……さあひょっとこ人形、鳴け、鳴け、犬の鳴き声!」
すると人形は、「ワン、ワン、ワンワン!」と元気に鳴きました。
「鳴け、鳴け、猫の鳴き声!」
人形は、「ニャア、ニャア、ニャー!」と鳴きました。
「鳴け、鳴け、ネズミの鳴き声!」
人形は、「チュウ、チュウ、チュチュー!」と鳴きました。
「鳴け、鳴け、キツネの鳴き声!」
人形は、「コン、コン、コンコン!」と鳴きました。
「鳴け、鳴け、タヌキの鳴き声!」
すると、見物人たちは大喜びしました。
なにしろ、まだ誰も本物のタヌキの鳴き声を聞いたことがなかったからです。
観客たちはみんなぴたりと静まり返り、耳をすませました。
ところが、いつまでたっても人形は鳴きません。
甚兵衛はもう一度繰り返しました。
「鳴け、鳴け、タヌキの鳴き声!」
それでもやっぱり、人形は一言も鳴きませんでした。
それもそのはず、鳴かないのにはちゃとした理由があります。
人形の中のサルは、タヌキがどんな風に鳴くのか知らなかったのです。
そんな裏事情とは露知らず、甚兵衛は三度めを繰り返しました。
「鳴け、鳴け、タヌキの鳴き声!」
すると人形は、大きな声ではっきりとこう言いました。
「タヌキの鳴き声? そんなの知らない、知らない! キイ、キイ、キャッキャッ!」
それを聞いた途端、小屋の中は沸騰したような大騒ぎになりました!
「タヌキの声なんて人形も知らないってよ!」
「おいおい、人形が自分でしゃべったぞ!」
「いや、やっぱり中のサルの声だ!」
みんなが口々に面白おかしく叫びだし、見物人のほうまでお祭り騒ぎで踊り出してしまいました。
甚兵衛ははじめこそポカンと呆気にとられていましたが、やがて「本日はこれでおしまいでございます!」とうまく挨拶をして、その日の興行を無事に締めくくりました。
小屋の裏で甚兵衛とサルが二人きりになると、サルは顔中から汗を流しながら言いました。
甚兵衛さん、今日ほど困ったことはありませんよ。
タヌキの鳴き声なんて知らないのに、「鳴け、鳴け」って何度も言われて、わたしは「一体どうすればいいんだ」と冷や汗タラタラでしたよ」
「いやあ、ぼくもうっかり口走ってしまって、あとでヤバいなと思ったんだ。でも、お前が『知らない、知らない』ってアドリブで返したのは最高の大成功だったよ!」
それからは、どんな踊りや鳴き声をやるのかを事前にしっかり打ち合わせて、それだけを披露することに決めました。
四
ところがその都に、四、五人でグルになった悪い盗賊の一団がいました。
彼らは甚兵衛の人形の評判を聞きつけ、「あの不思議な人形を盗み出してやろう!」と悪いたくらみを考えました。
そしてある日の夜、盗賊たちは突然甚兵衛の家に押し入り、ぐっすり眠っていた甚兵衛をグルグル巻きに縛りあげると、鋭い刀を突きつけて「人形を出しやがれ!」と脅しました。
甚兵衛はびっくり仰天してあたりを見回しましたが、サルはどこかへ素早く逃げ出してしまてもういません。
ここでにもたもたしていると本当に刀で切られてしまいそうだったので、甚兵衛は泣く泣く人形のある部屋の場所を教えました。
盗賊たちはまんまと人形を奪い取ると、そのまま闇夜へ逃げ去っていきました。
盗賊たちがいなくなったあと、おしいれのすき間に隠れていたサルが、ようやくおそるおそるはい出してきて、甚兵衛の体を縛っていた縄をほどいてくれました。
けれども、すでに盗賊たちは遠くへ逃げたあとだったので、どうすることもできません。
こうなっては、盗賊たちの隠れ家をなんとか探し出して、人形を取り戻すより方法はありませんでした。
