです。そのとき、母親がひとつ目に向かって、「おまえ、ちょっと木にのぼって、あの実をとってきておくれ」と言いました。ひとつ目は、さっそく木にのぼっていきました。ところが、金のりんごをつかもうと手を伸ばすと、枝がするりと手から逃げていってしまいます。何度も何度もやってみましたが、いくらやっても同じことでした。どんなに体をひねってみても、手を伸ばしてみても、どうしてもりんごはひとつもとれないのです。その様子を見ると、母親はこんどは三つ目に向かって、「三つ目や。こんどはおまえがのぼってごらん。おまえなら目が三つもあるから、ひとつ目よりはまわりがよく見えるだろう」と言いました。そこで、ひとつ目が滑り降りてきて、かわりに三つ目がのぼっていきました。でも、三つ目もやっぱりうまくいきません。三つ目がどんなにねらいをつけても、金のりんごはひらりひらりと逃げていってしまうのです。とうとう母親はがまんできなくなって、自分で木にのぼっていきました。けれども、母親もひとつ目や三つ目と同じでした。
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