秘密艦隊には、空軍部隊と艦隊とがありましたが、両者は白骨島のすこし手前で一しょになることにしめしあわせてありました。
塩田大尉と一彦少年とは、艦隊旗艦にのっていました。そして艦の見張番の知らせをいつも注意していました。
4
怪塔王は、秘密艦隊の襲撃を、ようやく察知しました。
「ううむ、生意気な日本海軍め。海と空の両方から、この白骨島を攻めようというのか。さては、わが巨人力を忘れてしまったと見える。よし、そうなれば、日本壊滅の血祭りに、まずやっつけてしまおう」
怪塔王はすっかり腹を立ててしまいました。そしてすぐさま、怪塔ロケット隊に出動準備を命じました。
「おい、みんな! 猪口才(ちょこざい)にも、日本の空軍部隊と艦隊とがこっちへ攻めてくるぞ。あいつらが白骨島に着かないうちに、その途中でやっつけてしまうのだ。すぐさま全員、出動準備をせよ!」
さあ、出動準備だ!
怪塔王の乗っている怪塔ロケットをはじめとして、その僚機の中へ駆け込んでいく怪しい部下たち。梯子は巻き上げられ、入り口の扉や窓はすっかり閉じられました。次に、エンジンがゴーゴーと響きを立てて回り出しました。そのとき、怪塔王のもとへ内部から電話がかかってきました。
「おい、なんだ?」
「ああ、首領? たいへんなことになりました」
その声は、第一号の黒人の声でした。
「えっ、たいへんとは何がどうした?」
「この間、方向舵を直しましたでしょう」
「うん、直した」
「あの方向舵が、今壊れてしまいました。ちょっと動かしてみただけなのですが、あれを動かすモーターからいきなり火が出たと思ったら、それっきり動かなくなりました。どうしましょうか」
「どうするって、そいつは困ったな。それでは出発できないではないか。一体、なぜモーターが焼けたのか。お前がよく見張っていなかったせいだ。その罰に、お前を殺してやるぞ!」
5
いざ出動というときになって、怪塔ロケットの司令機が故障したという騒ぎですから、怪塔王はかんかんになって黒人を怒鳴りつけました。しかし、故障したモーターは、そう簡単には直ってくれません。
「困ったなあ。おい、早くモーターが直れば、お前を殺さずに許してやるよ」
怪塔王も困り果て、モーターを預かっていた黒人に、機嫌を取るような言葉をかけました。
「えっ、モーターが早く直れば、命を助けてくださるのですか!」
黒人は、怪塔王の思いがけない言葉に、飛び上がって喜びました。だが、モーターの故障はなかなか直りません。その箇所はモーター全部を取り替えないとダメなことがわかりましたので、別のモーターを地下の倉庫から探して付け替えることにしました。やっと直る見込みは立ったものの、非常に手がかかり、すぐというわけにはいきません。
しかし、一方の監視隊からは、秘密艦隊がどんどん近づき、いよいよ危険が迫ったという知らせが届きます。これ以上ぐずぐずしていては、白骨島に攻め寄せられることは明白でした。怪塔王は気が気ではなく、司令室の中をまるで檻に入れられたライオンのように歩き回っていましたが、ついに我慢しきれなくなって言いました。
「ああ、仕方がない。じゃあ、これは後から出発ということにして、残りのロケットだけで日本軍を迎え撃つことにしよう」
怪塔王はそのままこの司令機の中に残ることにし、他のロケットはすべて日本軍の秘密艦隊へ向かいました。
「じゃあ、お前たちに頼むぞ。なあに、遠慮することはない。日本の軍艦でも飛行機でも、見つけ次第、磁力砲で焼き払ってしまえ!」
戦機近づく
1
白骨島を南西に去ること百キロメートルの地点で、ついに怪塔王のロケット隊と、わが秘密艦隊の艦艇隊・飛行隊が出会いました。
そのときの状況は、語るのもまことにおそろしい有様でした。ロケット隊は横一列になって、ずんずんと進み寄ります。高度は一千メートルという低さです。これに対し、わが飛行部隊は三隊の梯形(ていけい)編隊に分かれ、いずれも高度を三千メートルに取りました。一隊は敵のロケット隊の中央をめがけて進み、他の二隊は左右両方から攻めかかりました。
艦艇隊の方は、それよりずっと遅れること十キロメートル、旗艦を中央に、その周りを各艦艇がぐるっと囲んで五列の縦陣をつくり、全速力で進んでいました。このとき、一天は晴れ渡り、どこまでも展望が利きます。また海上は油を流したように穏やかで、ただ艦艇のあとには数条の波が長く続いていました。
艦隊は十数機の偵察機を飛ばして、近づくロケット隊の進路と隊形をしきりに観測し、報告させていました。このとき、主力艦の上を見ますと、甲板の上に妙な形をした大砲ぐらいの大きさの見慣れない機械が四、五台ほど並んでおり、申し合わせたように天の一角を睨んでいるように見えました。それこそ、大利根博士が研究していたという噂の「あべこべ砲」でありました。
あべこべ砲は、これからどんな働きをするのでしょうか。
このとき塩田大尉は、一彦少年とともに艦橋に立ち、前方を見守っていました。
刻々と戦闘のはじまる時刻は近づいてまいります。
そのとき、前衛の飛行部隊がいよいよ戦闘をはじめたという知らせが、無電班へ入ってまいりました。
2
「まだ、モーターは直らんか」
怪塔王は、たいへん気をもんでいます。
「はい、もうすこしのところです」
黒人は、おどおどしながら答えました。
「もうすこしか。では、あと三十分ぐらいで出発できるだろうね」
「はい、それがどうも……」
「三十分じゃ直らんか」
「ところが、どうも困ったことができまして……」
「なんじゃ、困ったこととは。まだなにかいけないところがあるのか」
「はい」と黒人は言いにくそうに、「いま外のモーターを調べてみましたところ、それも故障になっているのでございます」
「えっ、なんじゃ。外のモーターも故障か。そんなことは、さっき報告しなかったじゃないか」
「はい、それがどうも……」
「どうも? どうしたというのか」
「あのときは別に故障ではなかったのでございます。ところがいま調べてみますと、故障になっておりましたのです」
「ふうん、それはおかしい」
怪塔王は首をひねって、考えこみました。
「待てよ。さっきはどうもなかったモーターが、いま調べてみると故障になっているというのは――うん、わかった。モーターの故障は、自然の故障ではなく、誰かがわしたちに邪魔をしようと思って、モーターをぶち壊したのにちがいない。そしてその誰かは、どこかそのへんに隠れているのにちがいない」
「へへえ、そうなりますか」
「それにちがいない。さあ、皆を呼んで、そこらの隅々をさがしてみろ。きっとその悪者がみつかるだろう」
怪塔王は、モーターを壊した者がそのへんにいると言いきりました。
一体誰が、怪塔ロケットのモーターを壊したのでしょうか。
3
やがて、黒人やルパシカ(ロシア風の民族衣装)を着た団員が、たくさん集まってきました。そうしてモーター焼き切りの犯人を探しにかかりました。
「どうじゃ。まだ見つからんか」と怪塔王は、じりじりしています。
「ああ、警報ベルが鳴っています。先発隊からの無電報告らしいですよ」
別の黒人が、怪塔王のところへ駆けつけてきました。
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