初級翻訳・怪星ガン 第18話

怪星ガン

それとも、この上に君はまだ説明を加えるのかね」
「その黒いペンキのようなもの――それは非常に粘り気のあるもので、われわれにはちょっと想像もできませんが、それがしっかり本艇を宇宙のある一点へとどめているのではないでしょうか。つまり、ハエがとりもちにくっついて動けなくなったのと同じように、本艇はそのネバネバした真っ黒なものに包まれ、動けなくなったのではないですか」
「その考えは面白いが、しかしそれは想像にすぎない。想像ではなく、もっとはっきりした事実をつかまえ、その上で組み立てた推理でなくてはならない」
「ですが、地球の上ならばともかく、このように宇宙の奥まで入り込んでいるのですから、ここでは大胆なものさしで測る必要があります」「地球の上だけで通用するものさしで測っていたんでは、だめだと思います」
「そういう議論はあとにして、もっと実際の問題を論じてもらいたいね」
と、テッド隊長は注意しました。
すると一同は、黙り込んでしまいました。
どう解こうにも、さっぱり手がかりがないとは、まさにこのことです。
さすがの救援隊の知恵袋といわれる博士たちも、何も言い出せなくなりました。
「何か考えを言ってもらいたい」と、隊長は催促しました。
しかし一同は、たがいに顔を見合わせるばかりでした。
やっと口を開いた者がありました。
それは帆村荘六です。
「さっぱり手がかりのないことを、いくら論じてみても無駄だと思います。それよりは、もう少し時間が経つのを待ったうえで、何か新しい手がかりが見つかるのを待ち、あらためて論ずることにしてはどうでしょうか」
「まあ、そういうことになるね」
隊長は、帆村の説に賛成しました。
「では、しばらく待とう。会議はひとまず解散だ」
そう言って隊長テッド博士が椅子から立ち上がったとき、三根夫が突然大声で叫んで、テレビジョンの画面を指さしました。
「あッ、光った棒のようなものが、下のほうからこっちへ伸びてきますよ。あれはなんでしょう」

   光る怪塔

 光った棒のようなものが、下のほうからこっちへ伸びてくるとは一体どういうことでしょう。
三根夫少年が指さすテレビジョンの映像へ、隊長以下の視線が集まります。
本当でした。
確かに光る棒が下方から伸び上がってきます。
春先のタケノコが竹になるように伸びてくるのです。
それまでは四方八方が暗黒だったから、テレビジョンの画面には何の明るいものも見えませんでした。
ところが今、三根夫の発見により、初めて艇の外に目に見えるものが現れたのです。
「なんだろう。やっぱり棒かな」
「棒とも違う。割れ目のようでもある」
「割れ目? 何の割れ目だい」
「割れ目ができて、隣の空間の明かりが割れ目から差し込むと、あんな風に見えるのではないか」
「なるほど」
「違う。光の棒でも割れ目でもない。光る塔だ」
「光る塔! なるほど塔みたいだ。相当大きなものだな。しかし、宇宙の中に塔があるとは信じられない」
「だめだ、そんな風に地球上だけで通用する法則だけにとらわれていては、この大宇宙の神秘は解けないですよ」
「また、さっきの議論の蒸し返しか」
「いや、そう取ってもらっては困る。とにかくわれわれは、頭の中を一度きれいに掃除しておいて、そのきれいな頭でもって、目の前に次々に現れる大宇宙の驚異を眺める必要がある。そうでないと、その驚異の正体をはっきり解くことができないからね」
「おやおや、すてきに大きい塔だ。どう見ても塔だ。わたしは気が確かではないのだろうか」
白光に包まれたその巨大な怪塔は、下からぐんぐん伸び上がってきて、やがて本艇と同じ高さに達しました。
本艇の窓という窓には、艇員の顔が集まり、びっくりした表情でその光る怪塔を見守ります。
「帆村のおじさん。あの塔はなんでしょうか」
三根夫は、この時やっと我に返り、帆村に質問をかけるほどの余裕ができました。
「はっきりはわからないが、あれは相手がわれわれに、一つの交通路を提供しようというのじゃないかなあ」
「なんですって」
三根夫にとっては、帆村の言っていることがさっぱりわかりませんでした。
交通路の提供だの、相手だのと言いますが、何のことでしょうか。
「つまりだ、相手はわれわれに会いたいのだ。会うためには、あのような塔の形をした交通路を、本艇のそばまで届けさせてやらなくてはならない。相手はそう考えたんだろう」
「塔が交通路なんですか。どうしてですか」
「もう少し見ていればわかるのではないかな。ほら、塔の先から、今度は横向きに、カゴのようなものが伸びてきたではないか」
「あッ。本当だ」
伸びるのが止まった塔のてっぺんは少し膨らんでいましたが、そこからカゴのようなものが横向きにぐんぐん伸びて、本艇のほうへ近づいてくるのでした。
「恐ろしい相手だ」
帆村がひとりごとを言いました。
それを聞きとめた三根夫は尋ねます。
「帆村のおじさん。さっきから、おじさんは相手がどうしたとか言いますがね、相手とは誰のことですか」
「あの塔の持ち主のことさ。ああして塔をぐんぐんとわれわれのほうへ伸ばしてよこすのは誰か。それがおじさんの言う相手さ」
「誰なんですか、その『相手』は」
「本艇をすっかり暗黒空間で包んでしまった『相手』だ。本艇の電波通信力をなくしてしまった『相手』だ。いくら本艇が噴射をかけても、一メートルも前進させない『相手』だ。」「これだけ言えば、ミネ君にもわかるだろう」
「わからないねえ」
三根夫は、ため息とともにそう言いました。
「わかりそうなものではないか。宇宙を快速で飛ぶ力のある本艇を捕虜にすることができる『相手』だ。ただ者ではない。もうわかっただろう」
「あッ。すると、もしや……」
三根夫はがたがたと震えだしました。帆村が何を言っているのか、ようやくわかってきたのです。しかし、もしそれが本当ならこれは大変なことです。
「やっとわかったらしいね」と帆村は青白い顔にかすかな笑みを浮かべました。
「ミネ君、われわれは本艇とともに、ついに怪星ガンにとらえられたのだ。もはやわれわれは、怪星ガンの捕虜でしかないのだよ」
怪星ガンの捕虜になってしまった! ああ、なんという意外、なんという恐ろしさでしょう。テッド博士以下の救援隊員の運命は、これからどうなるのでしょうか。恐るべき怪星ガンの正体は何なのでしょうか。

   怪星の正体

怪星ガンの捕虜になってしまったというのです。これが、日ごろ深く尊敬し信頼している帆村荘六の言葉でしたが、三根夫はこればかりは、すぐに信じる気にはなれませんでした。なぜといって、あまりに突然すぎるからです。突如『怪星ガン』が飛び出してきて、しかも自分たちはその中にもう取り込まれているというのです。その前に三根夫は、怪星らしいものの片影すら見ていませんでした。だから、その怪星のとりこになったなどと言われても、さっぱり納得がいかないのです。それに、星がロケット隊をとりこにするなんて、そんなことができるのでしょうか。いったい、どうやってそれを成し遂げるというのでしょう。

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