それにあたりがまっくらで、光といっては懐中電灯ただ一つだものですから、いっそうこわい夢でもみているような感じで、その奥底の知れぬやみの中から、何かとほうもない怪物が、今にもノソノソあらわれてくるのじゃないかと思うと、さすが勇敢な少年たちも、背中がゾーッと寒くなってくるのでした。
「ワーッ!」とつぜん、だれかがとんきょうなさけび声をたてました。
すると、それが洞くつにこだまして、どこか遠くのほうで怪物がわめいているような声が、「ワーッ、ワーッ、ワーッ。」と、いくつもいくつも、だんだんかすかになりながらひびいてきました。
「だれだッ。
どうしたんだ。」
「びっくりするじゃないか。」
「ぼくだよ、ぼくだよ。」
「斎藤君じゃないか。
どうしたんだい。」
「なんだか氷のようにつめたいものが、首のところへあたった。
ああ、きみがわるい。」
「なあんだ。
そりゃあ天井から水が落ちたんだよ。
岩のわれめから山の水が落ちてくるんだよ。」
大きな声を出しますと、遠くのほうから、怪物のようなこだまの声がかえってくるものですから、みんなそれにおびえて、ささやくような低い声で話しあうのです。そうして、だんだん岩肌を伝いながら、洞くつを一周して、第二、第三、第四と、四つの枝道があることを確かめましたが、みんなで相談したうえで、その中でいちばん広い第二の道をえらんで、なおも奥へと進むことになりました。
その枝道はかなり広いので、四つんばいになる必要もなく、また一列縦隊をつくって歩きはじめましたが、十メートルも進んだかと思うと、もう道が二つに分かれていました。
「いくら道が分かれても、ひもがあるから大丈夫だよ。
ともかく、少しでも広いほうへ進むことにしようじゃないか。」
先頭の小林君は、そう言いながら、右手の広い穴へと入っていきました。
道は、あるところは広く、あるところは狭く、急な上り坂になると思えばまた下り坂になり、それがうねうねと曲がりくねって、果てしなく続いていました。
そのうえ、二十歩か三十歩歩くごとに枝道に分かれるものですから、まったくの迷路です。
「ああ、ずいぶん枝道があったね。
いくつだか覚えているかい?」
「五つだよ。」
「ウン、五つだったね。
もう道しるべのひもがなけりゃあ、とてももとの出口へ帰れないよ。
ひもは大丈夫だろうね。」
「大丈夫。
でも、玉が小さくなっちゃったよ。
もう二十メートルぐらいしか残っていないよ。
ぼくたちは入り口から八十メートルほど歩いたんだね。」
「たった八十メートルかい。
ぼくは五百メートルも歩いたような気がするぜ。」
真っ暗な闇の中を手をつないで歩きながら、篠崎君と桂君とが、ぼそぼそとささやきあっていました。
先頭の小林君や羽柴君とはだいぶ離れているので、遠くの懐中電灯の光の中に、前に進んでいく少年たちの頭が、まっ黒にチラチラするのがかろうじて見わけられるばかりです。
「まるで、地獄へでも旅行しているようだね。
鉱山の穴の中も、きっとこんなふうだろうね。」
「ウン、そうだね。
ずいぶん気味が悪いけれど、でも、すてきだね。
ぼくはこんなところへ来たの、生まれてはじめてだよ。」
列の中ほどでは、やっぱり手をつなぎ合っていた上村洋一君と斎藤太郎君とが、そんなことを話しあっていました。
すると、ちょうどそのとき、列の先頭から、小林団長の大きな声が響いてきました。
「おやッ、こんなところに橋があるぜ。
厚い板がわたしてある。」
その声といっしょに小林君が立ち止まったものですから、暗闇の中の行列は、ピタリと止まってしまいました。
怪物
「羽柴君、なんだか深い穴があるようだよ。
懐中電灯をかしてごらん。」
小林団長は羽柴君から懐中電灯を受け取ると、それで足もとを照らしてみました。
そこには、どんな幅とびの名人だって飛び越せそうもないような、大きくて深い穴があいていて、その真ん中に、じょうぶな厚い板が橋のようにかけられています。
その板がまだ新しいところを見ると、ごく最近、だれかが架けておいたものに違いありません。
小林君はその板の下へ懐中電灯を差し入れて穴の深さを調べましたが、その底は懐中電灯の光も届かないほど深く、下の方へ行くほど広くなっていて、耳をすますと、はるか下のほうから、ゴウゴウと水の流れる音が聞こえてきます。
もし足をすべらせて落ち込んだら、もちろん助かる見込みはありません。
「みんな、用心するんだよ。
ここに深い穴があるから……。」
小林君が叫ぶと、その声が深い穴に反響してガーン、ガーンと響きましたが、すると、穴の底に向けている懐中電灯の光の中へ、下の闇の中から、何やら黒い大きなものが、ものすごい速さでスーッと浮かび上がるように現れてきました。
懐中電灯の弱い光では、とっさに何ものかわかりませんでしたが、それはネズミ色のフワフワしたようなもので、それがみるみる形を大きくしながらスーッと飛びあがってきたかと思うと、のぞき込んでいた小林君や羽柴君の目の前を、恐ろしい勢いでかすめ通り、向こうの闇の中へと矢のように消えていってしまいました。
羽柴君はこの不意打ちに面食らって、「ワーッ!」と悲鳴をあげながら飛び退きましたが、しかし、大きな井戸のような穴の中から飛び出してくるものは、一つだけではなかったのです。
羽柴君の悲鳴に驚いて駆け寄った少年たちが、お互いに手を握り合いながら恐る恐るのぞき込む穴の底から、つぎからつぎへと、ネズミ色のフワフワしたものがいくつも重なり合って、浮かび上がるように飛び出してくるではありませんか。
妙な風を切るような羽音をたてて、まるで地獄の底から悪魔の飛行機が舞い上がってくるような感じでした。
「アッ、コウモリだ。
コウモリがウジャウジャいるんだ。
みんな、なんでもないよ。
コウモリだよ。
コウモリが光に驚いて飛び出してきたんだよ。」小林君が大声にいって聞かせても、少年たちは生きたコウモリを見るのははじめてだったものですから、あまりのきみ悪さに、もうこのまま引きかえして、洞くつの外へ出たいように思うのでした。
「なあんだ。みんないやにびくびくしているじゃないか。探検家がコウモリにおそれをなして逃げだしたなんて人に聞かれたら、もの笑いの種だぜ。さあ、びくびくしないで、もっと奥へ進もう。みんな、足もとに注意するんだよ。」
小林君は、またたくうちに洞くつの奥へ消えさったコウモリのむれを見送りながら一同を元気づけるようにいって、羽柴君の手をとると、ぐんぐん板橋をわたりはじめました。
少年たちも、そういわれては、あとへ引くわけにいきません。十人はまた一列縦隊になって、たがいに手をつなぎあいながら、橋をわたって、なおも奥へ奥へと進みました。
それから、せまい道を少し行きますと、とつぜん左右の岩はだが遠のいて、がらんとした感じになりました。第二の広い空洞へ出たのです。
「おや、また広くなったね。さあ、また岩にさわりながら、右のほうへまわるんだよ。」
小林君のさしずで、みんながつめたいでこぼこの岩はだをなでながら、大空洞の周囲をまわりはじめたときでした。
列のうしろのほうから、「アッ!」というさけび声がしたかと思うと、何かドサッとたおれるような物音が聞こえました。
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