初級翻訳・大金塊 第12話

大金塊

おとうさんが『うん』といってくだされば、いつでもきみは家へ帰れるんだ。
わかったかね。
ははは……、きみはきょうから、ぼくのだいじなお客さまというわけだよ。
ハハハハ……。」
首領はビロードの覆面の中で、さもここちよげに笑うのでした。
小林君は、あまり平気な顔をしていて、かえってうたがわれてはいけないと考え、不二夫君なら、きっとこんな顔をするだろうと思われるような、こわくて心配でたまらないという顔をして、じっとうつむいていました。
「わかったかね。
よしよし、わかったら、きみの部屋が、あちらにちゃんと用意してある。
部屋へいってゆっくり休むがいい。」
首領はそういって、ふたりの男になにかあいずしました。
すると、男のひとりが、小林君のなわじりを取って、どこかへつれていくのです。
首領の部屋を出て、くらい廊下を少し行きますと、むこうに、動物園のおりのような鉄ごうしが、見えてきました。
おや、この地下室には猛獣でもかってあるのかしら、と思っていますと、男は、
「さあ、小僧、ここがおまえの部屋だ。
どうだ気にいったかね。
へへへ……、居ごこちのよさそうな部屋じゃねえか。」
と、にくにくしくいいながら、小林君のなわをとって、その鉄ごうしのすみにある開き戸から、中へおしこんでしまいました。
それは、おりではなくて、地底の牢獄だったのです。小林君のための「お客さま用の部屋」というのは、ほかならぬこの鉄ごうしの牢獄のことでした。
男は小林君をその中へ押し入れると、ポケットからカギを取り出し、開き戸についている錠前にガチャリとカギをかけました。
「へへへ……、まあ、そこでゆっくり休むがいい。
隅にはわら布団も置いてあるからね。
それから、食べものは、三度三度ちゃんと言いつけて持ってきてやるから、心配しないがいいよ。
おまえを飢え死にさせちゃいけないって、首領の命令だからね」
男は鉄ごうしの外から牢の中をのぞき込みながら、おもしろそうにニヤニヤしながら言うのです。
中を見ると、その牢というのは三畳ほどのコンクリートの部屋で、くさくて汚いわら布団のベッドがぽつんと置いてあるほかは、動物園のライオンやトラのオリと少しも変わりがありませんでした。
小林君は冷たいコンクリートの床の上に座ったまま、こんなところにしばらく住まなければならないのかと思うと、すっかりうんざりしてしまいました。
「へへへ……、いやに黙り込んでいるね。
あんまり部屋がりっぱなもんだから、びっくりしているのかい?
へへへ……、だが、おまえは小さいくせになかなか感心だねえ、ちっとも泣かないじゃないか。
いい子だよ。
ごほうびに、何か持ってきてやろうか?
おい、おなかは減らないかね?
それとも、水でも飲むかい?」
男はいつまでも小林君をからかい続けています。
鉄ごうしに顔をくっつけるようにして、目をぎょろっとむいたり、口を思いきりゆがめたりして、変な顔を見せておもしろがっているのです。
小林君はさすがに腹が立ちましたが、心の中で、
「今に見てろよ、ひどい目にあわせてやるからな」
とつぶやきながら、じっと我慢していました。
それにしても、そう言われてみると、おなかはそれほどでもありませんが、のどが渇いてしかたがありません。
そこで、
「ぼく、のどが渇いたから、牛乳をください」
と、ぶっきらぼうに言いますと、男は急に大笑いして、
「へへへ……、はじめて口をきいたと思ったら、牛乳をくださいか。
なかなかぜいたくなことを言うねえ。
よしよし、それじゃ、牛乳を持ってきてやるよ」
と言い捨てたまま、どこかへ立ち去りましたが、やがて冷たい牛乳を入れたコップを持って戻ってきました。
「さあ、ご所望の牛乳だ。
毒なんか入っちゃいないよ。
安心して飲むがいい。
おまえはうちの大事な人質なんだからね」
そして、小林君が牛乳を飲んでいるあいだも、男はまた変な顔をしたり、くだらない冗談を言ったりしてさんざんからかっていましたが、やがてそれにも飽きたのか、開き戸の錠前を念入りに調べたうえで、どこかへ行ってしまいました。
腕時計を見てみますと、さいわい壊れもせずに動いており、時間はもう午後の六時でした。
「よし、今のうちに眠っておこう。
そして夜中になったら、一仕事するんだ。
見ていろよ、きっとあの悪者たちの秘密をあばいてやるからな」
小林君はそんなことを考えながら、部屋の隅のわら布団のベッドの上に、ごろりと横になりました。
春のことですから、それほど凍えるような寒さでもありません。
肝の据すわった小林君は、やがてそのかたいわら布団の上で、ぐっすりと眠ってしまいました。
縛られたり、長いすの中に閉じ込められたりして相当疲れていたものですから、八時間ほどもぶっ通しで眠り、目を覚ましたのはすでに夜中の二時でした。
やみの階段

「ああ、よく眠ったぞ。
これならしっかり仕事ができそうだ。
あの賊のやつら、今に見ているがいい」
小林君はそうつぶやいてにっこり笑いながら、汚いわらのベッドからむくりと起きあがりました。
そして、ポケットから何か銀色の針金のようなものを取りだすと、牢の鉄ごうしの開き戸のほうへと静かに近づいていきました。
その開き戸には大きな錠前がついていて、カギがなくては絶対に開かない仕組みになっています。
「ふふん、こんな錠前なんか、なんでもないや。
ぼくには明智先生が発明された、すごい秘密兵器があるんだからね」
小林君は、こうしのあいだへ手を伸ばし、その銀色の針金のようなものを錠前のカギ穴に差し込んで、しばらくコチコチと動かしていました。
すると、どうでしょう!
あんなに頑丈だったはずの錠前が、カチンと軽い音をたてて、あっさりと開いてしまったではありませんか。
この「万能カギ」というのは、その針金のようなものが一本あれば、世の中のどんなカギ穴でもピタリと開いてしまうという、とてつもないおそろしい力を持った道具なのです。
明智探偵は、いつのまにかこんな不思議な道具を発明していました。
でも、もし泥棒などがこの万能カギの作り方を知ってしまったら一大事です。そのため、そのカギのことはどんな親しい人にも決して見せない、明智探偵と小林君だけの固い秘密になっていたのでした。さて、なんなく牢屋(ろうや)を抜け出した小林君は、開き戸をもとのとおりに閉めておいて、うす暗い廊下を、悪者たちの部屋と思われるほうへと、足音を忍ばせながら進んでいきました。

「覆面(ふくめん)のボスがいた部屋は、たしかこっちのほうだったな」

と考えながら廊下を歩いていくと、一つのドアの前に着きました。
立ち止まって耳をすませていると、中から大きないびきの音が聞こえてきました。

「ああ、この部屋には、手下のやつらが寝ているんだな」

昼間あんなにいばっていたやつらが、ぐっすりと眠りこけているかと思うと、なんだかおかしくなって、ちょっとその寝顔をのぞきみたくなりました。
ドアの取っ手をそっとひねってみると、カギをかけていないらしく簡単に開いたので、そこから顔を出してのぞいてみました。すると部屋の中には五つのベッドが並んでいて、五人の大男がぐうぐうと眠っていました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました