卓一の一挙手一投足が想像されるたび、その姿が意識をかすめるだけで、野々宮は狂人のような怒りと混乱に襲われました。
――僕は、踊りに堪えられないのです。
卓一は彼にそう言いました。
もしかしたら、好色すぎるせいかもしれない、とも。
悪徳を無理やり肯定して見せる人は、たとえ自分の悪徳を少しでも軽く見せようと努めていたとしても、かえって悪徳を深めているような印象を与えるものです。
そして恐らく、その印象こそが、彼に最もふさわしいものでした。
しかし、卓一という男に関しては――野々宮は心の中で叫びました。
彼が肯定しているもの、そう、それこそが彼のすべてに見えるのです。
すべてのもの。
心も、顔も、手も、指も。
すべてに息づく唯一のものが、野獣にも勝る悪臭を放つ、卑しい欲望そのものなのです。
なぜなら、それは彼の肉体によって許されているだけでなく、彼の理屈によっても許されているからです。
これほどあくどいことはありませんでした。
他巳吉も野々宮に言いました。「卓一さんが女に惚れたんだってな」と。
それが由子であることに間違いありません。
「仙人だって雲から落ちることもあるもんだ。わはははは」と言ったのです。
落ちるのは仙人だけです。
あの卓一は、ただ肉体の愛玩というものを、最も冷ややかに知っているだけなのでしょう。
わずかな恥じらいも、感傷もなく。
「あなたは、よく眠れますか」
野々宮は、この平凡で温和な婦人に対して、場違いな質問を投げかけました。
ただ、黙っていられなかったのです。必要に迫られて、そして彼自身の礼儀ゆえに。
「僕は毎日、眠るということを意識することができません。もちろん、眠ってはいるのです。でなければ、こうして特別支障もなく生き続けてはいられませんからね。眠りかける状態まではわかります。眠るために苦闘し、疲れ果てている状態だけは、毎晩わかっているのです。しかし、自分の睡眠そのものを意識したことは一度もありませんし、疲労が回復したという実感もありません。時間的にもそうです。うとうとして、疲れ切って目を覚ますと、やっぱりほとんど時間は過ぎていないのです。眠るためには数を数えるのがいいと言いますね。しかし、無限に数えても眠れないことを考えると、無限に数え続けている僕は一体どうなるのでしょう。いいえ、数えている僕はどうせ死んだ肉体と同じで空虚なものです。生きているのは、数えている数字だけなのです。無限に数えられている数字だけが。――そして、無限というものの行き着く先が、結局どこへどうなるのかと考えると――あなたは馬鹿らしいと思いますか。たった一つ、ただ発音され続ける無限の算数について考えてみてください。僕には、笑うことなどできないのです」「だって、眠れるとは思えませんから。無限に数えて……やりきれませんね。もし眠れるのなら数えてみたいという誘惑はありますが、実際に数えようという気持ちになったことは一度もありません。無限に数え続けても眠れないときの気味の悪さを想像すると、それだけでたまらなくなってしまうのです」
無意味なおしゃべり。そして、なんと退屈なことだろう。野々宮は疲れ果て、飽き飽きしていた。しかし、文子が立ち去ってしまったら、取り残された自分一人をどうすればいいのだろう。自分のほかにもう一人、手に負えない自分がいた。そいつときたら、この退屈な婦人のような生やさしい生き物ではなかった。ただ一色の暗黒な虚空だけが、そいつのすべてなのだ。ずっと喋り続けていたかった。夜明けまでずっと。
「算数ということ自体が、いくらか不気味な生命力を感じさせるものなのですね。あの単調さのせいかもしれません。時計の音が持つような。音というものは存在しますが、そこには意味がありません。意味というものが音そのものであり、あるいは音と音の間隔の中に潜んでいるのでしょう。あの単調さは、妙に不気味な生命力を感じさせるものです。ポーの小説にも、時計の音が主題になったものがあります。皿屋敷の怖さにしても、皿の数を数えることがその恐ろしさを際立たせていることは、否定できないでしょう」
文子はイライラし始めていた。外出に慣れた女性ではなかった。男と二人きりで向かい合っていること自体が、異例の事態なのだ。どのように振る舞えばいいのかも分からなかった。左門の家では九時になると、もう寝る時間だ。屋敷は静まり返ってしまう。まるで死の気配のようなあの静けさの中にいると、他の場所には同じ時刻に生きた世界があることすら、想像することさえできないのだ。左門はもう寝てしまっただろう。帰らなければならない。しかし、立ち上がるきっかけがなかった。野々宮の話は、ただ綿々と続いていく。それがまるで無限の算数そのものであるかのように。帰りたいという文子の心を察する気配は、野々宮からは微塵も感じられなかった。そして、男に促す勇気もない文子だった。
それでもついに立ち上がった。もう十一時近かった。
「お帰りですか」野々宮も立ち上がりかけて、静かに言った。
「もう少しだけ……」そして彼は口ごもりながら、少年のようにはにかんだ笑みを浮かべた。
「いいえ、無理に引き止めるつもりはないのですが。もしよろしければ」
恥ずかしさのあまり、彼はかえって礼儀を欠いたような動作になっていた。彼はすでに放心した様子で、淡い苦笑を浮かべたまま座っていた。文子もまた、座らざるを得ない。その重心が崩れることは許されないのだ。なんて退屈な男だろう。そして、なんてしつこいのだろう。それにしても、この時刻に、燦々(さんさん)と光り輝く国があることを、文子は異様な思いで知らぬわけにはいかなかった。
文子が家に帰り着いたときは、すでに十二時を過ぎていた。野々宮は、文子を家まで送ったあと、古町(ふるまち)へと出た。酔っ払いの姿すら、ほとんど見かけなくなっていた。店を閉めて家路を急ぐ酒場の女たちが、足早に時折通り過ぎるだけである。
それでもまだ――野々宮は思った。どこかに起きている店があるはずだ。夜通し開いている酒場があることを、彼は聞いていたはずだから。酒が飲みたいわけではなかった。酔いたいわけでもなかったのだ。ただ、一人でいることを免れさえすれば。夜が明けるまで。
――冬の夜の長さだけでも、切なかった。街の奥の暗闇の底に、卓一と由子が絡み合う不安な気配を、彼は時ならぬときに感じた。まるで彼らが闇の底にいるかのように。不意に訪れる思考の洪水に、彼はひどく悩まされていた。
一つの荒廃した頭脳がある。それはすでにその持ち主から独立して存在し、荒れるに任せ、また荒らされるに任せているようだった。頭は割れそうな痛みを感じさせた。思考が彼の意志とは関係なく明滅し、出没する。歪み、走り、舞い狂うのだ。それに対抗する手段はなかった。荒れるに任せた頭脳のほかに、一つ、なんと冷たい寂しさが凝りついていることだろう。そしてその冷たいものの言葉を聞くと、どうやら死、ただそれだけであるらしい。これほど冷たく、死の一筋をたどっている一つの心に、彼は無力な満足を覚えるような心地がした。
自殺。それを初めて考えてから二十数年が流れている。死にがたい人生ではなかった。なんと生きやすい人の世であろうか。
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