それからというもの、昼間は甚兵衛が、夜になるとサルが町へ出て、人形の行方を必死に探し回りました。
しかし、そう簡単には見つかりません。
ちょうど半月ほど過ぎたある日のこと、その日も一日中探し回ってすっかり疲れ果てた甚兵衛が、ぼんやりとうなだれながら家に帰ろうとすると、川のほとりの大きな木の陰で、白いおヒゲを生やした不思議な占い師が机を置き、ニコニコと笑っていました。
甚兵衛はその白ヒゲのおじいさんのもとへ駆け寄り、人形がどこにいるのか占ってもらうことにしました。
おじいさんはしばらく考え込んでいましたが、やがてニヤリと笑ってこう言いました。
「ははあ、なるほど、わかったぞ。
その人形なら、いま『地獄』にいる。
簡単なことだ、取りに行きなさい」
甚兵衛はびっくりして、もっと詳しくいろいろと尋ねようとしましたが、白ヒゲのおじいさんは目をきゅっと閉じたまま、もう二度と何も答えてくれませんでした。甚兵衛は家に帰ると、その話をサルに聞かせて、占いのおじいさんの言葉の意味をふたりで一緒に考えました。
「地獄にいるから、取りに行くのは簡単なことだ」なんて言われたけれど、どういう意味なのかどうしても分かりません。
ふたりは一晩中、頭を悩ませました。
そして朝になると、ふたりはそれぞれ「なるほど、これに違いない!」という名案を思いつきました。
甚兵衛はこう考えました。
「これはきっと、地獄という名前がついていたり、地獄に関係のある古いお寺か、あるいは誰もいない荒れ果てたお寺に違いないぞ」
一方、サルはこう考えました。
「地獄のことなら、すべては鬼の思いどまりだ。だから、こちらで本物そっくりな鬼の人形を新しく作って持っていけば、あの盗賊たちからひょっとこ人形を取り戻せるはずさ」
五
それからというもの、サルは大きな鬼の人形を一生懸命作り、甚兵衛はあちこちの荒れ果てたお寺を探して歩きました。
ちょうど都の町のはずれに、とても古くてボロボロなお寺がありました。甚兵衛がそっと中に入って様子をのぞいてみると、畳すらない荒れ果てた本堂のなかに、四、五人の男たちが集まって、何やらひそひそと相談をしています。
よく顔を見ると、なんとあのときの盗賊たちではありませんか!
甚兵衛はびっくりして、見つからないように慌てて逃げ出しました。
そして、さっそくサルのもとへ戻ってそのことを告げました。
「もう大丈夫ですよ」とサルは言いました。
「人形はまちがいなく、あの盗賊どものところに隠してあります。
わたしが行って、みごとに取り戻してきましょう」
甚兵衛は「危ないからやめなさい」と心配しましたが、サルが「絶対に大丈夫だから任せてくれ」と言うので、その言葉に従うことにしました。
夜になると、ふたりはあの手作りした鬼の人形をかついで、盗賊のいる古寺へと向かいました。
そしてサルは鬼の人形の中にスルリと入り込むと、一人でのそのそと本堂の中へ歩いていきました。
本堂の中にはろうそくが明るくともっていましたが、盗賊たちはすっかり酒に酔っ払って、そのへんにゴロゴロと眠り込んでいました。
「こらっ!」
サルは鬼の人形の中から、地響きのような大きな声でどなりつけました。
盗賊どもは飛び起きてびっくり仰天し、目の前を見ると、なんと巨大な鬼がまっすぐ立っているではありませんか。
みんな肝をすっかり冷やし、腰を抜かしてしまいました。
鬼の人形の中から、サルはさらに恐ろしい声で言いました。
「貴様らはとんでもない悪党だな。
甚兵衛さんの大切な生人形を盗み出しおったな。
コメント