初級翻訳・怪塔王 第3話

怪塔王

「おじさん、それが変な顔なんです。まるで『塩ふき』のお面のような顔でした」
 するとミチ子も、それに合わせて言いました。
「ああ、あのおかしなおじいさんのことね。そういえばそうだったわ。昨日ここを通りかかったとき、兄さんと一緒に見て笑ったでしょう? だって、本当に変わった顔をしていたもの。ふふふ」
 ミチ子は、あの口が突き出た滑稽な顔を思い出して、おかしくてたまらない様子です。
「とにかく、あの塔を調べてみろという筋からの命令で、おじさんははるばるやってきたのだ。ミチ子は危ないから、家で待っていなさい。おじさんは一彦君と一緒に様子を見てくるから」
 ミチ子は少し不満そうでしたが、帆村探偵がそう言うので、仕方なく家へ帰ってお留守番をすることになりました。
怪塔までは、そこから一キロほどの道のりでした。
塔の裏手はこの辺りでは珍しい森になっていて、前方は海との間に、まるで寝そべっているような形の丘が横たわっていました。
一彦と帆村は急ぎ足で向かいましたが、到着するまでに三十分もかかりました。
近くまで来ると、塔はさらに高くそびえ立ち、頭の上から押しつぶされるような威圧感を感じました。
「おじさん、ここに入り口があるよ」
「うむ、そうか。開くかどうか試してみよう」
 帆村は慎重にゴム手袋をはめ、ドアの取っ手を握って押してみましたが、びくともしません。

4

 怪塔王は、塔の一番上の部屋に置かれたどっしりとした肘掛け椅子にうずくまり、こちらを向いていました。
「あっはっはっ! 何をしようと、お前たちにこの入り口のドアが開けられるものか。あっはっはっはっ」
 怪塔王は壁を眺めて、からからと大声で笑っています。
そうです。この壁には不思議なことに、塔の入り口と同じ光景が映し出されており、その前で帆村探偵と一彦がうろうろしている様子がはっきりと見えているのです。
まるで映画が映っているようでもあり、魔法の鏡のようでもあります。塔の下の入り口の様子が、こうして塔の上の部屋から見えるようになっているのです。
「あっはっはっ。まだ諦めないのか。では一つ、脅かしてやろうか」
 そう言いながら、怪塔王は机の上から長い管のついたマイクを取り上げ、口元に近づけて怒鳴りました。
「おいおい、なぜうちの周りをうろうろしているんだ。ははあ、鍵穴を覗いたな。変な真似をしていると、今に頭の上から毒ガスをぶっかけるぞ!」
 帆村と一彦の頭上から降ってきたのは、まるで割れた鐘のような大きな怒声でした。
「これはかなわん! おい一彦君、早く逃げるんだ!」
 帆村探偵は普段の彼からは想像もつかないほど弱音を吐いて、その場から逃げ出しました。
「あっはっはっ、ざまを見ろ」
 怪塔王は、なおもからからと笑い続けます。
怪塔王とは一体何者なのでしょうか。しかし、この怪塔に驚くべき最新科学の仕掛けが施されていることは間違いありません。
では、今沖合に座礁している軍艦「淡路」の事件とも、何か関係があるのでしょうか。
それにしても、あの勇敢な帆村探偵は、なぜしっぽを巻いて逃げ出したのでしょうか。

砂丘

 1

 帆村探偵と一彦少年は、怪塔王に怒鳴りつけられたので、一目散に逃げ出しました。
怪塔から五百メートルほど走ったところに、風で砂が盛り上がってできた丘があったので、二人はこれ幸いと、その陰に飛び込みました。
砂丘の陰から後ろの怪塔を振り返ってみますが、特に追いかけてくる者の姿もなく、毒ガスのようなものも見当たりません。
二人はほっとして安心のため息をつきました。
「なんだ、おじさんは探偵のくせに、ずいぶん弱虫なんだね。『これはかなわん、逃げろ逃げろ』なんて、あんな大声を出して逃げるなんてさ……」
 一彦は砂丘の陰に寝転がったまま、帆村荘六おじさんをからかいました。
すると帆村探偵はニヤリと笑って言いました。
「うふふふ、ずいぶん弱虫に見えただろうね。それでいいんだよ。あの怪塔の大将は、テレビジョンのような機械を使って、僕たちが忍び寄ったところを手にとるように見ていたんだ。ところが、こっちには向こうの姿が見えないのだから、戦いようがないだろう? あんなときは、こっちが弱虫で腰を抜かしたように見せておけば、向こうは『自分が勝った』と思い込んで安心する。そこで向こうが油断した隙を狙って、こっちが攻め込むんだ。どうだ、いい考えだろう?」
「へえー! じゃあ、帆村おじさんは弱虫じゃないんだね。そうとは知らなかったから、さっきはがっかりしちゃったよ」
 帆村はまたニヤリと笑いました。
「さあ、そこで一彦君。今度はいよいよ、この怪塔を攻める方法を考えるんだ」「一体どうしたらあの塔の中にうまく忍びこめるだろうか」
「さあ――」
 これには一彦も弱ってしまいました。

2

 一体どういう風にやれば、あの怪塔の中にしのびこめるでしょうか。あの空高くそびえ立った塔を、どこからよじ登ればいいのでしょうか。
 入り口の扉には、頑丈な錠がかかっています。いや、それだけではないのです。塔の近くへ寄ると、怪塔王はすぐにそれを知ってしまいます。なにしろ、塔の三階にいて、入り口付近の様子がありありと映し出されるテレビジョン機械を持っているのですもの。
 そう考えてくると、怪塔の中に忍びこむには、二重三重の難しい問題が立ちはだかっています。
「どうだね、一彦君。いい考えは浮かばないか」
「僕、なにもわからないや」
「なにもわからないようじゃ駄目だねえ。もっと考えなくちゃ」
「おじさんは何か考えているの?」
「うん、おじさんも実は困っているんだが、とにかく昼間行くと怪塔王に見られてしまうから、夜になって近づくのがいいということはわかるよ」
「なるほど、おじさんはえらいや。それからのちはどうするの?」
「それからのちは――困っているのだ」
「おじさん、梯子か竹竿をもっていって、一階の窓に取りつき、ガラス窓を壊して入ってはどうかね?」
「それは駄目だ。さっき窓をよく見てきたんだが、ガラス窓の外にはもう一枚、鉄の扉が閉まるようになっている。夜になると、きっと窓は鉄の扉に閉ざされて、なかなか入れないと思うよ」
「それじゃ困ったね。窓からは駄目だ」
「入り口の扉を開ける合鍵でもあればいいんだが……」
「鍵?」
 そのとき一彦は、ふと猿の頭のついた鍵のことを思い出しました。昨日、怪塔王が砂の上に落としていった、あの大きな変な形をした鍵のことです。

3

「そうだ、あの鍵があれば、入り口が開くかもしれない」
 と、一彦は独り言を言いました。
「なに、鍵だって? 一彦君は、あの入り口の鍵を持っているのか」
 と、帆村探偵は驚きの声を上げました。
 そこで一彦は、今その鍵を持っているわけではないこと、しかし昨日一彦が変な鍵を砂の上で拾ったこと、そして間もなく怪塔王が引き返してきて、その鍵を持っていってしまったことなどを話しました。
「ああ、惜しいことをした。その鍵があれば、今どんなに役に立ったかわからないのだが」
 と、帆村探偵は残念そうに言いました。
 一彦も、帆村探偵に劣らず残念に思いましたが、そのときふと気がついたことがありました。
「ねえ、おじさん。

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