初級翻訳・怪塔王 第40話

怪塔王

相手は自分を捕虜にしたいのであって、殺すつもりはないのだということを、すでに見抜いていたからです。

果たして、ピストルを持っていない十人ほどの敵が、合図とともにどっと押し寄せてきました。
「おお、来たな。そんなに俺に投げ飛ばされたいのか!」
兵曹長は、敵の来るのを待たず、自分から進んで敵の一人に飛びつき、
「やっ!」
と、あざやかな巴投げで、相手の体を水車のように投げ飛ばしました。あとの敵は不意を突かれ、その場に重なり合って両手をつきました。それを見るやいなや、兵曹長は栄螺(さざえ)のような固い拳を握りしめ、手近な敵からその頬を、ぱしん、ぱしんと殴りつけました。いや、なんといい音のすることでしょう。

4

小浜兵曹長は、海辺で十数人の敵を相手に、格闘を続けています。
「どうだ、降参か!」
と叫んでは投げ、どなっては投げ、敵の荒くれ男たちを次々と転がしました。ルパシカを着た男も黒人も、地面に這いつくばって、うめき声を上げています。
どーん。
どどどーん。
その時でした。
大きな銃声が響き渡ったのは。
――
「ううむ」
小浜兵曹長は、ばったりと砂の上に倒れ込みました。
敵がピストルを撃ったのです。
兵曹長が倒れるのを見て、敵は急に元気を取り戻し、その周りに集まってきました。
兵曹長は、起き上がろうとしてしきりに砂の上に腕をつっぱっていますが、なかなか起き上がることができません。
それもそのはず、彼は太もものあたりをピストルの弾で撃ち抜かれていたのです。
鮮やかな血がズボンを赤く染め、なおも広がっていきます。
敵はそれを見ると、どっと兵曹長の上におおいかぶさりました。
何としてでも、彼を捕虜にしてしまおうというのです。
「く、貴様らなんかに捕まってたまるものか。
この野郎、えいっ」
小浜兵曹長は腕の力だけで、また敵を投げ飛ばしました。
本当に勇猛な兵曹長です。
そのとき、敵のリーダー格の男が、卑怯にも兵曹長の後ろからそっと忍び寄りました。
そして兵曹長の油断を見すますと、足を高く上げ、硬い靴の先で、兵曹長の後頭部を力まかせに「がぁん」と蹴りつけました。
「あっ!」
いくら勇猛でも、頭を蹴られてはたまりません。
兵曹長は苦しそうにうめき、そのまま砂の上に手足をだらりと伸ばして、静かになってしまいました。
敵たちの、荒い吐息が聞こえました。

秘密艦隊会議

1

○○軍港に停泊している軍艦「六甲」では、秘密艦隊司令官の池上少将をはじめとする幕僚一同、そして塩田大尉や一彦少年の姿もあり、会議が続けられていました。
司令官の池上少将は、一彦少年の顔をじっと見つめて言いました。
「さあ、遠慮なく一彦君の考えを言ってみなさい。
怪塔王が博士を殺したように見せかけて、それでどうしたというのかね」
一彦は、言おうか言うまいかと、まだ口をもごもごさせています。
「おい一彦君、司令官のおっしゃるとおり、君の考えを大胆に言ってみらんか」
塩田大尉も、そばから口を添えて一彦を励ましました。
「はい。
では、思い切って言います」
と、一彦はすっくと席から立ち上がりました。
「これまで僕が見たところでは、大利根博士の屋敷にあったエレベーター式の実験室といい、猿の鍵で開く秘密室といい、怪塔王が怪塔の中に仕掛けているものと同じなんです。
だから博士と怪塔王は、なんだか同じ仲間のようにおもわれます。
ところが、あの邸内の秘密室で、博士の血のついたズボンが発見されました。
博士の身に何か大変なことがあったように思われます。
ちょっと見ると、怪塔王が屋敷に忍び込んで博士を殺したように考えられます。
しかし、これから怪塔王が大がかりな活動をしようというときに、大事な自分の仲間を殺すなんてことは変だと思います。
僕は――僕は、こう思います。
怪塔王と大利根博士とは、別々の人ではなく、同じ人だと思います」
「なに、怪塔王と大利根博士とは、同じ人だというのか。
ふうむ、それは思い切った考えだな」
と、司令官は驚かれました。
「もっと詳しく言いますと、怪塔王というのは、実は大利根博士の変装であると思います」
「えっ、大利根博士が怪塔王だと――」

2

「大利根博士が怪塔王だというのか」
なんと大胆な考えでしょう。
一彦少年のこの大胆な言葉に、司令官をはじめ幕僚たちは、しばらくはお互いに顔を見合わせるだけで、言葉を返す者もいませんでした。
その中で、ようやく口を開いたのは塩田大尉でした。
「一彦君。
いくらなんでも、それはあまりに大胆すぎる結論だぞ。
あの尊敬すべき国宝級の学者が、まさか大悪党になろうとは思われない」
「でも、大利根博士の屋敷で発見された、いろいろな怪しい事実がありますねえ。
あの怪しい出来事は、どう解決したらいいでしょうか。
今もし大利根博士が怪塔王に変装しているのだと仮に考えてみると、この怪しい点々は、うまく解けるではありませんか。
博士の邸宅と怪塔が、まったく同じような仕組みになっていること、同じ鍵で開くことなど、すべて納得がいくではありませんか。
どう考えても、怪塔王というのは大利根博士が化けているのだと思います」
「一彦君の言うことには、もっともな点もある。
しかし私には、あの大利根博士が、そんな見下げ果てた国賊になったとは、どうしても考えられないのだ」
塩田大尉は、まだどうしても一彦の言うことをすべて信じる気にはなれませんでした。
ちょうどそのとき、本隊から池上司令官のところへ、怪塔ロケットを追跡中に行方不明になった小浜兵曹長からの無電が入ってきたという喜ばしい報告がありました。
「おお、小浜兵曹長からの無電が入ったそうだ」
「えっ、小浜は生きていましたか」
と、飛び上がったのは塩田大尉です。
「うむ、生きているらしい」彼は無人島の上につくられている、怪塔ロケットの根拠地に不時着しているようです。

3

「えっ、無人島の上に、怪塔ロケットの根拠地があるというのですか?」
「根拠地とは、一体どういう意味の……」
幕僚や塩田大尉は、この突然の根拠地報告に驚きを隠せませんでした。
司令官は、電文の報告書に目を落としながら言いました。
「場所は北緯三十六度、東経百四十四度にある『白骨島(はっこつじま)』だとある。そこには怪塔ロケットが七、八台も勢ぞろいしているそうだ」
「ふむ、怪塔ロケットは一台きりかと思っていましたが、七台も八台もあるのですか。これはわが海軍にとって、実に油断のならぬ敵です」
「そうだ。怪塔ロケット一台ですら、あの通り新鋭戦艦『淡路』をめちゃめちゃにしてしまったんだから、その怪塔ロケットに七、八台も一緒にやって来られたのでは、わが連合艦隊をもってしても、とても太刀打ちできまいな」
「残念ですが、司令官のおっしゃる通りであります。これが砲撃や爆撃、あるいは魚雷攻撃で攻めてくるのであれば、わが艦隊もこっぴどく反撃する自信があります。

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