初級翻訳・白雪姫 第1話

グリム ヴィルヘルム・カール

むかしむかし、ちょうど真冬の寒い時期のことでした。
空から雪が、まるで鳥のフワフワした羽のように、ヒラヒラと舞い落ちていました。そんな中、ひとりの女王さまが、黒檀(こくたん)という黒い木でふちどられた窓のそばにすわって、楽しそうにぬいものをしておいででした。

女王さまは、ぬいものをしながら窓の外の雪をながめていましたが、うっかり指を針でチクリとさしてしまいました。
すると、真っ白な雪の上に、ポタ、ポタ、ポタと、三滴の赤い血がおちました。
まっ白な雪の中で、そのまっ赤な血の色がものすごくきれいに見えたので、女王さまはひとりで、こんなことを思いました。
「ああ、どうにかして、雪のようにからだが真っ白で、血のように赤いほっぺたをしていて、この窓の木わくみたいに髪の毛が黒い子どもがほしいものだなあ」と。

それから少し時間がたち、女王さまはかわいい女の子を産みました。そのお姫さまは、肌は雪のように真っ白で、ほっぺたは血のように赤く、髪の毛は黒檀のようにツヤツヤと黒かったのです。
そのため、お名前を「白雪姫(しらゆきひめ)」とつけました。
けれども、女王さまは、この白雪姫をお産みになるとすぐになくなってしまいました。

それから一年以上がすぎたころ、王さまは新しいお妃(きさき)さまをむかえました。
その新しい女王さまは顔立ちの美しい人でしたが、ものすごくうぬぼれが強く、わがままな性格でした。じぶんよりもほかの人がすこしでも美しいと、くやしくてじっとしていられない人だったのです。
実は、この女王さまは、昔からふしぎな鏡をひとつ持っていました。
その鏡の前に立ってのぞきこむときは、いつもこう言っていました。
「鏡よ、鏡、壁にかかっている鏡よ。この国じゅうで、だれがいちばん美しいか、教えておくれ」

すると、鏡はいつもこう答えていました。
「女王さま、あなたこそ、この国でいちばん美しい方です」

それを聞いて、女王さまは安心してニコニコするのでした。というのも、この鏡はけっしてウソをつかないということを、女王さまはよく知っていたからです。

そのうちに、白雪姫はだんだんと大きくなり、ますます美しくなっていきました。
お姫さまがちょうど七才になられたときには、まるで青々と晴れ渡った日の空のように美しくなり、なんと女王さまよりもずっときれいになってしまったのです。

ある日、女王さまはいつものように鏡の前にいって、こうたずねました。
「鏡よ、鏡、壁にかかっている鏡よ。この国じゅうで、だれがいちばん美しいか、教えておくれ」

すると、鏡はこう答えたのです。
「女王さま、ここではあなたがいちばん美しい。けれども、白雪姫はあなたよりも千倍も美しいです」

女王さまはこれを聞いて、びっくり仰天(ぎょうてん)し、ものすごくねたましくなって、顔を黄色にしたり青にしたりして怒りました。
それからというものは、女王さまは白雪姫を見るたびに、いじわるをするようになりました。
心の中には、ねたみとプライドが野原の雑草のようにどんどん生い茂ってきたので、もう昼も夜も心が休まらず、じっとしていられなくなってしまったのです。

そこで女王さまは、ひとりの狩人(かりうど)を自分の部屋に呼んで、こう命令しました。
「あの小娘を森の中へ連れていっておくれ。あたしはもう二度とあの子の顔を見たくないんだから。おまえはあの子を殺して、その証拠(しょうこ)に、あの子の血をこのハンケチにつけて持って帰るんだよ」

狩人はその命令にしたがって、白雪姫を森の奥へ連れていきました。
狩人が狩りのときに使う鋭い刀をぬいて、なにも知らない白雪姫の胸を突き刺そうとしたとき、お姫さまはわっと泣き出してこう言いました。
「ああ、狩人さん、どうかわたしを殺さないで! そのかわり、わたしは森のずっと奥に入っていって、もうお城には二度と帰らないから!」

これを聞いた狩人は、お姫さまがあまりにも美しかったので、すっかりかわいそうになってしまいました。
「しかたない、早くお逃げなさい。まったく、かわいそうなお姫さまだ」と言いました。
心の中では、「どうせすぐに森の猛獣(もうじゅう)が出てきて、食い殺されてしまうだろう」と思いましたが、自分の手でお姫さまを殺さずにすんだので、胸の上の重い石が取れたようにホッとした気持ちになりました。
ちょうどそのとき、イノシシの子供がむこうから飛び出してきたので、狩人はそれを仕留めて血をハンケチにつけ、お姫さまを殺した証拠として女王さまのところに持ち帰ったのです。

女王さまはそれを見てすっかり安心し、白雪姫はもう死んだものと思い込んだのでした。さて、かわいそうなお姫さまは、大きな森の中で、たったひとりぼっちになってしまって、こわくってたまらず、いろいろな木の葉っぱを見ても、どうしてよいのか、わからないくらいでした。
お姫さまは、とにかくかけだして、とがった石の上をとびこえたり、イバラの中をつきぬけたりして、森のおくの方へとすすんでいきました。
ところが、けだものはそばをかけすぎますけれども、すこしもお姫さまをきずつけようとはしませんでした。
白雪姫は、足のつづくかぎり走りつづけて、とうとうゆうがたになるころに、一軒の小さな家を見つけましたので、つかれを休めようと思って、その中にはいりました。
その家の中にあるものは、なんでもみんな小さいものばかりでしたが、なんともいいようがないくらいりっぱで、きよらかでした。
そのへやのまん中には、ひとつの白い布をかけたテーブルがあって、その上には、七つの小さなお皿があって、またその一つ一つには、さじに、ナイフに、フォークがつけてあって、なおそのほかに、七つの小さなおさかずきがおいてありました。
そして、また壁ぎわのところには、七つの小さな寝どこが、すこしあいだをおいて、じゅんじゅんにならんで、その上には、みんな雪のように白い麻の敷布がしいてありました。
白雪姫は、たいへんおなかがすいて、おまけにのどもかわいていましたから、一つ一つのお皿から、すこしずつやさいのスープとパンをたべ、それから、一つ一つのおさかずきから、一滴ずつブドウ酒をのみました。
それは、一つところのを、みんなたべてしまうのは、わるいと思ったからでした。
それが、すんでしまうと、こんどは、たいへんつかれていましたから、ねようと思って、一つの寝どこにはいってみました。
けれども、どれもこれもちょうどうまくからだにあいませんでした。
長すぎたり、短すぎたりしましたが、いちばんおしまいに、七ばんめの寝どこが、やっとからだにあいました。
それで、その寝どこにはいって、神さまにおいのりをして、そのままグッスリねむってしまいました。
日がくれて、あたりがまっくらになったときに、この小さな家の主人たちがかえってきました。
その主人たちというのは、七人の小人でありました。
この小人たちは、毎日、山の中にはいりこんで、金や銀のはいった石をさがして、よりわけたり、ほりだしたりするのが、しごとでありました。
小人はじぶんたちの七つのランプに火をつけました。
すると、家の中がパッとあかるくなりますと、だれかが、その中にいるということがわかりました。

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