初級翻訳・人造人間の秘密 第4話

人造人間の秘密

人造人間をうごかすためには、強烈な電波を使うから、電波の侵入をふせぐこのような厳重な檻の中に入って試験をしなければならないのであった。
フリッツ大尉と私とは、最後に、檻の中の人となって、扉を閉じた。
檻の中から、整列している人造人間の部隊を見下ろしたところは、奇観であった。
なんだか人造人間の部隊のために、あべこべにわれわれが檻の中に閉じこめられてしまったような錯覚をおこした。
それほど、人造人間部隊はいかめしい。
そのとき私は、丁度向こう側に、大きな箱のようなものがおいてあるので、何だろうかと、いぶかった。
「あの箱みたいなものは、何ですか」
と、私は、フリッツ大尉にたずねた。
「おや、お前は、勝手なときに、口をきくんだなあ。
あの小屋のことが知りたいのかね。
見ていれば、今にわかるよ」
そういい捨てて、フリッツ大尉は、右手をあげた。
それは、試験始めの合図であった。
一人の技師が、配電盤のうえについているスイッチを、ぱちりと入れ、そして計器の表をみながら、ハンドルをまわした。
他の一人が、九千五百、一万……と、しきりに数字を読みあげる。
「右向け、右!」
フリッツ大尉が叫ぶと、もう一人の技師が、配電盤上のタイプライターのキイのように並んだ釦を、ぽんぽんぽんと叩いた。
とたんに、人造人間は、一せいに右へ向いた。
生きている軍隊よりもあざやかに、まるで、珠算のたまが、一せいに落ちるようであった。
「四列縦隊で、前へ!」
ぽんぽんぽんと、また、別なキイが、技師の手によって、叩かれる。
かつッと、金属製の靴が鳴ったかと思うと、すぐさま四列縦隊が出来、ついで、この縦隊はすッすッすッと、小きざみな足取で歩きだした。
生きている兵士の二倍ぐらいの速さである。
「全速、駈け足、おい!」
ひゅーンと、妙な機械的な呻りがしたかと思うと、人造人間縦隊は、私たちの入っている指揮塔のまわりを、まるで、玩具の列車のように、隊伍整然と、そして目がまわるほどの速さでまわりだした。
生きている人間が、こんな速さで走ったら、目がまわったうえ、心臓破裂で死んでしまうだろう。
フリッツ大尉は、それに引きつづいて、いろいろな号令をかけた。
人造人間は、まるで人間とかわらぬ運動をした。
どんな複雑な号令をかけても、配電盤のキイの叩き方によって、ちゃんと別々にうごくのであった。
そして人造人間の兵士の行動は、どこまでも正しくあり、そしてどこまでも勇敢であった。
そうであろう、機械人間であるから、死をおそれる神経がないのであるから。
大尉は、ときどき私の顔色をうかがった。
だが私は、そしらぬ顔をして、立っていた。大尉の訓練は、三十分で終わりました。
「もういいだろう。モール博士の作った人造人間は、思いの外、すぐれた働きをするものだわい」
大尉は、技師たちに「休め」の号令をかけ、自分の汗をふきました。私もいっしょに汗をふきました。
全く、博士の研究の偉大さには驚くほかありません。
こんなに素晴らしい機械の設計図を、まんまとフリッツ大尉の手に渡してしまったことが、たいへん残念でなりませんでした。
私は深い後悔におちいりました。

廻らぬ歯車

大尉が汗をぬぐい終らないうちに、指揮塔の向こうに見えている箱の横にぽっかりと扉が開き、中から一人の技師がとびだしてきました。
「フリッツ大尉! これはどうもへんですぞ」
彼は大きな声でどなりました。
大尉はびっくりしたような顔になり、箱の中にひそんでいた技師をそばへ呼びよせて、「なにがへんだ」とききました。
「なにがって、X(エックス)線で今の人造人間の腹の中を見ていたのですが、腹の中にあるたくさんの歯車のうちで、ついに一度もまわらなかった歯車が二個あったのです。へんじゃありませんか」
技師は熱心を顔にあらわして言いました。
「まわらない歯車が二個もあったか。どうしたわけだろう」
大尉は私の顔をじろりとにらみつけました。ですが、私がそんなこと知っているわけがありません。
「あらゆる号令はかけてみたつもりだが、はて、へんだな」
大尉はなおも納得がいかない様子で、自分の広い額をこぶしでとんとんと叩きました。
「なぜだろうな、セン。説明したまえ」
「私がなにを知っているものですか。あの筒の中にこんなすばらしい設計図が入っていると知っていたら、私はあんなところにぐずぐずしていませんよ」
「ふしぎだ。だが、まあ今日のところはこれでいいだろう」
フリッツ大尉はそう言って、試験の終了を宣言しました。
私たちは檻を開けて外に出ましたが、そのとき大尉は私に向かって言いました。
「どうだね、セン。君は捕虜として土木工事場でまっ黒になって働きたいか、それともこの工場で見習技師として楽に暮らしたいか」
「もちろん、楽なほうがいいですなあ」
私は即座に答えました。
単に楽を求めたわけではありません。私は、見習技師としてでも何としてでも、この工場にとどまりたかったのです。
それには一つの大きな望みがありました。それは、何とかして人造人間の設計図をうばいかえしたいということだったのです。
その日から、私はこの地下工場で働くことになりました。
フリッツ大尉は、試験の結果「これならば大丈夫、戦場に出して充分役に立つ」ということがわかったため、それからというものは工場全体の全力をあげて人造人間の製造にかかりました。
当時、大尉の計算によると、この工場で一日のうちに人造人間を五百人作ることができます。
十日間がんばると五千人の人造人間部隊ができるので、これをもってイギリス本土への上陸作戦がうまくいくにちがいないと考えたのです。
しかも、一人の人造人間は生きた人間の兵士の百人に匹敵し、五十万の英兵を迎え討つのに十分であるというのでした。
私はその夜のうちにすべてを決行しようと、その機会がくるのをじっと待っていました。
私は捕虜の身分なので、例の藁(わら)のうえに寝ました。ニーナも捕虜なので、同じ部屋に寝ることになっていました。
ニーナは私に向かって、昼間の出来事についていろいろと質問してきました。
しかし私は一切口を閉ざし、何も語りませんでした。
ニーナはついに腹を立てて、そのまま寝てしまいました。

午前三時!
ついにその時刻がやってきました。
私はその時刻こそ、脱出するのに最上の機会だと思って狙っていたのです。
「ニーナ、お起きよ」
私はニーナをゆすぶり起こしました。
ニーナはびっくりして藁の中から起きあがりました。
私が脱出のことを話すと、ニーナがあまりにも突然のことだったので、にわかには信じられない顔をしていました。
「脱走なんて、そんなこと、できるの?」
「うん、できるんだ。人造人間を使って、ここを抜け出すんだよ」
「ええっ、人造人間? そんなこと、できるのかしら」
信じ切れない様子のニーナの手をひっぱるようにして、私たちは窓を破って廊下へ出ました。
もちろん私は、あの黒い筒を背中にしっかりと背負い、両手は自由に使えるようにしておきました。
「ドイツ兵に見つかったら、どうなさるの?」
ニーナは心配そうにたずねました。
「柔道で投げとばすだけさ。

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