初級翻訳・「テーブルよ、ごはんの用意」と、金貨をうむロバと、「こん棒、ふくろから」 第2話

「テーブルよ、ごはんの用意」と、金貨をうむロバと、「こん棒、ふくろから」

ちゃんとしるしをつけて、ほかの仕立屋仲間には二度と顔だしができないようにしてやらぁ!」
仕立屋さんはおおいそぎで部屋へかけあがり、ひげそり用のかみそりを持ってきました。
そして、ヤギの頭に石けんをたっぷりぬりつけると、つるつるの頭をじぶんの手のひらのようにきれいにそりあげてしまいました。
さらに、ものさしでは手ぬるいと思ったのでしょう、仕立屋さんはむちを持ちだしてきて、それでヤギをピシピシとうちました。ヤギは大またにとんで、まっしぐらににげていってしまいました。
仕立屋さんは、こうしてほんとうにひとりぼっちになってすわっていると、なんだかとてもかなしくなってきて、追いだしてしまったむすこたちをもういちどよびもどしたくなりました。
ところが、そのむすこたちはどこへいってしまったのか、だれひとり知っているものはいませんでした。
いちばん上のむすこは、ある指物師(さしものし)のところへ年季奉公(ねんきほうこう)にいったのでした。
そこでむすこはいっしょうけんめい、うまずたゆまず仕事をぼえました。
やがて年季があけて、いよいよ国ぐにをまわって修業して歩こうというときになりましたら、親方が小さなテーブルをこのむすこにくれました。
そのテーブルは、見たところではべつにかわったところもなく、ありふれた木でできているのですが、ただそれには、たいへんつごうのいい魔法のような特徴がありました。
それはですね、このテーブルをすえて、「テーブルよ、ごはんの用意」と言いますと、このありがたいテーブルの上には、すぐにきれいなテーブルクロスがかけられるのです。
そしてその上には、お皿が一枚と、そのわきにはナイフとフォークが並び、さらに、煮たものや焼いたものをいれた小さな鉢が、ずらりと並ぶのでした。
しかもそればかりか、赤ブドウ酒の入った大きなコップまでがきらきらと光って、人の心を楽しくさせてくれるのでした。
わかい職人は、こう思いました。
(これさえあれば、一生のあいだ、くらしには絶対にこまらないぞ。)
そして、いいごきげんで世の中を歩きまわりました。宿屋がよくてもわるくっても、また、そこに食べものがあってもなくても、そんなことはまるで気にもとめませんでした。
また、気のむいたときには宿屋にはとまらずに、畑でも、森でも、草原でも、どこでも好きなところで背中からあの小さなテーブルをおろして、じぶんのまえにすえ、「テーブルよ、ごはんの用意」と言うのでした。すると、職人のほしいと思うものは、なんでも手に入りました。

職人は、こうしていろんな土地を歩きまわっているうちに、とうとう、お父さんのところへ帰ってみようという気になりました。
もう今なら、お父さんの怒りもおさまっているでしょうし、それに、この「ごはんの用意」のテーブルを持って帰れば、喜んでまた家に入れてくれるだろうと思ったのです。

こうして、家へ帰る途中で日が暮れたので、とある宿屋に泊まりました。
宿屋はお客でいっぱいでした。
お客たちは職人を喜んで迎え入れ、自分たちのほうへ来て一緒に食べるよう誘ってくれました。
さもないと、食べるものはなかなか手に入らないだろうというのです。

「いや、あなたがたの食べるものをすこしでもわけてもらおうとは思いません。
それよりも、あなたがたがわたしのお客になりなさい」
と、指物師はこたえました。

みんなは笑って、この男は自分たちをからかっているのだろうと思いました。
けれども、指物師は小さな木のテーブルを部屋のまんなかにすえて、
「テーブルよ、ごはんの用意」
と、言いました。

するとどうでしょう、あっという間に、そのテーブルの上にはごちそうがずらりと並んだではありませんか。
それは、とてもこの宿屋の主人などには出せそうもない、上等なものばかりでした。
その料理からたちのぼるおいしそうなにおいが、お客たちの鼻にぷんぷんとにおってきました。

「みなさん、遠慮なくめしあがってください」
と、指物師は言いました。

お客たちは、指物師の気持ちがわかると、二度も誘われるまでもなく、すぐにテーブルのそばへ寄っていきました。
そして、めいめい自分のナイフを取りだして、ものすごい勢いでごちそうにかぶりつきました。
みんなにとってなによりも不思議に思われたのは、ひとつの皿がからっぽになりますと、すぐまた山盛りの皿が、ひとりでにそのかわりにでてくることでした。

宿屋の主人は隅っこに立って、この様子を眺めていました。
主人はあきれすぎて、なんと声をかけていいのかわかりませんでしたが、
(こういう料理人がいたら、ずいぶん役に立つだろうなあ……)
と、心の中で思いました。

指物師となかまの人たちは、夜のふけるまでにぎやかに騒いでいましたが、やがてみんなは眠りにつきました。
若い職人も寝床に入りました。
あの魔法のテーブルは壁に立てかけておきました。

主人はいろんなことを考えて、ちっとも落ち着くことができませんでしたが、そのうちに、ふと、がらくた部屋の中にこのテーブルにそっくりな古いテーブルがあるのを思いだしました。
そこで、主人はそうっとそれを持ちだしてきて、魔法のテーブルとこっそりとりかえておいたのです。

あくる朝、指物師は宿代をはらって、あのテーブルを背中にしょいました。
もちろん、偽物を持っていようとは夢にも知らず、旅をつづけていきました。

お昼ごろ、指物師はお父さんのところに着きました。
お父さんは大喜びでむすこを迎えました。
「ところで、せがれ、おまえは何を習ってきたんだ?」
とお父さんは尋ねました。

「お父さん、わたしは指物師になりましたよ」
「いい仕事だな。だがおまえ、なにか旅のみやげでも持ってきたか?」
「お父さん、わたしが持ってきたもののなかで、いちばんいいのはこのテーブルですよ」

仕立屋さんはそのテーブルを四方八方からじろじろ眺めていましたが、
「こいつは、おまえがとくに腕をふるって作ったものとは思えないな。古くて、だめな代物じゃないか」
と、言いました。

「ところが、これが〈ごはんの用意〉のテーブルなんですよ」
と、むすこはこたえて言いました。
「わたしがこれをすえて、ごはんの用意をするように言いますとね、すぐに、すばらしいごちそうが並ぶんですよ。しかも、気分がはれるブドウ酒までも出てくるんですからね。遠慮はいりませんから、親類の人やお友だちをみんな呼んでください。みなさんに思う存分ごちそうしてあげましょうよ。なに、このテーブルがみんなのおなかをいっぱいにしてくれるんですから」

呼んだ人たちがみんな集まると、むすこはテーブルを部屋のまんなかにすえて、
「テーブルよ、ごはんの用意」
と、言いました。

ところが、テーブルはぴくりとも動きません。
まるで、人間のことばがわからない、そこらのふつうのテーブルとおなじように、いつまでたってもその上にはなんにも出てこないのです。
これを見て、かわいそうな職人は、テーブルがすりかえられていることに気がついたのでした。そして、自分がまるで嘘つきのようになってしまったため、その場にいるのが恥ずかしくなりました。
親類の人たちは、息子を指さして笑いました。

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