これは、つまり天井と床とが、逆になっても、ちゃんと寝ていられるように、つくってあるのさ。
そうだろう。
逆になれば、反対に、ぶらりと、さがるのだよ」
と、説明をこころみた。
「なるほど、おもしろい寝台だなあ」
千二は、目から上を、蒲団の外に出して、笑っていたが、そのうちに、つかれが出て、ぐっすり寝こんでしまった。
それからあと、どのくらい、眠ったのか、千二は、よくおぼえていない。
ふたたび気がついたときは、千二は、だれかに、しきりに名をよばれていた。
「おい千二君。
へんなことがあるから、ちょっと起きたまえ」
千二は、ねむい目をこすって、寝台の中から、首を出した。
「あ、先生。
どうしたのですか」
と、先生の顔を見ると、先生の顔色は、まっ青であった。
ただごとではないらしい。
「おい、千二君。
博士のようすが、へんなのだ。
われわれは、かくごをしなければならないぞ」
先生は、そう言って、いたましい顔をした。
「どうしたのですか。
くわしく、話をして下さい」
千二には、わけがわからなかった。
とにかく千二は、ふとんを開いて下へおりた。
「いいか、千二君。
おどろいてはいけない。
この大空艇には、いつの間にか火星兵団のやつが、しのびこんでいたのだ。
しかも、二人だ」
「えっ。
火星兵団のやつばらが、ここにいるのですか」
「そうだ。しかも、その二人は、博士を両方から囲んでいる。
博士は、すっかり親しげな様子で、その二人と話をしている。
何を話しているのかは、厚いガラスの壁に遮られて聞こえないけれどね。
とにかく、博士は火星兵団のやつらと、グルになっているらしい。
いや、それはもう間違いない」
「そうですか……。
博士はまた、気が変わってしまったのでしょうか」
「ぼくらを控室へ追いやったのも、ぼくらが操縦室にいては都合が悪いからだったんだ。
こうなってしまった以上は、覚悟を決めて、戦えるだけ戦って倒れるしかないな」
「そうでしょうか……。
博士は、どうしてそんなに急に気が変わってしまったんだろう」
千二は、いつまでも首をかしげて考え込んでいた。
「千二くん。
君は博士の裏切りが、どうしても信じられないらしいね。
それなら、あそこまで来て、あの部屋をのぞいてごらん。
そうすれば、すぐにわかるから……」
「じゃあ、火星兵と博士が話をしているのが見えるところまで、連れていってください」
千二は先生にそう頼んだ。
「よし、わかった。
静かに、足音を立てないようにしてこっちへ来るんだ」
先生が狭い廊下の先頭に立った。
まったく、とんでもないことになったものだ。
この大きな宇宙艇に、火星兵が乗り込んでいるなんて。
これが地上の出来事なら、博士と火星兵をその場に残して、自分たちだけで逃げ出す手もあったけれど、今回は空中の出来事だ。
しかも、ただの空中じゃない。
このあたりは、もう空気のない宇宙空間なのだ。
外へ逃げ出すことなんてできない。
空気がないから、すぐに息ができなくなって死んでしまうだろう。
それに第一、代わりのロケットなんてどこにもないのだ。
千二は先生のあとをついていった。
そして足音を忍ばせながら、やっとの思いで操縦室の隣の部屋までたどり着いた。
先生は、扉の上についている小さなのぞき窓の蓋を、そっと横に動かした。
「ほら、まだ三人とも話に夢中だ。
さあ、ここから中をのぞいてごらん」
千二の背の高さでは、その窓が少し高すぎた。
つま先立ちして背伸びをしてみても、目の高さが窓にとどかない。
そこで千二は、そこに置いてあった木箱を積み重ね、その上に乗って、ようやく窓に目をぴったりとつけることができた。
「あっ、本当だ……!
あっ、火星兵だ!
火星兵が二人、博士と話をしている!」
千二はびっくりして、思わず口の中で叫んだ。
博士のそばに立っている二人の火星兵は、いつものとおり、大きな頭を太い胴体の上に乗せていた。
つまり、その胴体は、地球の気圧に耐えられるように特別に作られていたのだ。
火星兵たちは、例の細い手足をせわしなく、いそがしそうに動かしていた。
いったい何を話しているのか、声は全く聞こえない。
しかし博士は、その二人の火星兵を、ものすごく丁寧にもてなしている様子だった。
蟻田博士は二人の火星兵と向き合いながら、しきりに会話を続けている。
(博士は、火星兵団とひそかに手を結んだんだ……!)
新田先生はそうすっかりと思い込んでいた。
だからこそ、眠っていた千二少年をゆり起こして、博士のとんでもない姿を見せ、最後の覚悟を決めさせようとしたのだった。
千二も、まさかそんなまさかと思ったが、実際に窓の中からその光景をのぞき見て、すっかり青ざめてしまった。
「本当ですね……。
あれは、まぎれもなく火星兵です」
「君にもそう見えるだろう。
さあ、これからどうやってあの火星兵をやっつけるかという問題だが……」
「先生、ガス砲弾をあの火星兵にぶつけてやればいいじゃないですか!
手榴弾を投げつけるみたいにさあ!」
「うーん、それはどうかな。
手榴弾のようにはいかないだろうね。
なにしろガス砲というのは、外を飛んでいる敵を撃つにはちょうどいいけれど、こうして敵が宇宙艇の中にまで入り込んでは、ガス砲の向きようがない。
どうにも都合が悪いねえ」
先生と千二が頭を突き合わせてそんな相談をしていると、突然、目の前の扉が開き、蟻田博士が顔を出した。
「お前たち、そこで何をしているんだ?
一体、どういうわけだね」
博士がそう尋ねてきた。
先生と千二は、すっかり困り果ててしまった。
なにしろ、いきなり扉が開いたものだから……。
先生はもうこうなったら仕方ないと覚悟を決め、
「博士!
私たちがここで何をしているかというよりも、博士、あなたこそ、その部屋で何をしておられたのですか?
あそこにいる二人の火星兵は、一体どうやってここへ入ってきたのですか!」
と、鋭く問い詰めた。
それを聞くと、博士は、
「なんだ、あの火星人のことかね」
と、思いがけないことに、にっこりと笑ったのだ。
63 ロロとルル
新田先生が蟻田博士を鋭く問いつめたというのに、なんと博士はニコニコと笑っている。
「博士、私は今、とても真面目に話しているのですよ!」
先生は真剣な顔つきで言った。
「いや、わしも真面目だよ。
まあ、こちらへ入りなさい」「ここにおられる二人の火星人のことなら、そんな心配はいりませんよ」
博士はそう言って、先生と千二の顔を、やさしい目で眺めました。
(いったい、どういうことなんだろう?)
千二くんは、先生の後ろで目をパチクリさせました。
博士と話をしていた二人の火星人は、さっきから頭を寄せ合ってヒソヒソとお話ししていましたが、このとき二人そろって博士のそばへやって来ました。
そして、博士に何か話しかけました。
それは火星の言葉でした。
何かを尋ねている様子です。
博士はうなずきました。
そして、火星の言葉で答えました。
すると、二人の火星人はそろって首を横に振り、それから大きくうなずきました。
それは「安心しました」というふうに見えました。
博士は先生と千二の方に向き直り、こう言いました。
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