初級翻訳・怪塔王 第12話

怪塔王

するとこの怪力を博士に調べていただかねばなりませんが、何日ぐらいかかりますか」
「さあ、そいつはよくわからんが――」と言って、大利根博士は額にしばらく手を当てていましたが、「まあ、この通風筒の鉄板などを持って帰って、できるだけ早く調査を終えることにしましょう。じゃあ、もう帰りますよ」
「博士、もうお帰りですか」
「こんな落ち着かぬところじゃ、いい考えも出ませんよ。はい、さようなら」
そう言って、大利根博士は後を振り返りもせず、すたこらと帰っていきました。

2

それと入れ違いに、小浜兵曹長が甲板へ飛び出してきました。
「塩田大尉、一大事ですぞ」
「なんだ、小浜。お前にも似合わず、慌てているじゃないか」
「あっはっはっ、慌てているかもしれませんね。とにかく怪塔ロケットの行方がわかりかけたのです」
「なに、怪塔ロケットの行方が――」
と、塩田大尉がびくりと太い眉を動かし、
「ほう、それはうまい!」「しかし、大利根博士は、怪塔から発射される例の怪力の正体がわからないうちは、とても怪塔の行方などわかるまい、と言っておられたはずだがね」
「博士はそんなことを言われましたか。ですが、いま無線班が、怪塔から出していると思われる無線電信をつかまえたのです。非常に弱い信号で、最初は二十秒間ほどしか聞こえませんでしたが、たしかに軍艦『淡路』を呼んでいるのです」
「ほうほう」
塩田大尉は身を乗り出しました。
「信号の意味でもわかればいいと思い苦心しましたが、たしかに電文を打ってはいるものの、符号が途切れ途切れで、よく意味が聞き取れません。しかし、『淡路』の呼び出し符号だけは何度も繰り返されるので、ははあ、こちらを呼んでいるのだな、とわかるのです」
「うむ、それから?」
塩田大尉は続きを促しました。
「そこで、相手が何を言っているのかを聞き分けることはあきらめまして、代わりにその無線電信がどの方角からやってくるかを調べることにして、すぐ取りかかりました」
「大いによろしい。それで、方角はわかったのか?」
「はい。最初の電信はすぐ消えてしまいましたが、それから五分ほどたってからまた同じ電信が入ってきたので、そいつを捕まえることに成功しました」

3

小浜兵曹長は、塩田大尉の前で、なおも熱心にどうやって怪電波の飛んできた方角を測ったかについて、報告を続けました。
「塩田大尉、その方角は方向探知器の目盛りにはっきりと現れました」
「どっちだ、その方角は」
大尉は地図を広げました。
「はい、ここが九十九里浜で、この地点から真北より五度ほど東に傾いた方向に直線を引いてみます」
そう言って、兵曹長は地図の上に赤鉛筆でスーッと線を引きました。
「この方角です」
その方角というのは、千葉県の香取神宮のそばを通り、茨城県に入って霞ヶ浦と北浦の中間を抜け、水戸の東にあたる大洗海岸を突き抜けて、さらに日立鉱山から勿来関(なこそせき)の方へ連なっていました。
「ふうむ、北の方角だな。ついでにどの地点かわかるといいのだが――」
「はあ、それもやってみました」
「やったのか?」
「はい。ちょうど駆逐艦『太刀風』が、鹿島灘の東方約二百キロメートルのところを航海中でしたので、それに例の怪電波の方角を測ってもらいました。あいにく洋上は雨風が激しく、相当波立っているそうで、『太刀風』の無線班もだいぶ苦心して時間がかかりましたが、それでもついにわかりました。太刀風から測った怪電波の方角は、大体、真西から北へ十度ということになりました」
「そうか、真西から北へ十度傾いているというと……日立鉱山のあたりか、勿来関の間となるね」
「はい、線を引いてみますと、こうなりますから――」
兵曹長は、太平洋上から青い鉛筆で線をつけ、それをずっと西へ引っ張っていきました。そうすると、さっき引いた赤線と、いま引いた青線とが交わったその地点こそ、勿来関!

4

方向探知器というものは、大変重宝な機械でした。怪塔の隠れている地点から発射される弱い電波を、九十九里浜にいる軍艦『淡路』と、太平洋を航行中の駆逐艦『太刀風』との両方から方向を測り、その地点が勿来関だとちゃんと当てることができるのですから、実に見事な機械だと言わねばなりません。我々日本には、世界に自慢できるほどの立派な方向探知器があるのは心強いことです。

塩田大尉の顔は喜びの色にあふれ、小浜兵曹長の手を固く握りしめました。
「方向探知器の方が、大利根博士よりも偉い手柄を立ててしまったぞ」
「はあ、そうでありますか」
「なぜといって、大利根博士は怪塔ロケットがどこへ行ったか調べるのは、なかなか難しいと言っておられたからな」
「はあ、では大利根博士に、怪塔の行方がわかったと知らせますか?」
「そうだね」
大尉はしばらく考えていましたが、「まあ、知らせないでおこう。少し思うところもあるから」と、意味ありげに言いました。

それはさておき、あの弱々しい怪電波は、果たして本当に怪塔から出ているのでしょうか。もしそうなら、一体誰があの信号を出しているのでしょうか。怪塔に閉じ込められていた帆村探偵と一彦少年は、いまどうしているのでしょうか。

それはともかく、塩田大尉は小浜兵曹長が持ってきた怪電波の発生地点の調査結果を、すべて艦隊旗艦へ知らせました。司令長官はこの報告を聞くと、すぐさま勿来関へ向けて、偵察機隊を派遣するよう命令を下しました。塩田大尉や小浜兵曹長も、その作戦に参加することになったため、九十九里浜に別れを告げることになりました。そこで、ミチ子さんを軍艦に招いてお別れの言葉を伝え、一彦少年と帆村探偵を必ず助け出すことを誓いました。

偵察機出発

1

怪塔王が隠れている場所は、勿来関(なこそせき)のあたりらしいという見当をつけ、わが塩田大尉と小浜兵曹長は、ミチ子さんにさよならを告げて、偵察機に乗り込みました。
偵察機隊は、すぐに空へと飛び立ちました。
翼をきれいにそろえて、真っ直ぐに、北へ北へと飛んでいきます。
九十九里浜は、あっという間に目には見えないほど小さくなってしまいました。
「塩田大尉、平磯基地からも、爆撃機六機が勿来関へ向けて出発したと報告がありました」
機上の無線機をあやつっていた小浜兵曹長が、伝声管を通して大尉に知らせてきました。
「うむ、そうか」
いよいよ怪塔王を討ち取る時がきたのです。
しかし、怪塔王はそんなに簡単に倒される相手でしょうか。
しばらくして、塩田大尉は尋ねました。
「おい、小浜兵曹長、その後の怪塔からの無線は、何かはっきりとしたことを言ってこないか」
すると伝声管のなかから小浜兵曹長の返事が聞こえてきました。
「軍艦『淡路』を出てからというもの、あの怪電波は少しも入ってきません。ただいまも、一生懸命に探しているところであります」
「そうか、無線を打ってこないとは心配だな。空へ上がれば、無線はより一層大きく聞こえるはずだから、向こうが電波を出せば、聞こえないはずはないのだが」
そう話している最中、突然小浜兵曹長が、驚いたような声を上げました。
「あっ、塩田大尉!入りました、入りました!たしかに例の怪電波です。たいへん大きく聞こえます。

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