初級翻訳・怪塔王 第56話

怪塔王

ああ、俺に一台の飛行機さえあれば、怪塔王をどこまでも追撃するんだがなあ」
 と、小浜兵曹長も、両腕をさすって悔しそうです。
飛行機のない航空兵、そして空中には壮烈な空中戦がひきつづき行われている。まったく、兵曹長の心中は同情するほかありませんでした。
その時でした。硝煙わきたつ島の上に、にわかに猛烈なプロペラの音が近づいてまいりました。
「おい帆村君、敵か味方かわからんが、低空飛行でもってこっちへやって来るやつがいる。早くそのあたりへ体を隠すがいいぞ」
「あ、わかりました」
 と言っているうちに、硝煙を破って、二人の頭上へ数台の飛行機が近づいてきました。
「あっ、味方の攻撃機だ! 危ない、体を隠せ!」
 いち早く兵曹長は、飛行機の種類を見極めて声を上げました。機翼に鮮やかに描かれている日の丸! たしかにそれは味方の攻撃機です。しかし、この低空飛行は一体どういうことでしょうか。もし地上攻撃をやるつもりだとしたら、帆村と小浜の両人の命は、いまや風前の灯火同様、じつに危ないことになりました。二人は、化石のようにじっと地面に伏せました。

2

 地上攻撃か? あやうい小浜兵曹長と帆村探偵の命です。ところが、攻撃機編隊は、あっという間に二人の頭上を飛びすぎてしまいました。幸いにも地上攻撃は行われませんでした。
「あ、助かった」
 帆村は首を上げて、飛行機が飛び去ったあとを振り返りました。
「おい帆村君、今の飛行機は、必ずもう一度引き返してくるから、そのときは一生懸命に手を振って味方に合図をするんだぞ。機上でこっちを正しく見つけてくれれば、きっと手を貸してくれるはずだ」
「そうですか。よろしい。僕は一生懸命、機の方へ信号を送ります」
 そう言っているうちに、なるほど、ふたたび激しくプロペラの音が近づいてきました。この機会を逃しては、味方の飛行機はどこかへ行ってしまうと思った小浜兵曹長は、帆村をうながしてあらんかぎりの声を出し、地上で手足をばたばたと動かして、自分たちがここにいることを機上へ知らせました。
その瞬間に、編隊はまたものすごい音を立てて、二人の頭上をすれすれに飛び去りました。
(さあ、どうなる。うまく機上の戦友に通じたかしらん?)
 そう思っているうちに、三たびプロペラの音が聞こえはじめました。こんどはさらに低い空を飛んでいます。そのうちに、プロペラが空中ではたと止まりました。
「あ、着陸だ!」
 兵曹長は、一散に駆け出しました。
「え、着陸しますか」
 それを聞いて帆村もあとに続きました。攻撃機三機は、見事に砂の上へ着陸しました。そして、ぐるっと舵を切って、二人の方へ近づいてきます。機上からは、戦友がしきりに手を振っています。兵曹長は感激のあまり、思わず目を潤ませました。

3

「おい、帆村君、早く来い!」
 小浜兵曹長はそう言い捨てて、いましも着陸したわが攻撃機の方へ向かって走り出しました。兵曹長は、戦友の姿を見ると、もうじっとしていられなくなったのです。帆村探偵も、兵曹長の心を感じ取ってあとに続いて駆け出しました。
「おうい、おうい!」
 見事に着陸した三機編隊の攻撃機からは、わが空の勇士たちが地上に降りて、兵曹長たちの方へしきりに呼びかけています。
「おうい、いま行くぞ!」兵曹長はいさんで答えました。
「帆村君、早く来いよ!」
 兵曹長の眼は輝き、胸は躍ります。この白骨島に不時着してからというもの、思いがけず戦友の姿を見たのですから、これほど嬉しいことはありません。やがて、人影はだんだん大きくなりました。
「おお、小浜兵曹長! よく生きていたなあ!」
 そう言って、飛行服姿の勇士の一人がずかずかと歩み寄ってきました。それを見ると小浜兵曹長は、
「あっ、塩田大尉! 上官でありましたか!」
 と叫びました。
うれしさのあまり、両目からは熱い涙がどっとあふれ出しました。
抱きつきたい気持ちを一生懸命おさえて、兵曹長はその場に気をつけの姿勢をとると、さっと挙手の礼をしました。
塩田大尉は、とても満足そうに敬礼を返すと、兵曹長の手をしっかり握り、そのたくましい肩をたたいて、
「よくまあ無事に生きていたな。貴様からの無電が艦隊に届いたときは、それを聞いて皆が泣いて喜んでいたぞ」
 と言いました。大尉が後ろを振り返ると、そこには待ちわびていた懐かしい隊員たちがいて、わあっと声をあげて小浜兵曹長のまわりを取り囲み、今にも抱きつきそうな喜びようです。
兵曹長はこのとき、姿勢を正して言いました。
「それにつけても、残念なのは青江のことです。青江を死なせてしまい、申し訳ありません」

     4

「青江は気の毒なことをしたなあ。しかし仕方がないよ、戦争なんだから」
 塩田大尉は、小浜兵曹長の肩をたたいて、慰めるように言いました。
「小浜は、彼のかたきを討つつもりでいましたが、こんなことになって不時着し、飛行機を壊してしまいました。それからというもの、帆村探偵がいろいろと元気づけてくれたのです。……おお、帆村探偵、一緒について来たはずですが、そこらにいませんか?」
 帆村探偵は、どこへ行ったのでしょう?
「ああ、あそこにいるのが帆村ではないかね」
 塩田大尉の指さしたほうを見ると、はるか三百メートルほど向こうに遅れて、帆村探偵が地面に突き刺さった大きな筒を、懸命に引き抜こうとしているではありませんか。
「あれは帆村探偵です。一体なにをしているのでしょうか。ちょっと見てきましょう」
 小浜兵曹長が駆け出すと、塩田大尉たちもそれに続いて、帆村のいるところへ一目散に走りました。
「おい、どうした帆村君!」
「ああ、小浜さん、ああ塩田大尉、よく来てくださいました。挨拶はあとにして、これをみてください。たいへんものものしく大きいのですが、空から投げ下ろされた通信筒のようです」
「なに、通信筒か!」
「はい、いま引き抜きます」
 つねに目ざとい帆村が見つけ出したその通信筒からは、何が出てきたでしょうか。
彼は筒の中から一枚の大きな紙を見つけて広げました。
中を見て、皆はびっくりしました。それは、血で書かれた奇妙な文字の列だったのです。
「なんだ、これは!」
「おお、これは怪塔ロケットの中にいる黒人が書き送ってきたものです。文を読みますと――『すぐ丘の小屋の積み藁の下にある導火線の仕掛けを取り除かないと、わがロケットがその上を低空飛行したのち、一分以内に全島が爆破する。注意せよ。黒い鳥』」

   天罰

     1

 全島爆破の導火線!
 それが、丘の上の小屋の中に積み重ねられた藁の下にある!
 なんという恐ろしい仕掛けでしょう。しかも怪塔ロケットがやがてこれに近づけば、わずか一分のうちに爆発するという、驚くべき黒人からの知らせです。
「さあ皆さん、ぐずぐずしてはいられません。飛行機はすぐ滑走できるように用意をしてください。僕はこれからあの丘をのぼって、小屋に隠されている全島爆破の導火線を切ってまいります!」
 そう言い捨てて、帆村探偵はすぐに走り出しました。
「おい、帆村君、待て!」
 と叫んで、そのあとを追いかけたのは小浜兵曹長でした。
「君一人にはさせん。

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