初級翻訳・川へおちた玉ねぎさん 第1話

川へおちた玉ねぎさん

ある町に、「ジャガイモ・ホテル」という名前の宿屋がありました。
宿の主人がジャガイモさんだったからです。
主人のジャガイモさんはとっても親切な人だったので、このホテルはいつも大人気。ときには、一晩に二人や三人のお客さまをお断りしなければならないほどでした。

ある日の夕方、もうこれ以上ひとりも泊められないというほど満員になってしまったので、ジャガイモさんはホテルの入り口に「満員です。あいにくですが、今晩はどなたもお泊めできません」という大きな看板をかけようとしました。
するとそこへ、立派な身なりの玉ねぎさんがやってきて、こう言いました。
「どうかジャガイモさん、私を泊めてくれませんか。ひどく疲れているんです」

ジャガイモさんは気の毒に思いましたが、空いている部屋がないので、「申し訳ありませんが、もう満員になってしまったんですよ」と断りました。
けれど玉ねぎさんは、朝からずっと遠い道を歩き続けてクタクタだったので、これ以上歩く力はありません。
「馬小屋でも屋根裏でも、どこでもいいですから、どうか泊めてください」と一生懸命たのみました。

ジャガイモさんは考えました。ワンちゃんやネコちゃんだったらいいけれど、玉ねぎさんを馬小屋に泊めたら、食いしん坊の馬が玉ねぎさんを食べてしまうかもしれません。屋根裏に泊めたら、遠慮知らずのクモが巣をかけてしまうでしょう。
ジャガイモさんはとても困りましたが、ふと地下室のことを思い出して、「では、地下室でよろしければお泊めしましょう」と言いました。

玉ねぎさんは大喜びで泊めてもらうことにしました。ジャガイモさんに案内されて地下室へ行くと、そこは真っ暗で何も見えません。玉ねぎさんは手探りで小さなベッドを見つけると、そこに横になるなり、ぐっすり眠り込んでしまいました。

すると不思議なことに、そのベッドが少しずつ、コツトン、コツトンと窓の方へ動き始めたのです。
窓際まで来ると、ベッドは急にパンとひっくり返り、そのはずみで玉ねぎさんは窓の外へ放り出されてしまいました。

さあ皆さん、窓の外に何があったか知っていますか?
窓の外には、大きな川が流れていたのです。
玉ねぎさんは「あっ!」と言う間もなく川の中へザブンと落ち、見ていたうちに水の底へ沈んで見えなくなってしまいました。
かわいそうなことに、玉ねぎさんはベッドと間違えて、野菜の皮を外に捨てるための「電気仕掛けの箱」の中に入って寝ていたのです。

しかし――やがて夜が明けました。

×       ×

朝になったので、ジャガイモ・ホテルの主人は、パンと紅茶を銀のお盆に乗せて地下室へやってきました。しかし、昨晩泊まったはずの玉ねぎさんの姿は、影も形もありません。玉ねぎさんが持ってきたトランクだけが残っていました。

ジャガイモさんは大変心配して、さっそく新聞社へ行き、こんな広告を出してもらいました。
「昨晩、私の家の地下室に泊まった玉ねぎさんが行方不明になりました。心当たりのある方は、私のところまで知らせてください。知らせてくださった方には、お礼に一円さしあげます。ジャガイモ・ホテル」

するとその日の夕方、ひょっこりと、昨日いなくなった玉ねぎさんが帰ってきました。
ジャガイモさんが「まあ、よくぞ無事に帰ってきてくれました!どれだけ心配したことか」と言うと、玉ねぎさんは、どんなふうにベッドから川へ落ちたか、どうやってあわてて泳いで岸に這い上がったか、そして岸の上で新聞の広告を読んだことを話しました。

ジャガイモさんは頭をかきながら言いました。
「それは、まことにお気の毒なことをしました。その代わり、今晩はとてもすばらしいお部屋が空いていますから、ぜひ泊まってください」

玉ねぎさんは笑いながら言いました。
「ああ、僕がもう一日遅くここへ来ていたら、昨日みたいなひどい目には遭わなかったのになあ」

けれど不思議なことに、玉ねぎさんはこのジャガイモ・ホテルがすっかり気に入ってしまい、一生涯、このホテルの番頭さんになって、ジャガイモさんと一緒に住むことになったのです。

ですから皆さん、皆さんが食べる洋食で、ジャガイモが乗っているお皿には、きっと玉ねぎも添えてあるでしょう?
それは、こんなわけがあったからなのです。
その翌日から、ホテルの看板はこんなふうに書き換えられました。

「ジャガイモ・玉ねぎホテル」と。

コメント

タイトルとURLをコピーしました