初級翻訳・ならずもの 第1話

ならずもの

オンドリがメンドリに言いました。
「もうクルミが熟す時期になったよ。どうだい、いっしょに山へ行って、お腹いっぱい食べてこようじゃないか。まごまごしていると、リスのやつに全部持っていかれちまうからね」
「いいわね」
と、メンドリが答えました。
「行きましょう。ふたりで楽しく食べてきましょうね」
そこで、ふたりはいっしょに山へ出かけました。とてもいいお天気でしたので、ふたりは夕方まで山にいました。ところがですよ、ふたりがあんまりお腹いっぱい食べすぎたせいか、それとも、少し高慢ちきになってしまったせいか、そのへんのところはよくわかりませんけれど、とにかく、ふたりとも歩いて帰るのがいやになってしまったのです。

そこで、オンドリがクルミの殻で小さな車を作ることにしました。車ができあがると、メンドリはその中に座り込んで、オンドリに言いました。
「おまえさん、車の前に行って、馬代わりに引っ張ったらどうなのよ」
「ふん、ありがたいこった」
と、オンドリは言いました。
「馬の代わりをするくらいなら、歩いて帰るほうがよっぽどいいや。いやなこった、話がちがうもの。御者になって御者台に座るんならいいけど、自分で引っ張るなんてごめんだぜ」

そんなふうに、ふたりが言い争っているところへ、カモがガアガア鳴きながらやってきました。
「やい、泥棒ども! 誰が貴様たちに、俺様のクルミ山へ入っていいと言ったんだ。待ってろ、いま酷い目にあわせてやるからな!」
そう言うが早いか、カモはくちばしを大きく開けて、オンドリにつっかかっていきました。けれども、オンドリも負けてはいません。すばやくカモの体の上にぐんとのしかかって、そのあげく、蹴爪(けづめ)でカモをめちゃくちゃに引っかいたものですから、とうとうカモも降参してしまいました。

そこで罰として、カモは車の前につながれ、車を引っ張ることを承知させられました。オンドリは御者台に座って、御者になりすましました。さてそれから、オンドリはものすごい勢いで車を飛ばしていきました。
「カモ公、力いっぱい走るんだぞ!」

こうしてしばらく走っていくと、歩いているふたりの者に会いました。それは、とめ針とぬい針でした。ふたりは叫びました。
「待ってくれえ、待ってくれえ!」
そしてこう言いました。
「もうすぐ暗くなるだろう。そうすると、ぼくたちにはひと足も歩けないし、道もとっても汚いんだ。ほんの隅っこでいいから、車に乗せてはもらえないかい? 実はふたりとも、町の門の前の仕立屋の宿にいたんだけど、ビールを飲んでいて遅くなっちまったんだよ」

このやせこけたふたりなら、たいして場所もとりません。そこでオンドリは乗せてやることにしました。もっとも、その前に「オンドリとメンドリの足をふまないように」と、厳しい約束をさせましたがね。

夜遅くなって、みんなはある宿屋に着きました。今夜はもうこれ以上先へ行く気はありませんし、それにカモの足取りも危うくなって、あっちへよろよろ、こっちへよろよろするありさまでしたから、みんなはここに泊まることにしました。宿屋の主人は最初は、「うちはもういっぱいでして」などと言って断ろうとしました。それに、この連中がたいしたお客ではなさそうにも見えたのです。

けれども、みんなが「来る途中でメンドリさんが産んだ卵をあげますよ」「このカモは毎日ひとつずつ卵を産むんですが、このカモも差し上げましょう」などと、さかんにうまいことを並べ立てたものですから、とうとう最後には、主人も「それじゃ、今夜はお泊まりなさい」と言いました。そこでみんなはどんどんご馳走を運ばせて、大騒ぎをしました。

あくる朝早く、夜が明けてまだみんながぐっすり眠っているうちに、オンドリはメンドリを起こしました。そして、まず卵を取り出して殻をつついて穴をあけ、中身をふたりですっかり飲んでしまいました。それから、殻をかまどの上に放り投げておきました。次にふたりは、まだ眠っているぬい針のところへ行って、その頭をつまんで主人の椅子のクッションに突き刺しました。それから、とめ針のほうは主人の手ぬぐいに刺しておきました。

こうしておいて、あとはどうにでもなれとばかり、ふたりは野原を飛ぶようにして逃げていってしまいました。カモは外で寝るのが好きだったので、庭で眠っていましたが、ニワトリたちがバタバタと逃げていく音で目を覚ましました。
そしてすぐに小川を見つけると、川下へと泳いでいきました。
そのほうが、車なんかを引っ張るよりもずっと早く進めたからです。

それから二、三時間ほどたったとき、宿屋の主人はようやく羽根布団から起き出して、顔を洗いました。
さて、手ぬぐいで顔を拭こうとしたそのとき、とめ針がすうっと顔をこすったので、おかげで右の耳から左の耳まで、赤いミミズ腫れができてしまいました。
それから主人は、今度は台所へ行って、タバコのパイプに火をつけようと思いました。
ところが、かまどのそばまで来たとき、卵の殻がパチンとはねて、主人の目の中に飛び込んできました。
「今朝は、やけに顔に災難がつくな」
主人はこう言って、むしゃくしゃしながら大きな安楽椅子に腰を下ろしました。
ところが腰を下ろしたとたん、いきなり飛び上がって、
「うう、痛い!」
と叫びました。
今度はぬい針が、さっきよりももっとひどく、しかも頭ではないところを突き刺したのです。

主人はかんかんになって怒り、昨夜あんなに遅くやってきた客たちが怪しいぞ、と思いました。
そこで、すぐさま立ち上がって探しに行きました。
ところが、その客たちは、もうどこかへ出かけたあとでした。
そこで主人は、ああいうならず者は、これからは二度と泊めてやるものかと、かたく心に誓ったのでした。
なにしろ、あいつらときたら、さんざん飲み食いしたあげく、一文も払わずに逃げ出し、おまけにそのお礼として、とんでもないいたずらをやらかすのですからね。

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