初級翻訳・妖怪博士 第27話

妖怪博士

わたしがどんなに感謝しているか、言葉にあらわせないほどですよ。もしきみが救ってくれなかったら、愛子はどんなおそろしいめにあっていたか知れません。人さらいというものは、今でもないとはいえないからね。さあ、奥へ通ってください。奥の部屋でゆっくりお話ししましょう。わたしはきみのような活発な子どもさんが大好きなのですよ。わたしはこうみえても発明家でしてね。あるすばらしい機械の発明を完成したところなのです。それもきみにお目にかけたいのです。その機械は奥のわたしの部屋においてあります。さあ、こちらへ。なにも遠慮することはありません。きみは愛子を助けてくださった恩人なのですからね」
蛭田博士はさも好人物らしく、ニコニコと作り笑いをしながらネコなで声でそんなことをしゃべりつづけ、うしろから小泉君の背中をおすようにして、うす暗い廊下を奥へ奥へと連れていきました。
廊下をグルグルまがってつきあたったところに、ふつうのドアよりはずーっと小さい妙なひらき戸があります。
蛭田博士はそれを外へグッとひらいて、小泉君に先にお入りなさいという身ぶりをしました。
「さあ、この部屋です。これがわたしの研究室で、すばらしい機械がおいてあるのです。さあ、どうぞ」
いわれるままに、小泉君はついうかうかと、先に立ってその部屋へ入ってしまいました。
見れば、なんというへんてこな部屋でしょう。
二メートル四方ほどのごくせまい場所でイスもテーブルもなく、妙なことに四方の壁も天井も床板も、すっかり鉄板ではりつめてあるのです。
その鉄ばりの壁の一方のすみに、小さなくぼみができていて、そこに自動車のルーム・ランプのような豆電球が光っています。「その機械ってどこにあるんですか。この部屋には何もおいてないじゃありませんか」小泉君がふしんそうにあたりを見まわしてたずねますと、まだ部屋の外にいた蛭田博士はひらき戸を半分しめて、その間からニューッと顔をつきだしながら、とつぜん、今までとはまるでちがった声を出しました。
「きみはその機械が見えないかね。きみの今はいっている部屋そのものが、一つのすばらしい機械なのだよ。わしの大発明さ。ハハハ……」らんぼうなことばに、オヤッと思ってふりむきますと、博士の顔までが、うってかわったうすきみの悪い形相でした。
「おじさんは、どうしてそんなところにいるんです。なぜ部屋の中へ、おはいりにならないんです」小泉君はひじょうな不安を感じて、なじるようにたずねました。
「なぜはいらないかって? フフフ……、わしは命がおしいからさ。自分で発明した機械だけれど、そこへはいるのがこわいのだよ。フフフ……、きみは勇気のある子どもだ。ひとつわしの発明した機械のあじをためしてくれたまえ。そこにじっとしているとね、今にお面白いことがはじまるんだよ。まあ楽しみにして待っているがいい。フフフ……」
「エッ、なんですって。じゃ、きみはぼくをここへとじこめるつもりですか。きみはだれです。きみはいったいだれです」小泉君は、いきなりドアのところへとびついていいて、怪紳士をおしのけようとしましたが、そのとき早くも、ドアは、ピッタリと外からしめられ、かぎをかける音がカチカチと聞こえてきました。

おそろしい部屋
小泉君は、何がなんだかわけがわかりませんでした。親切にまい子の少女を連れてきてやったのに、いきなりこんなみょうな部屋へとじこめてしまうなんて、ここの主人は気でもちがっているのでしょうか。
でも、主人は見たところ、なかなかりっぱな紳士です。三角形のあごひげをはやし、大きなべっこうぶちのめがねをかけて、偉い学者のような風さいです。そのりっぱなおじさんが、少女の恩人でもある小泉君を、こんなめにあわせるなんて、いったいどうしたわけなのでしょう。
しばらくすると、どこか壁の向こうがわで、ジジジ……という、モーターでもまわりはじめたようなうすきみの悪い物音が聞こえてきました。小泉君は、外科病院の手術台にでものせられているような、なんともいえぬおそろしさに、口の中がカラカラにかわいてしまって、ものもいえないほどでした。きっと顔色もまっさおにかわっていたにちがいありません。
そのうちに、モーターらしい音にまじって、歯車と歯車とがかみあうような、そうぞうしいひびきがおこり、気のせいか、鉄ばりの部屋が、小きざみに震動しはじめたように思われます。
小泉君の心臓は、早鐘をつくように、ドキドキしてきました。ああ、ぼくはどうなるのだろう。今にどんなおそろしいことがおこるのだろうと思うと、もうじっとしてはいられません。逃げ道のないことはわかっていても、どうかして逃げだせないものかと、追いつめられたけだもののように、キョロキョロとあたりを見まわしました。
そして、ふと天井を見あげますと、おお、なんということでしょう。その黒い鉄ばりの天井が、少しずつ少しずつ、まるで虫のはうようなのろさで、下へ下へとおりてくるではありませんか。
小泉君は、この悪魔のようなできごとを、きゅうには信じる気にはなれませんでした。自分の目が、どうかしているのではないかとうたがいました。でも、じっと見あげていますと、天井はたしかにジリジリとおりてきます。一秒間にほんの一ミリほどのおそい速度ですけれど、確実に、少しの休みもなく、小泉君の頭上を目がけておりてくるのです。
「おじさん、ここをあけてください。早くあけてください」小泉君は死にものぐるいで、鉄ばりのドアをたたきつづけました。
「ハハハ……、やっとわかったようだね。天井を見たかね。その天井は、あたりまえの天井じゃないんだよ。厚さが一メートルもある、重い重い天井なんだよ。その天井がドンドンきみの上へ落ちてくるんだ。すると、おしまいには、どういうことになると思うかね。え、小泉君、きみにはそれがわかるかね」歯車のひびきのあいだから、しわがれ声がきみ悪く聞こえてきました。
小泉君はゾッとして、その重そうな鉄ばりの天井を見あげました。するとどうでしょう。天井はいつのまにか、もとの高さよりも五、六センチ低くなっているではありませんか。そして、なおも下へ下へと、少しの休みもなくおりてくるではありませんか。
「おじさん、もうわかりました。おじさんの発明はわかりましたから、早く機械をとめてください。そしてぼくを外へ出してください」」小泉君が一生懸命に声をふりしぼって叫びますと、すぐさま外からしわがれ声が答えました。
「ハハハ……、きみはそこを出るつもりでいるのかい。
ハハハ……、ところが、わしはけっしてこのドアをひらかないのだよ。
」
「エッ、なぜです。
なぜ、ぼくをこんなひどいめにあわせるのです。
おじさんはいったいだれです。
」
「ウフフフ……、だれだと思うね。
ひとつあててごらん。
きみは少年探偵団の団員だったね。
その探偵の知恵をしぼって、ひとつ考えてごらん。
わしがだれだか、なぜきみをおそろしい機械部屋の中へとじこめたか。
」
「え、おじさんは、ぼくが少年探偵団員だということを知っているのですか。
」
「知っているとも、知っていればこそ、あの少女をおとりに使って、ここへおびきよせたのだよ。
かわいそうだが、チンピラ探偵さん、まんまといっぱい食ったねえ。

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