ここに怪塔ロケットの根拠地があったということは、俺は無電ですっかり本隊へ知らせておいたよ。
だから今では、秘密なんてものじゃないんだ。
お気の毒さまだね」
「えっ、無電で知らせたのか」
怪塔王の声は、驚きのあまり、急に変わりました。
ここぞとばかりに、小浜兵曹長は、
「本隊では、いまに大挙して、ここへ攻めてくると言っていたぞ」
4
「なに? ここへ大挙して攻めてくるだって?」
怪塔王は、思わず聞き返しました。
小浜兵曹長が、声を大きくして、わが海空軍がこの白骨島へ攻めてくるぞとおどかしましたので、怪塔王もさすがにぎょっとしたようでした。
「どうだ、驚いたか」
怪塔王は、それには言葉を返さず、しばらく天井裏からの声は聞こえなくなりました。
「おい怪塔王、このへんで降参してはどうだ。「……わるいようには、はからわないぞ」
兵曹長は、牢獄のなかから、大きな声で怪塔王をどなりつけました。
「なにをいうんだ。
捕虜のくせに、口のへらない生意気なやつだ」
と怪塔王は、ついに腹をたてたようでありました。
「まあ、そこにそうしてひとりでいばって居るがいい。
いまに貴様は、自分でもって、どうしても黙らなきゃならないようにしてやる。
そうだ、その前に、貴様にいいものを見せてやる」
「なんだと!」
「ふん、貴様がいま居るところを、どんなところと思っているのかね。
まあいい、いま扉をあけて、外を見せてやろう。
これを見たら、貴様はもうすこしおとなしくなることだろう。
――さあそろそろあけるぞ」
怪塔王の声が、まだおわらないうちに、ふしぎや、彼の頭の上で、ぎいぎいと音がして、壁に四角な穴があきました。
そして青い光がすうっとはいってきました。
おや何だろうか。
兵曹長は、痛む体を腕でおこして、頭の上にあいた四角な壁穴をのぞきました。
「ああっ、これは!」
兵曹長は、思わず大きな声を出しました。
四角な壁穴の外にはあついガラスがはってありましたが、その向こうに見えたのは、おそろしい海底の風景でした。
5
「どうだ、窓の外が見えるか。
ゆっくり見物しているがいい」
そういいすてて、怪塔王の声は、天井裏から消えてしまいました。
窓外は、たしかに深い海底でありました。
青い光に照らしだされて、大きな魚がおよいでいるのがみえました。
海藻群が、ゆらゆらとまるで風をうけた林のようにゆらいでみえます。
見るからに気味のわるい風景です。
そのうちに、小浜兵曹長がとじこめられている部屋の明かりが、海底にさしたものと見えて、魚がゆらゆらとガラス戸のところへ、よって来ました。
それをじっと見ていた小浜兵曹長は、はっとおどろきました。
窓を外からごつんごつんと鳴らしに来る魚が見えましたので、これをとくと見なおしますと、魚も魚、たいへんな魚でありました。
それは、長さ四五メートルもあるような鮫だの、海蛇だのでありました。
それ等のおそろしい魚は、みな腹をへらしているものと見え、歯をむいて小浜兵曹長の顔がみえる窓のところへ、一つ、また一つとよって来ます。
おそろしい海底の有様でありました。
(怪塔王は、おれをこんな魚に食べさせようと考えているのか)
と、小浜兵曹長は、背中がぞっとさむくなるのをおぼえました。
だが、こんな魚に食べられてしまうのは、ざんねんです。
なんとかここを逃げだす工夫はあるまいかと、兵曹長は壁をのぼるつもりで、ちょっと手をふれてみましたが、壁はぬらぬらしていて、とてものぼることはできません。
さすがの勇士も、しょげていますと、その時、
「小浜さん、今たすけてあげますよ」
と、とつぜん頭のうえで、おもいがけぬ声がしました。
兵曹長はおどろいて立ちあがり、上を見上げました。
そのとき、上から一本の綱がするすると下って来ました。
生きていた帆村
1
おそろしい海底牢獄へ、とつぜん下された綱一本!
兵曹長は、夢かとばかりにおどろきました。
とにかく先のことはわかりませんが、これ幸にまずこの海底牢獄からぬけだしたがよいと思いましたので、綱につかまってどんどんあがりました。
煙突のようにほそ長い海底牢獄を、綱をたよりにぐんぐん上へのぼっていきますと、もうあとすぐ天井にぶつかりそうなところに、一つの横穴があいていました。
綱は、そこから下へおろされているのでありました。
「おお、ここにぬけ穴があったか」
小浜兵曹長が、その横穴をひょいと見ると、そこに命の綱を一生懸命に引張っている帆村荘六の姿が、電灯の光に照らされて見えました。
「おお帆村君か。
君は無事だったのか」
と、うれしさ一杯で、思わず兵曹長がさけびましたところ、帆村は、
(しーっ。
黙っていてください)
と、眼と身ぶりでしらせました。
どうやら帆村は、小浜兵曹長すくいだしの途中で、怪塔王に気どられることを、たいへんおそれているようでありました。
小浜兵曹長にも、すぐそれがわかりましたので、あとは黙々として綱をたぐり、帆村のいる横穴へ匐いこみました。
「帆村君、助けてくれてありがとう」
と、兵曹長が思わず帆村の方へ手をさしだせば、帆村もそれをぐっと握りかえし、
「いいえ、たいしたことではありません。
それより僕は、思いがけなく、小浜さんを迎えることができて、どんなにかうれしいんです」
「君こそ、よくこの島にがんばっていてくれたねえ。
この島は怪塔王の根拠地らしいが、一体、怪塔王は何を計画しているのかね」
「それはいずれ後からお話しします。
しかし、今は、それをお話ししているひまがないのです。」それよりも、すぐここを逃げてください」
2
「すぐ逃げろというのかね」
と、小浜兵曹長は帆村の顔を見つめ、
「いや、僕は逃げないぞ。
怪塔王と一騎うちをやって、生捕にしてやるんだ。
あいつは悪い奴だ。
わが海軍に仇をするばかりか、俺の大事な部下の青江を殺しやがった。
ここまで来れば、俺は命をかけて、怪塔王をとっちめてやるんだ」
小浜兵曹長には、青江三空曹の死が、どんなにか無念であったのでしょう。
「いや、待って下さい。
怪塔王をやっつけるには時期があります。
とにかく今夜、あらためて僕たちは会いましょう。
こうしているうちにも、もし怪塔王がテレビ鏡をのぞけば、あなたの姿も僕の姿も、すっかり見られてしまうんです。
見られたら最後、僕たちは殺されてしまいます。
さあ、ぐずぐずしないで一刻も早く、ここを逃げて下さい」
帆村は一生懸命に、小浜兵曹長に脱走することをすすめました。
「そうか。
そういうことなら、残念ながら、ひとまずここを逃げよう。
どっちへ逃げるのかね」
小浜兵曹長は、おさまらぬ胸をやっとおさえました。
「わかってくれましたね。
さあ、こっちへついて来て下さい」
帆村は、持って来た綱を、くるくるとまき、束にすると、それを肩にかついで、先に立ちました。
横穴はかなり長く向こうへつづいています。
帆村と小浜の両人は、膝がしらが痛んで腫れあがるほど、一生けんめいに匐いました。
横穴はいくたびも曲りましたが、やがてついに尽きて、その代りにぽっかり洞穴に出ました。
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