初級翻訳・未来の地下戦車長 第9話

未来の地下戦車長

「あれっ?
もしかして僕が来ちゃいけないんですかね?」
「なんだい? 別に来ちゃいけないっていうわけじゃないがね、今日はうちには何もうるもの(廃品)はないんだよ」
お百姓さんは、岡部一郎が身につけている廃品回収屋さんの腕章を見て、てっきり不要になったガラクタを売り込みに来たのだと勘違いしていたのです。
「ああ、そういうことでしたか!」「おじさん、ぼくは、屑やお払いものを、うかがいに来たわけじゃありませんよ」
「へえ、お払いをききに来たのじゃないのか。じゃあ、葱でも、分けてくれというのかね」
「ちがいますよ。そのもぐらのことですよ」
一郎は、お百姓さんの足許にころがっているもぐらを指した。
「このもぐらに、用があるのかね。ははあ、商売ぬけ目なしだ。もぐらの毛皮を売ってくれというのだろう」
「ああそうか。もぐらの毛皮は貴重な資源だな」
と、一郎は、一つものおぼえをしたが、
「ねえ、おじさん。ぼくは、もぐらの毛皮よりも、もぐらが、どうして、土を掘るのか、それを知りたいのです。どうぞ、おしえてください」
それをきいて、お百姓さんは、おどろいて目をまるくした。
「なんじゃ、もぐらが、どうやって、土を掘るか、知りたいというのか。なるほど、お前さんは、まだ子供だから、なんでもめずらしくて、そんなことが知りたいのだな」
「そうじゃありませんよ。ぼくは、今、地下戦車をこしらえようと思って、一生けんめいになっているんです。だから、土掘りの名人のもぐらのことを、ぜひ勉強して、出来れば、もぐら式の地下戦車をこしらえてみたいなあ」
一郎のいうことは、一郎にはわかっているが、お百姓さんには、ちんぷんかんぷんだった。
第一、地下戦車なんてものは何だか、さっぱり見当がつかない。
ただ、この少年が、理科ずきと見え、たいへんねっしんに、もぐらの話をききたがっていることだけは、わかった。
「このもぐらというけだものはこんなかわいい顔をしているが、悪いやつじゃ」
とお百姓さんは、足で、もぐらの腹を、ぽんとけった。
もぐらは、くるっと腹を上に出した。
もぐらは、すこしもうごかない。
「このもぐらは、死んでいるの」
「うん、もぐらは、すぐ死ぬるよ。お陽さまにあたれば、すぐに死んでしまうのだよ。だから、昼間はじっと土の中に息をころしていて、夜になると、ごそごそうごきだして、作物をあらすわるい奴じゃ」
お百姓さんは、もぐらの悪口ばかりをいった。
しかしもぐらは、畑の害虫をたべるから、お百姓さんのためにもなっているのだ。
「おじさん、もぐらは、どういう具合に、土を掘るの」
一郎は、大事なことを、たずねた。
「さあ、ことはよく知らんねえ。しかし、もぐらの鼻は、かたくて、ほら、こんなにとがっているだろう。それから前脚なんか、こんなに掌が大きくて、しかも外向きについているだろう。つまり、鼻と前脚とで、やわらかい土を掘るのにちがいないよ」
お百姓さんは、自分の知っているだけのことをいった。
一郎は、うなずいて、
「おじさんは、もぐらが土を掘っているところを、そばに立ってみていたことがあるの」
と、きいてみた。
「ばか、いわねえもんだ。土を掘るのは夜中だというのに。わしはな、こう見えても、夜中に、わざわざ土を掘るところを見にいくようなばかじゃねえぞ」
一郎は、それはばかではなくむしろかしこいのだと説明したが、お百姓さんには、それが一向に通じなかった。
そこで一郎は、自分は、もぐらが土を掘るところを見て、もぐら式の戦車をつくりたいからお百姓さんに、生きているもぐらを、できるだけたくさん、つかまえておいてもらいたい。
もぐら一頭につき、五十銭ずつで買うからと頼みこんだ。
「ええ、それは本当かね。一頭につき、本当に五十銭だな」
お百姓さんは、きげんをなおして、にこにこ笑いだした。
もぐら一箱

もぐらがつかまったら、お百姓さんは、一郎のところへ、ハガキをくれることになっていた。
一郎は、生きているもぐらを買って、どうするつもりであろうか。
それから四五日たって、お百姓さんから、ハガキが来た。
もぐらがたくさんとれたから、至急、買いに来てくれというのである。
一郎は、さっそく、車をひいて、お百姓さんのところへいってみた。
「こんちは。もぐらが、つかまったそうですね」
お百姓は、畑をたがやしていたが、一郎を見ると、鍬をそこへおいて、やってきた。
「はあ、本当に来たね。お前さんは、本当に、五十銭ずつで買ってくれるのかね」
「大丈夫、本当です」
お百姓は、しきりに念をおすのだ。
「皆、買うかね」
「それはもちろん。皆買います。多いほど、うまくいくと思うから」
「よし。じゃあ家へ来なせえ。納屋に入れてあるから」
お百姓さんにつれられて、一郎は、その家へいった。
大きな百姓家だった。
この辺で、一番大きいお百姓さんだということだった。
お百姓さんは、納屋の戸を、がらがらとあけて、中にある大きい箱を指した。
「この箱の中にはいっているよ。中へ、光がさしこまないように、しっかり目ばりをしてあるが、これだけ頭数をそろえるのに、わしは、ずいぶん苦労したよ」
「へえ、そうですか。
それで、皆で、何頭入っているのですか」
 一郎は、もぐらの数をたずねた。
「そうだなあ。
数えちがいがあるかもしれんが、すくなくとも、二十六頭は、入っているよ」
「へえ、二十六頭。
あの、もぐらが………」
 二十六頭のもぐらが入っていると聞いて、一郎は、さすがにびっくりした。
彼は、せいぜい四、五頭だろうと思っていたのである。
「二十六頭とは、ずいぶんな数ですね」
「そうだよ。
わしは、こんなに骨を折ったことはない。
おかげで、このあたり一帯のもぐら退治ができたよ。
どれ、はっきりした数を、数えてみようか」
 お百姓さんは、懐中電灯を使って、箱の中のもぐらの数をしらべた。
「ああ、わかったよ。
二十六頭じゃなかった」
「はあ。
少なくても、しかたありませんね」
「いや、もっとたくさんだ。
皆で、ちょうど三十頭ある」
「えっ、三十頭? 一頭五十銭として、皆で、ええと十五円か」
「にいさん。
どうも、すみませんね」
「いや、どういたしまして……」
 一郎は、十五円ものもぐら代にはおどろいたが、正直なお百姓さんと約束したことだから、しかたがない。
ちゃんと十五円を払って、三十頭のもぐらが入った箱を、車の上にのせた。
「お前さん、三十頭ものもぐらを、どうするつもりかね。
やっぱり、毛皮をとるのだろうが……」
「いや、毛皮のことは、考えていないのです。
ところで、おじさん。
どこか、ひろびろとしたところは、ありませんかね。
もちろん、畑みたいなところは、だめです。
なるべく、木のすくない、そして土がやわらかで、草は生えていてもいいが、あまり草がながくのびていないところはないでしょうか」
「さあ、どこだろうなあ。
一体、そこで、何をしなさるつもりじゃな」
「ええと、それは、まあ、こっちの話なんですが、とにかく、そんな場所があったらおしえて下さい」
「そうじゃなあ。

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