今日からは、暗い海の底の泥をはいつくばって生きていきます」
「さようなら、王様。そして天の上の皆さま。皆さまの栄えを祈っています」
「さようなら、皆さん。そしてすべての上の尊い王様、いつまでもそのままでおいでください」
赤いヒトデたちがたくさん集まってきて、二人を囲んでガヤガヤと言いました。
「おい、着物をよこせ!」「こら、剣を出せ!」「税金を払え!」「もっと小さくなれ!」「俺の靴を磨け!」
その時、みんなの頭の上を、真っ黒で巨大なものがゴーゴーと吠えるように通りかかりました。ヒトデたちはあわててみんなお辞儀をしました。黒いものは通り過ぎようとしてふと立ち止まり、じろじろと二人をすかして見て言いました。
「ははあ、新兵だな。まだお辞儀の仕方も習っていないのか。このクジラ様を知らないのかい? 俺のあだ名は『海の彗星』と言うんだ。知っているか? 俺はイワシのようなひょろひょろの魚や、メダカのような目の見えない魚なら、みんなパクパク飲み込んでしまうんだ。それから一番痛快なのは、まっすぐ走ってから、ぐるっと円を描いて元の場所へ戻るくらいの、ゆっくりしたカーブを切るときだ。まるで体の油がねっとりとするくらいさ。さて、お前たちは天からの『追放の書き付け』を持ってきたんだろうな? 早く出せ」
二人は顔を見合わせました。チュンセ童子が言いました。
「僕らはそんなもの持っていないよ」
するとクジラが怒って、口から水をぐうっと吐き出しました。ヒトデたちはみんな顔色を変えてよろよろと逃げ出しましたが、二人はじっとこらえて、しゃんと立っていました。クジラが怖い顔をして言いました。
「書き付けを持っていないのか? 悪党め。ここにいるやつで、天上でどんな悪いことをしてこようが、書き付けを持っていないやつなんて一人もいないぞ。貴様らは実にけしからん。さあ、今から飲み込んでやるから覚悟しろ。いいか!」
クジラは口を大きく開けて身構えました。ヒトデや近所の魚たちは、巻き添えを食っては大変だと泥の中にもぐり込んだり、一目散に逃げ出したりしました。
その時、向こうから銀色の光がパッと射して、小さな海蛇がやってきました。クジラは非常に驚いたようで、急いで口を閉じました。海蛇は不思議そうに二人の頭の上をじっと見て言いました。
「あなた方はどうされたのですか? 悪いことをして天から落とされた方々ではないように見受けられますが」
クジラが横から口を挟みました。
「こいつらは、追放の書き付けも持っていないんですよ」
海蛇が鋭い目をしてクジラをにらみつけ、言いました。
「黙っておいで。生意気な。この方々を『こいつら』なんて、お前がどうして言えるんだ。お前には、善いことをしていた人の頭の上にある後光が見えないのか。悪いことをしたやつなら、頭の上に黒い影法師が口を開けているからすぐわかるはずだ。お星様方、こちらへお出でください。王様のところへご案内申し上げましょう。おい、ヒトデたち! 明かりをともせ。こら、クジラ、あんまり暴れてはいかんぞ」
クジラは頭をかいて平伏しました。驚いたことに、赤い光のヒトデたちが幅の広い二列にぞろっと並び、まるで街道の明かりのようになりました。
「さあ、参りましょう」
海蛇は白髪を振って、恭しく言いました。二人はそれに続いて、ヒトデたちの間を通っていきました。
まもなく、青黒い水明かりの中に大きな白い城の門が見えてきました。その扉がひとりでに開くと、中からたくさんの立派な海蛇たちが出てきました。
そして双子の星たちは、海蛇の王様の前に案内されました。
王様は白い長いひげを生やした老人で、にこにこと笑いながら言いました。
「あなた方はチュンセ童子とポウセ童子ですね。
よく存じておりますよ。
あなた方が以前、あの空のさそり座の悪い心を、命がけで正してくださったお話は、ここへも伝わっております。
私はそれを、こちらの小学校の教科書にも載せさせました。
さて、今回はとんだ災難でしたね。さぞかしびっくりなさったでしょう」
チュンセ童子が申し上げました。
「お言葉、誠に恐れ入ります。
私共はもう天上には戻れません。もしできることなら、こちらで何なりと皆様のお役に立ちたいと願っております」
王様が言いました。
「いやいや、そのご謙遜、恐れ入ります。
すぐに竜巻に命じて、天上へお送りいたしましょう。
お帰りになりましたら、あなたの王様に『海蛇たちがよろしくと言っていた』とお伝えください」
ポウセ童子が喜んで言いました。
「それでは、王様は私共の王様をご存じでいらっしゃるのですか?」
王様はあわてて椅子から降りて言いました。
「いいえ、それどころではございません。
あなたの王様は、この私の唯一の王でございます。
遠い昔から、私めの先生でいらっしゃるのです。
私は、あのお方の愚かなしもべにすぎません。
いや、まだおわかりにはならないでしょう。
けれども、やがておわかりになる時が来るはずです。
さあ、夜が明けないうちに、竜巻にお伴させましょう。
おい、準備はいいか?」
一匹の家来の海蛇が、
「はい、門の前でお待ちしております」と答えました。
二人は丁寧に王様にお辞儀をしました。
「それでは王様、ごきげんよう。
いずれ改めて、空からお礼を申し上げます。
このお宮がいつまでも栄えますように」
王様は立ち上がって言いました。
「あなた方も、どうかますます立派にお光りください。
それでは、ごきげんよう」
家来たちも一斉に恭しくお辞儀をしました。
童子たちは門の外に出ました。そこには竜巻が、銀色のとぐろを巻いて休んでいました。一人の海蛇が二人をその頭に乗せると、二人はしっかりと角につかまりました。
その時、赤い光のヒトデたちがたくさん出てきて叫びました。
「さようなら! どうか空の王様によろしく。私たちもいつか許されますように、お願いしてください!」
二人は声を合わせて言いました。
「きっとそう伝えます。やがて空でまたお会いしましょう」
竜巻が、そろりそろりと立ち上がりました。
「さようなら、さようなら」
竜巻はもう頭を、真っ黒な海の上に出していました。
と思うと、急にバリバリバリッと激しい音がして、竜巻は水と一緒に矢のように高く高く昇っていきました。
まだ夜が明けるにはずいぶん時間があります。
天の川がどんどん近づいてきました。二人のお宮も、もうはっきりと見えます。
「ちょっとあれをご覧ください」と、暗闇の中で竜巻が言いました。
見ると、あの大きな青白い光のほうき星がバラバラに分かれてしまい、頭も尾も胴も別々に、狂ったような恐ろしい声を上げながら、ガリガリと光って真っ黒な海の中へと落ちていくところでした。
「あいつは、ナマコになりますよ」と、竜巻が静かに言いました。
もう空の「星めぐりの歌」が聞こえてきます。
そして童子たちはお宮に到着しました。竜巻は二人を下ろすと、
「さようなら、ごきげんよう」と言いながら、風のように海へと帰っていきました。
双子の星はそれぞれのお宮に昇りました。そしてきちんと座ると、見えない空の王様に向かって言いました。
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