初級翻訳・大きな蝙蝠傘 第1話

大きな蝙蝠傘

それは、ほんとうにとっても大きなかさ(蝙蝠傘)でした。

幹子(みきこ)ちゃんは、このごろ田舎の方から、新しくこちらの学校へ転校してきたばかりの新入生でした。

髪型も着物も、東京の女の子たちと比べると、かなり田舎っぽく見えました。

けれど幹子ちゃんは、そんなことを少しも気にしないで、お勉強や運動など、つまり女の子がやるべきことに一生懸命取り組むような、芯の強い性格の持ち主でした。

たとえば、青空に向かって葉っぱを広げ、太陽の光をあびてぐんぐん育っていく若い木のように、おおらかで元気な女の子だったのです。

それにしても、幹子ちゃんが毎日学校へ持ってくるかさはびっくりするほど大きくて、あっという間に学校中で評判になりました。

どのクラスにも、ちょっと頓智(とんち)が利いて口が軽く、おもしろいことを言ってはみんなを笑わせるのが大好きな、少し困った生徒が一人や二人はいるものです。

幹子ちゃんのクラスにも、時子(ときこ)ちゃんと朝子(あさこ)ちゃんという、ちょっと口の悪い生徒たちがいました。

ある日のこと、幹子ちゃんが学校へ行く途中で、この口の悪いふたりとばったり出会いました。

もちろんこの日も、幹子ちゃんはあの大っきなかさを持っていたので、すぐに冷やかしの標的になってしまいました。

「あら、どこかのおじ様が歩いているのかと思ったら、幹子さんだったのね! 幹子さん、おはよう」

時子ちゃんが言いました。

たしかに幹子ちゃんのかさは、黒い毛織物でできていて持ち手も太い大きなものだったので、どう見てもおじいちゃんの古いかさを借りてきたようにしか見えませんでした。

実際、本当におじいちゃんのかさだったのかもしれません。

ですから「どこかのおじ様かと思った」という言い方は、あまりにもぴったりで、まわりにいたみんなは大笑いしてしまいました。

幹子ちゃんも一緒になってニコニコ笑いながら、「おはよう」とあいさつを返しました。そして、つまらないお友達に構っているヒマはないわ、と言わんばかりに、さっさとその場を通り過ぎて、まっすぐ学校へ向かって歩いていきました。

「あのくらいかさが大きかったら、日焼けしなくていいわよねえ」

「ええ、だから幹子さんは色白なのよ」

そんなふうにしてクスッと笑いあっている声が、幹子ちゃんの耳にも届きました。

けれど幹子ちゃんは、何を言われても全然平気な顔をしていました。

「でもね、幹子さんの田舎では、あれがすごーくハイカラ(おしゃれ)なのかもしれないわよ」

「そうね! 私、こう思うの。幹子さんのおとうさんはきっとお薬屋さんに違いないわ。だから幹子さんを、将来はお薬売り屋さんにするつもりなのよ。ほら、よくお薬売り屋さんが、あんなに大きなかさをさしてやって来るでしょう? 『本家、讃岐は高松千金丹(せんきんたん)……♪』って歌いながら来るじゃない!」

そう言って時子ちゃんは、おもしろおかしく節をつけて歌ってみせました。

「そうよ、そうよ!」

「絶対にそうだわ!」

と、みんな口々に言うのでした。

するとそのとき、幹子ちゃんは静かに、ちっとも気にしていないようなようすで振り返ると、

「私が本当にお薬屋さんになったら、効き目のいいお薬を売ってあげますから、安心して待っていてね」

幹子ちゃんは、にっこり笑いながらそう言って、すたすたと行ってしまいました。

そう明るく返されてしまうと、口の悪いふたりも、さすがにそれ以上は何も言えなくなって、黙り込んでしまいました。

それから四、五日たったある日の授業中、突然雨が降り出しました。そして授業が終わるころには、まるで川が流れるような大雨になっていました。

さあ、いよいよあの、みんなのからかいの種になっていた大きな大きなかさが、大活躍するときがやってきたのです!

幹子ちゃんは、時子ちゃんや朝子ちゃんが、小さくてかわいい自分のかさを持てあまして困り果てているのを見かねて、

「みなさん、この中へお入りなさいよ! とっても大きいから、みんな入れますよ」

と声をかけました。

三人は仲良く、大きくてハイカラなかさのおかげで、雨に少しも濡れることなく家に帰ることができたのでした。

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