初級翻訳・大空魔艦 第11話

大空魔艦

そのとき空の一角から、轟々と爆音がひびいてきた。
「ああ、空魔艦だ」
まっさきに気がついて飛びだしたのは、丁坊であった。
「なに、空魔艦?」
隊員はおどろいて天幕の外に出た。
なるほど、真北の空、地上から約五千メートルと思われる高空に、空の怪物大空魔艦がうかび、しずしずこっちへ近づいてくる。
大月大佐も、天幕の外にとんで出たが、このとき叫んだ。
「おい。大急ぎで天幕のなかに隠れろ。こっちの姿を見せてはならぬぞ。早くしろ」
隊長の命令で隊員一同は天幕のなかに走りこんだ。
息をこらしてまつほどに、爆音はいよいよ大きくいよいよ近づき、天幕はびりびりと振動をはじめた。
「あっ、空魔艦の腹から、なにか黒いものがとびだしたぞ」
と天幕の裂け目から望遠鏡で空をのぞいていた隊員の一人が叫んだ。
「そうか。それは爆弾だぜ」
「爆弾! あっ落ちてくる。ぐんぐんこっちへ近づいてくるぜ。これはいけねえ」
望遠鏡をもった隊員は叫ぶ。

試練の嵐

空魔艦のなげおろす爆弾は、いよいよ氷上にぶつかった。
どどーン、ぐわーン、ぐわーン。
ずしんずしんごごごーっ。
あっちにこっちに、硬い氷をやぶって吹雪のような氷片がとぶ。
まっくろな硝煙は、氷上をなめるように匍う。
実におそろしい光景がいくたびとなく、くりかえされた。
隊員は、声をからして、お互にはげましあった。
この猛烈な爆撃に、探険隊の天幕などは、一ぺんにふきとんでしまった。
隊員のなかにも、怪我人がそれからそれへと現れ、流血は氷上をあかくいろどった。空魔艦は、全部で三十個の爆弾を落とし、テントがすっかり吹き飛ばされて、怪我人がたくさん出たことを確認すると、機首をクルリと変えて、やってきた北の空へ姿を消していきました。
こうして、恐ろしい危難はひとまず去ったのです。
大月大佐は、すぐに人数を数えるとともに、テントの中にあった食料品などを調べました。
怪我人は八人、そして亡くなった人は二人。
食料品などは半分ほどが氷の下に落ちてしまっていました。
それはとても大きな痛手でした。
探検隊の運命はどうなってしまうのか、本当に心細い状況になってしまったのです。
その日の夕方、大騒ぎがひと段落したところで、大月大佐は隊員たちを集め、これから探検隊としてどう行動すべきかを改めて話し合いました。
「やっぱり、最初に考えていたとおり、空魔艦の秘密基地へ攻め込みましょう!」
と、まっさきに声をあげたのは丁坊少年でした。
「しかし、食料は半分になってしまったし、死傷者は十人にものぼる。これではとても強い決死隊をつくるわけにはいかないぞ」
と、他の隊員が元気のない様子で言いました。
すると大月大佐は、むくっと力強く立ちあがり、こう言いました。
「たとえ隊員の数が少なくなっても、日中戦争の徐州攻略のときのように、うまい作戦をたてれば大成功することもあるんだ! よし、やっぱり決死隊を作って、一か八か敵に攻め込もうじゃないか!」
「それがいい! ばんざーーい!」
と、元気いっぱいの隊員たちは両手を大きくあげて、大佐の意見に大賛成しました。
「うむ! それじゃあ、今から作戦を考えよう。人数は少なくても、絶対に大成功するようなすごい戦法を、みんなで知恵を出し合って決めるんだ」
夜をとおしてみんなが必死に知恵をしぼった結果、「これならまず大丈夫だ!」という最高の作戦が決まりました。
そしていよいよ決死隊のメンバーが発表されましたが、隊員の数はさっきより五人減って十人となり、怪我をした人たちはみんなテントに残ってお留守番をすることになりました。
もちろん決死隊のリーダーは大月大佐です。大佐は甲(こう)組の四人をひきいて進むことになり、松川学士は乙(おつ)組の四人をひきいて、二つのチームに分かれて進むことになりました。
なんと、丁坊は乙組のメンバーになりました。

