これでも本当に探偵団のメンバーなのかい?」
白いひげのおじいさんは、楽しそうにそう言いながら、ツカツカと二人のすぐ近くまで歩いてきました。
その声を聞いて、ノロちゃんもようやく小林君の胸から顔を離し、おずおずとおじいさんの姿を見つめました。
今までずっと目を閉じていたノロちゃんには、どうして急にこんなおじいさんが現れたのかさっぱり分かりません。不思議そうに目をキョロキョロさせています。
「おじいさん、あなたはいったい誰なんですか?」
小林君は、キリッとした表情でおじいさんの顔を見つめ、尋ねました。
「わしかね? わしは、さっきのロボットだよ」
おじいさんは、いたずらっぽくニコニコと笑っています。
ということは、あの不気味なロボットの中に、このおじいさんが入っていたのでしょうか。
もしそうだとしたら、このおじいさんはやっぱり、何か怪しい企みを持つ悪者に違いありません。
「じゃあ、隣の部屋にいたあの女の子を、そんなひどい目に遭わせたのも、あなたなんですね!」
小林君は、おじいさんを鋭く睨みつけました。
「ハハハ……、あの子のことかい? あれは、わしの友達の娘さんだよ。ミヨ子ちゃん、もう大丈夫だから、こっちへおいで」
すると、「はーい!」という可愛らしい声が聞こえて、さっきまで隣の部屋でぐったりと倒れていたはずの、ピンクの洋服を着た女の子が、ニコニコと笑顔を浮かべて元気に駆け込んできたのです。
「あれっ? ということは、あの女の子は、ぼくたちに嘘をついていたんだね!」ノロちゃんが、あきれたように言いました。
「そうさ、うそをついたんだ。きみたちを、この部屋におびきよせるためにね」
「なぜ、ぼくたちをこの部屋へおびきよせたんですか?」
小林君が、おじいさんに詰め寄りました。
「ハハハ、そう怒るもんじゃない。まあ、こっちへおいで。もっときれいな部屋で、ゆっくり話をしよう」
そう言って、おじいさんは先立って廊下へ出ました。ふたりの少年は、ともかくそのあとについていきます。
老人は、少年たちとミヨ子ちゃんを連れて、立派な洋室に入りました。壁いっぱいの本棚に難しい本がずらりと並び、部屋の真ん中には大きなテーブルがあって、そのまわりにふかふかとした安楽椅子がいくつも置いてあります。
「さあ、かけたまえ。これから、きみたちをおびきよせたわけを話すからね。わしはロボットになって、きみたちの前にあらわれた。きっとついてくるだろうと思ってね。窓からこの家へ忍び込んで見せたので、きみたちは、いよいよわしを悪者だと思った。そして、さっきの部屋まで入ってきた。それから、不思議なことが起こったね。あれはきみたちの度胸をためすためだった。だが、どうしてあんなことが起こったか、わかるかね」
老人が、ブラック・マジックの種明かしをしました。
「あの部屋の電灯は二つとも、きみたちのほうを向いていた。うしろの壁には、黒いカーテンがはってある。そのカーテンの前に、頭から足の先までまっ黒な布でつつんだ、わしの助手が立っていたのだが、きみたちには少しも見えなかった。そこへロボットが入ってきた。わしのまっ黒な助手は、黒い布の袋をいくつも持っていて、ロボットの手や足や胴や首へ、つぎつぎとかぶせていったのだ。そうすると、かぶせたところだけ消えたように見える。暗い舞台で、白いガイコツが踊りだす奇術があるね。あれは人間が、黒いシャツとズボンに白いガイコツの絵を描いたのを着て踊るのだよ。それと同じ理屈さ。そのあとへ、このわしが姿をあらわしたのも同じ理屈で、手や足や首に黒い袋をかぶせてあったのを、つぎつぎと脱いでいったのだよ。わかったかね」
老人は、にやにやと笑いました。
「まだ、きみたちをびっくりさせることがある。わしはロボットから老人になったが、これでおしまいではない。わしは世界一の変装の名人だからね」
怪老人はそう言ったかと思うと、まっ白な頭とひげに手をかけて、それをひきむいてしまいました。すると、その下から、黒い髪の毛の三十歳ぐらいの若い顔があらわれました。
「ハハハ……、どうだね。若くなっただろう。だが、これがわしの本当の顔かどうか、わからないよ。まだこの下に、別の顔が隠れているかもしれないのだよ。ところで、きみたちをここへおびきよせたわけだがね。わしは、きみたちの少年探偵団がすばらしい働きをしたことをよく知っている。そこでわしは、少年探偵団に知恵くらべの試合を申し込むのだ。わしが相手になるから、きみたちに腕だめしをしてもらいたいのだ」
「試合って、どんな試合です?」
小林君が、びっくりして聞き返しました。
「わしは『魔法博士』と呼ばれている奇術の名人だ。この家のほかにも、ほうぼうに不思議な家を持っている。大人の助手もいるし、子どもの助手もいる。このミヨ子という少女も、そのひとりだ。そこで、きみたちの知恵と勇気で、わしの魔法とたたかってみる気はないか?」
魔法博士はそう言って、どこからか黒い箱を持ってきて、その中からピカピカと金色に光ったものを出して、テーブルの上におきました。それは、金色のトラが後ろ足を曲げてうずくまり、前足をグッと立てて、空に向かって「ウオー」と唸っている、高さ十センチほどの置きものでした。
「これは純金でできている。目にはダイヤがいれてある。何千万円という、わしの家の宝物だ。これを知恵くらべの賞に出すのだよ。この黄金のトラを、いまきみたちに渡すから、きみたちはこれをどこかへ隠すのだ。わしはそれを探し出して盗んでみせる。すると、こんどきみたちが、わしを見つけ出してこのトラを取りかえすのだ。盗まれてから二ヶ月のうちに取りもどしたら、きみたちの勝ちだ。もし勝ったら、このトラの宝物をきみたちにあげる。つまり優勝旗みたいなものだね。また二ヶ月のうちに取りもどせなかったら、きみたちの負けで、トラはわしのものだ。わかったかね」魔法博士の不思議な提案に、二人の少年は思わず顔を見合わせました。でも、ノロちゃんは言いました。
「小林さん、この勝負、受けようよ! そして、ぼくたちの実力を見せてやろう!」
【消えた黄金のトラ】
「おや、感心、感心。ノロちゃんはてっきり怖がり屋だと思っていたけれど、なかなか勇気があるね。小林君、団長である君は、この挑戦を受けるかい?」
「明智先生に相談してから決めます」
「いやいや、それなら心配いらないよ。明智さんには、私からちゃんと話してあるんだ。明智さんも承知しているよ。もし君たちが困ったときには、明智さんに知恵を借りてもいいという約束にもなっているんだからね」
「そうですか。それなら、挑戦を受けます! 少年探偵団のメンバーは全部で二十三人いますが、そのうち、おうちで許してもらえる人だけがこの勝負に参加することにします。では、この黄金のトラは、ノロちゃんと二人で持って帰りますね」
二人の少年は、黄金のトラをしっかりと抱えて明智探偵事務所に戻り、明智先生にこのことを報告しました。すると、
「あの人は雲井良太(くもいりょうた)という、ちょっと変わった大金持ちなんだ。決して悪い人ではないから、知恵比べをやってみるといいよ」
と、うれしいお許しが出ました。
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