初級翻訳・海底大陸 第15話

海底大陸

### 怪生物

クラゲに目玉をつけたような、前代未聞の怪物が四、五十匹、そろりそろりと三人の後ろに迫ってきます。
第一番にそれに気がついたのは、事務長のクーパーでした。
「あっ、くさい……」
たまらない臭気が、クーパーの鼻を突いたのです。
遭難後、身辺にしきりに漂っていたあの異様な臭気でした。それがひとしきり激しく風に乗ってきたのです。
クーパーは、はっとして後ろを振り返りました。
たちまち彼の目に映ったのは、その異様な怪物たちの姿でした。
「あっ、怪物だ!」と彼は叫んでピストルを持ち直しました。
その声に、一等運転士のパイクソンと秘書のマルラも後ろを振り返り、初めてこの怪物を見ました。
「うわわわわ……」
とマルラは、その場に腰を抜かしてしまいました。
「この化け物が!」
パイクソンは豪勇です。銃を構えると、怪物たちめがけて、どどどーんと引き金を引きました。
先頭の怪物がみごとにひっくり返りました。その後ろの怪物も、どうと横倒しになりました。
キキキッ、キキッ。
妙な鳴き声を上げて、怪物たちは騒ぎ出しました。
さっき弾丸に撃たれた二匹が、当たったところを長い触手でさすりながら起き上がったのです。弾丸に当たって死んだものと思っていたのに、案外平気で起き上がってきたのでした。
怪物たちは大きな目をむいて、なんだかこちらに向かって物を言っているようでしたが、何を言っているのかさっぱり意味が通じません。
キキキッ、キキッ、キキキッ。
怪物たちは、またそろりそろりと三人の方に近づいてきます。確かに三人を襲撃しようという態度が見えました。
「こいつ、生意気な……」
とばかり、パイクソンは髪を振り乱し、銃を構えて撃つこと撃つこと。
事務長クーパーも、こうなっては遠慮していても無駄だと悟りました。彼もピストルを持ち直して怪物たちをパンパンと撃ちました。
この猛射には、怪物たちもだいぶ参ったようです。別に弾丸に当たって血を流すというのではありませんが、弾丸にはじかれて、そろりそろりと後退を始めました。
三人はここぞとばかりに怪物たちと戦います。マルラも起き上がって、甲板のそこらに落ちている木片やデッキ・ゴルフの球などを拾っては、どんどん投げつけます。
三人対怪物たちの戦いは、まずは三人の方に軍配が上がりました。
しかし、果たしてそれが本当の勝利であったかどうか。

### 大襲撃

怪物たちが舷側を越えて向こうに降りて逃げ去ると、三人は申し合わせたようにホッと深い息をつきました。
「な、なんという恐ろしい化け物だろう」
と、事務長クーパーが目を見開きました。
「事務長、あれは何者なんですか」
マルラは震えが止まりません。
「さあ、さっぱりわからない。しかしあいつらがちゃんと生きている生物だということは、誰にも断言できる。わがメリー号は、とんでもないところへ来たものだ」
一等運転士パイクソンは、勇敢にも舷側へ出ていって、怪物の逃げていった方向をすかして見ていましたが、そのうちにパッと身をひるがえして駆け戻ってきました。
「事務長。逆襲だ」
「えっ、逆襲?」
「怪物が逆襲してきた。今度は猛烈な数だ。あの透明な壁の下から、ぞろぞろ這い込んでくるのだ。甲板に出ていては危険だ。船室へ立てこもったほうがいい」
「うむ、じゃあ引っ込もう。マルラ、早く船室に入れ!」
三人は船室にパッと飛び込んで、固くドアに錠を下ろしました。
クーパーはマルラに命じて、船内に警報を出させたのでした。また、要所要所に電話をかけて、入り口を固く閉じるように注意を促しました。
船に乗っていたお客さんたちの驚きは、たいへんなものでした。
目がよく見えなくなって不安に閉ざされているところへ、怪物が船の横から這い込んでくるというのですから、誰もが「いよいよ自分たちの命も終わりか」と思ったのです。
船員たちは、不自由な視力に屈することなく、勇敢にもお客さんたちを落ち着かせることに努めました。
これほどの大事件が起きてしまっては、命のことを心配しても仕方ありません。
それよりも、心を落ち着けることこそが大切でした。
落ち着いてさえいれば、なんとか切り抜ける手立ても浮かんでくるはずです。
怪物たちの、丸くてぶよぶよした頭が、いよいよ船の横から現れました。
後から後から、甲板へと這い上がってきます。
キキッ、キキキキッ、キキッ。
何かをしきりに話し合っているようです。
触手と触手が、頭の上でゆらゆらと揺れていました。
そのうちに、怪物たちの目が一斉に、クーパーたちが立てこもっている船室の方へと向きました。
誰かが号令をかけたのでしょうか。
怪物たちは甲板の上に梯形陣(ていけいじん)を組むと、クーパーの船室めがけて、じわじわと押し寄せてきました。
怪物たちの陣形は立体的でした。
怪物の頭の上に、別の怪物が乗っているのです。
その上にもまた他の怪物が乗っていて、まるで樽を積み重ねたものが攻めてくるような様子でした。
三人は船室のドアに、内側から机やベッド、本棚を立てかけて、万が一ドアが破られても防戦ができるように備えました。
「ううッ、やるぞ!」
パイクソンが叫んで、銃を持ち直しました。
続く死闘。

激しい銃声が、窓の外に響き渡りました。
パイクソンが、船室の丸窓からいよいよ射撃を始めたのです。
「うん、ざまを見ろ!」
積み重なった怪物たちがぐらぐらと揺れました。
撃たれた一匹の怪物が、ドンと後ろに跳ね飛ばされたのです。
しかし怪物たちは、すぐに態勢を立て直しました。
怪物たちは互いに隣同士としっかりと手をとりあっているので、弾丸で弾き飛ばされた仲間も、すぐに大勢の手で元の位置へと引き戻されたのです。
恐ろしい弾力のある壁でした。
こうなっては、弾丸の威力も失われてしまいます。
「ちくしょう、負けるものか!」
パイクソンは、銃をどんどん撃ち続けました。
クーパーが守っている窓の下にも、別の怪物たちの部隊が近づいてきました。
船室は、すっかり包囲されてしまったのです。
怪物たちは、どうしてもクーパーたちを飲み込んでしまうつもりのようでした。
クーパーは、今はもうこれまでだと諦めかけましたが、残りの少ない弾丸を込めて、窓の外へ向かって撃ち始めました。
しかし、ここでも同じことでした。
怪物たちが組み上げている壁は、びくともしません。
「ああ、弾が切れた!」
パイクソンが叫びました。
それは絶望の声でした。
弾が切れてしまっては、もうどうすることもできません。
「マルラ、弾がその辺に落ちていないか! 一発でもいいんだが」
マルラは床の上を這い回りました。
でも、探している弾は一個も見当たりません。
クーパーが渋い顔をして、自分のピストルを覗き込みました。
「……弾が、とうとうなくなった」
クーパーのピストルも、もう役に立たなくなりました。
もう、どうすることもできません。
銃声が消えてしまうと、怪物たちはにわかに勢いを増しました。
丸窓のところから、怪物の頭が入り込んできたのです。
パイクソンは、そこに落ちていた文鎮を握りしめ、怪物の頭をいやというほど殴りつけました。
ぴしゃり。
変な音がしました。
しかし、怪物は丸窓の向こうへ頭を引っ込めようとはしません。

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