決死隊出発

出発は、その翌日の夜になりました。
昼間は空魔艦に見つかってしまう危険があるので、あえて夜にしたのです。
隊員たちは、からだをすっかり氷そっくりに見せかける白い装束で包みました。
これは、敵の目をできるだけあざむくための工夫でした。
まずは、松川学士を隊長とする乙組が出発します。
「じゃあみなさん、いってきます! きっとあの空魔艦をぶち捕まえてきますからね!」
丁坊はとっても元気に出発していきました。
「どうか本当に空魔艦を捕まえておいでよ! 丁坊くん、ばんざーい!」
「丁坊、しっかり頼むぞ! おれもすぐ後から出発するからな!」
と、大月大佐も大きな声で一行を力強くはげましました。
冷たい氷の上を、一行はひとりひとりが重い荷物をせおって進軍を始めました。
雪ゾリもない、犬もいない。
歩きなれない氷の上を、一行は薄暗いカンテラの明かりだけを頼りに、一歩一歩敵地へと進んでいったのです。
夜が明けかかってくると、一行は大急ぎで氷を掘り、まわりから目立たない「氷の隠れ部屋」を作りました。
そして一日中その中にもぐりこみ、なかなか眠れない時間を我慢しながら無理やり眠りました。
敵の地にこっそり忍び込むには、昼間歩いては絶対にダメなのです。見つかったらおしまいだからです。
やがて、また夜がやってきました。
腹ごしらえをして氷の部屋からはい出し、そしてまた一歩、また一歩と、氷上の行軍が始まるのでした。
三日目の夜を送り、四日目の夜を氷の上で迎えたときのことです。
先頭に立って歩いていた松川理学士が、ある氷の丘をのぼったとき、
「おおっ、向こうに明るい光が輝いているぞ!」
と叫んだので、丁坊たちは「わあっ!」と声をあげて、みんなで氷の丘を駆け上がりました。
「ああ、見えるぞ……! あれこそ空魔艦の根拠地だ!」
ポツポツと点々と輝いている明かりの並び方からいって、それが丁坊に見覚えのある敵の基地にちがいないことがわかりました。
一行は、そこでしばらく休憩することにしました。
それは、別の道をとおってくる大月大佐が指揮する甲組が追いつくのを待つためでした。
その夜遅く、大月大佐の元気な声が、暗闇の中から聞こえてきました。
「よしっ! 明日の夜までゆっくり体力を休めて、いよいよ最後の作戦を始めよう!」
両方のチームは、途中で敵に見つかることもなく、道もうまくつながっていて、今こうして無事に合流できたことを心から喜び合いました。
そしていよいよ、五日目の夜がやってきました。
決死隊は再び甲と乙の二つの組に分かれ、暗闇の中へ気合をこめて出発しました。
戦闘に使うものだけを持って行き、他の荷物はすべてそこに置いていきました。
乙組の任務は、空魔艦を二度と動けないようにすることです。
大月大佐の甲組のほうは、敵と銃で撃ち合い、剣で切り結ぶ戦闘部隊でした。
丁坊の背中には、ダイナマイトが五本と、手榴弾が十個、そして食料が二食分。
これだけでも、少年である丁坊にとってはかなりの重さでした。

空魔艦の最後

空魔艦の秘密基地がいよいよ目の前に見えてきました。
そのとき、急に天気がものすごく荒れてきて、風がヒューヒューと吹き出し、氷の上に積もっていた粉雪をまるで煙幕のように激しく吹き飛ばしました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました