初級翻訳・恐竜島 第23話

恐竜島

お前、先へ行って、あそこへ泳いで卵を一箇か二箇ぐらい取ってくるんだ。おれはその間に、細いロープで籠を編んでおくからね」
「それでどうする」
「おれがその籠を、ロープで崖下へ下ろさあ。お前は恐竜の卵を籠に入れて、ロープを引いて『よし』と合図する。すると、おれはロープをたぐりあげて、ピカピカした卵を籠から出し、この辺に積み上げていくんだ。どうだ、いい段取りだろう。どんどん仕事がはかどるぜ」
「バカヤロー」
「えっ、なんだって、汚い言葉は使わない方がいいよ」
「だってそうじゃないか。お前はここにずっといるんだから、いい役だよ。しかしおれはどうなるんだ。海を泳いだり、つるつる卵をかかえたり、それからよ、恐竜に嫌な目で眺められたり、いい役回りじゃねえ。だから腹が立つんだ」
「まあまあ、フランソア。お前はいつも気が短くて早合点すぎるよ。お前ばかりに卵を取るために海を泳がせたり、何か嫌な目で眺められたりさせやしない。途中で、半分ぐらいのところで、お前とおれは交代しようというんだ。だから絶対に仕事は公平に分担するんだ。怒ることはないよ」
「ああ、そうか。途中で、半分ぐらいのところで交代でやるのか。うん、そんならいいんだ。それを早く言わないから、こっちは間違えて腹を立てる」
「さあ、そうと話が分かったら、すぐ仕事にかかろう。おれは籠を編みにかかる。お前はそのロープにすがって早く崖の下へ下りて行きな」
「よし来た。いや、待てよ……」
「さあ、早く下りな。蟇口(がまぐち)なんか、途中でなくすと悪いから、おれに預けて行きな」
「こいつめ。おれが早合点するのをいいことにして、うまくごまかして、先へ恐竜のところへやろうとしやがったな。なんという友情のない野郎だ。フランス水夫の面汚しめ。叩きのめしてやる」
「何を、とんちきめ」
フランソアがつかみかかると、ラルサンも負けてはいなかった。激しい組打ちが始まろうとした寸前。
「おい、静まれ。二人とも、喧嘩はやめて、後ろへ引け。言うことを聞かねえと、心臓の真ん中へピストルの弾丸をごちそうするぞ」
と、雷のような声が響いた。モレロの大喝だった。突然の銃声。

二人の水夫は、縮み上がった。モレロと来たら、手の早い乱暴者であることを、これまでの付き合いでよく知っていた。ピストルの引き金を引くことなんて、つばを吐くほどにも思っていない悪党だ。おとなしくしないわけにはいかない。
「お前たちに話がある。耳よりな、儲け話だ。ここじゃ具合が悪い。こっちへ来い」
モレロは、なぜか急に声を落として、二人の水夫の後ろの岩陰へ引っ張っていった。あとには実業家マルタン一人だけが、上に取り残された。彼は、モレロのやっていることに気がつかないような顔をしていたが、実はすっかり知り抜いていたし、モレロのこれからやろうとすることにも見当がついていた。
彼は不安を感じて、胸騒ぎが起こった。彼は崖の端まで行って下を覗いた。この崖を水面まで下りていって、行方不明の伯爵を探しに行った玉太郎たちの姿が見えるかと思ったのだ。だが、玉太郎の一行は見えなかった。もし見えたら、マルタンはすぐ信号を送って、彼らを至急引き返させるつもりだった。今なら、モレロや、その手下のような二人の水夫に知られずに合図を送ることができたのだが、見えないとは残念であった。
玉太郎たち四人は、波の洗う岩根を踏み越え、伯爵の姿か、あるいは所持品かを発見するために努力を続けた。だが、いくら探しても、伯爵の姿はなかった。この辺に伯爵の身体がなくてはならないところにも、まったく何も落ちていないのであった。一時間あまりを空費して、何の収穫もなかった。そのとき彼らは、ロープで下りてきたところの岩根をかなり前方へ曲がって、恐竜のわだかまっている地点まで、あと三、四メートルのところに来ていた。
巨大なる体躯を持った恐竜としては、一飛びか二飛びで飛んで来られるところだった。しかし四人は、そのことについて正確には気がついていなかった。というのも、彼らと恐竜の間には、将棋の駒のように大きな岩が立ちはだかっており、恐竜たちの姿を隠していたからでした。

ところが、玉太郎たちは、突然その恐竜たちの姿を頭上に仰ぎ見ることになりました。
そのきっかけは、崖の中腹あたりから轟然と鳴り響いた銃声と、それに続いて「ダーン、ダダーン!」と無差別に放たれた激しい銃撃でした。

「おやっ。何が起きたんだ?」
「誰が撃ったんだ……」

ケンもダビットも玉太郎も、顔色を変えて銃声がした方向を見上げました。
しかし、屏風のようにそそり立つ岩が邪魔をして、撃っている者の姿は見えません。誰が撃ったのかは分かりませんでしたが、恐ろしい悲鳴が連続して聞こえ、それに代わって怒りの叫び声が響き渡りました。

すると、頭の上が急に暗くなったように感じました。
「なんだ?」とそちらを見ると、太い丸太橋のようなものが二つ、岩の上にかかり、前後に大きく揺れていました。
その橋は、急に膨らんだり、筋が浮き出たりしました。
丸太橋ではなく、それが恐竜の首であることに、彼らはすぐに気づきました。
三頭か四頭かの恐竜が、彼らに向かって攻撃を仕掛けてきたのです。

「バカな奴らだ。誰だか知らないが、とうとう恐竜どもを怒らせてしまったんだ」
ケンは恐怖に満ちた目で玉太郎たちを見回しました。
ダビットはカメラを上に向けて、撮影に夢中になっています。

「天に向かって唾を吐くようなものだ。彼らもようやく事の重大さに気づいた頃だろう」
張はおちつき払ってそう言いました。それがモレロたちの仕業であることを、張はすぐに見抜いたようです。

「ケンさん、恐竜は本来おとなしい動物じゃないんですか? 人間を食べたりはしないのでしょう?」
玉太郎はケンに尋ねました。

「あの巨獣は、おとなしいだけに、一度怒らせるとものすごく暴れるんだ。これはぐずぐずしていると、とばっちりがこっちへ回ってくるぞ。おい、みんな! 今のうちに安全なところへ避難するんだ!」

さすがにケンは勘が鋭い。崖の上の誰かと恐竜が格闘している間に、安全地帯を見つけて逃げ込もうというのです。

「あそこにいい場所がある。低い天井の洞穴だ。そこへ行って潜り込もう」

ケンは一同に合図をして引き返しました。恐竜たちの恐ろしい叫び声が洞窟を激しく揺さぶり、まるで地獄の底にいるような気分でした。

(避難の穴)

「ここだ。大丈夫、みんな入れるだろう」
ケンが指さしたのは、海面からわずか一メートルほどの高さに口を開けている洞穴でした。人間が二人、腰をかがめれば入れるくらいの大きさです。
しかし、この洞穴の入り口の上には、自然にできたものとは思えない印がありました。ノミで削ったような跡が見えるのです。その上には何か文字のようなものまで岩に彫りつけられているようでしたが、今はそれを読み解いている暇はなく、ケンは皆を促して洞穴の中へ潜り込みました。

携帯電灯でケンが中を照らすと、奥は広くなっており、天井も高くなっていました。確かにここは人の手が加えられています。岸壁もノミで削って広げたに違いありません。削られた小さな石の塊が、靴や膝の下でガサガサと鳴ります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました