そして間近に迫るエンジンの爆音!
飛行機だ! わが監視隊に属する偵察機だ!
なんという大胆な行動だろう。この深い霧のなかを突き進んで、どんどん怪塔の方へ近づいて来る。
「ややっ、また出たな。なんというしつこい飛行機だろう」
怪塔王は、にがにがしいといった顔をしました。
「正面から来るやつなら、何機でも撃ち落としてやるんだが、癪にさわることに、このごろ敵の飛行機は、こっちの舵取り装置のあたりが弱いことを知っているとみえ、そこばかり攻めてくるので、危なくてしようがない」
そう言って怪塔王は、あらあらしく舌打ちをしました。
追跡急!
1
海底から浮かび上がって、爆発する心配はなくなった怪塔ロケットでありましたが、さて空中にとびあがってみますと、こんどは深い霧に巻き込まれ、さらに待ち構えていた監視飛行隊に見つけられ、ひどく急な追跡を受けることになったのです。
「ちくしょう、ちくしょう!」
と、怪塔王は配電盤をのぞき込みながら、たいへん怒っています。
「あっ、あぶない。また飛行機が……」
配電盤には、四角に切った窓のようなものが三つばかり開いていて、その奥の幕に白い霧が動いているところが映っていました。これは怪塔王がつくった、塔の外の景色を眺めるテレビジョンの望遠幕です。
おお、飛行機!
突然、そのテレビジョン望遠幕の上に、一台の飛行機の姿があらわれました。どこの飛行機でしょうか。いや、尋ねるまでもありません。翼と胴体に日の丸がついているから、誰にでもすぐわかるとおり、わが海軍機です。
それより前、怪塔ロケットが海面から飛び出したとき、手ぐすね引いて待っていたわが監視飛行隊は、総勢十七機で、すぐさまロケットの後を追いかけたのですが、なにぶん霧が深く、怪塔ロケットが速いので、だんだん姿を見失い、せっかくの追跡もだめになったかと思われました。ところがただ一機、最後まで頑張っているのがありました。いま怪塔王が見ているテレビジョン望遠幕に映り出した一機が、その頑張り飛行機だったのであります。
この飛行機は、青江三等航空兵曹――略して青江三空曹が操縦している偵察機でありました。同乗の偵察下士は、例の小浜兵曹長でありました。
「おい、そんなに頑張って大丈夫か」
と小浜兵曹長は伝声管を通して、ただ夢中に舵をとっている青江三空曹に呼びかけました。
2
そんなに頑張って大丈夫かと、小浜兵曹長に聞かれた頑張り屋の青江三空曹は、お団子のように丸い顔を「ぷーっ」とふくらませて、ちょっと怒っています。
「兵曹長、青江はですね、日中戦争のときからこっち、敵と名のつくものを狙ったが最後、そいつを叩き落とさないで逃したなんてことはですね、ただの一度もありゃしないのであります!」がんばるもがんばらないも、あの怪塔ロケットを叩きおとすまではですね、私はなにも外のことは考えないのです」
「外のことって、なんだい」
と、小浜兵曹長はたずねました。
「それは、つまりガソリンがきれるとかですね、敵の高射砲が盛に弾幕をつくっているとかですね、それからまた自分が死ぬなんてこと――そんなことをですね、外のことというのであります」
「ふうん、ガソリンのきれるのも、弾幕のこわいことも、自分が死ぬことも考えないのだね。すると、貴様は、俺の死ぬことは心配してくれているのだね」
「いえ、どういたしまして、自分の命はもちろんのこと、上官の命もですね、どっちも心配しておりません。そもそも私の飛行機にお乗りになったということがですね、上官の不運なのであります。それとも――」
「なんじゃ、それともとは――」
「いや、どうも私は夢中になって自分の思っていることをしゃべるくせがあっていけません。なんですか、上官は命がおしくなられたのでありますか」
「ばかをいえ。俺が若いときには、貴様より三倍も命がおしくなかった」
「今は?」
「今か。今は十倍も命がおしくない。だから、貴様そうやってがんばって操縦しているが、俺の目から見れば、まだまだがんばり方が足りんな」
これをきいて、青江三空曹の顔は、赤いほうずきのようになりました。
3
(まだがんばり方が足りない。おれなら、もっとがんばるんだが――)
と、小浜兵曹長にからかわれて、青江三空曹は怒ったの怒らないのと言って、うれすぎたほおずきのように赤かった顔が、逆に青くなりました。
「これだけがんばっているのに、まだがんばり方が足りないと言うのか。兵曹長に甘く見られちゃ三空曹の名おれだ。ようし、そんなら大いにやるぞ。死んでもやる。向こうをひょろひょろ飛んでいく怪塔ロケットに、この飛行機をぶつけるまでは、おれはどんなことがあってもスピードをゆるめないぞ。あの怪塔ロケットの野郎め、こうなっては逃げようとしても、誰が逃すものか」
青江三空曹は、武者ぶるいをしながら、怪塔ロケットを睨んで、猛然とスピードをあげました。彼の眼尻は、いまにもさけそうに見えます。
小浜兵曹長は、うしろからそれを見ていて、にっこり笑いました。兵曹長は、わかい青江三空曹のことを、いじわるくからかったのではありませんでした。なにしろ相手は怪塔ロケットです。尋常一様のことでは、とても追いつけません。がんばり青江と言われる青江三空曹のがんばり方でも、まだまだ足りないと思ったので、思いきって彼を怒らせてしまったのです。
兵曹長のこの計画は、すっかり的にあたりました。少年航空兵あがりの若い青江三空曹は、それこそ人間業とは思えないほどの名操縦ぶりを見せて、ともすれば見おとしそうになる怪塔ロケットのあとを、一生けんめいにおいかけています。ある時は密雲のなかに途方にくれ、またある時は急旋回をして方向をかえたり、ものすごい追跡ぶりです。いくたびか見失おうとして、それでもやっと追いすがって、じりじりと追っていくうち、両機はいつしか七千メートルの高空にのぼってしまいました。
4
七千メートルの高空!
いまや偵察機は、怪塔ロケットにおいつきそうです。霧はもちろんのこと、雲もなくなりました。ひろびろとした空です。地球はどこかへいってしまいました。下には蒲団の綿のような密雲が、どこまでもひろがっています。
「おい青江。貴様、とうとうがんばったな。えらいぞ」
と、兵曹長がはじめてちょっとほめた。
「ま、まだであります」
青江三空曹は、どなりかえしました。
「なに、まだだって」
「そうであります。私の得意とするがんばり方を十分に兵曹長にごらんにいれていないのであります」
「なんだって。まだがんばるというのか」
「いよいよこれから本当にがんばるのであります」
青江三空曹は、じゃまものもなくなってひろびろとした高空を、おもいきりぐんぐんと愛機をとばせていく。そのあいだにも、小浜兵曹長はしきりと電鍵をたたいているのでありました。彼は偵察任務のため、青江機にのっているのであるから、機上から見た怪塔追跡の刻々の様子を、無線電信でもって本部へ知らせているのでありました。
「ただ今、わが青江機と怪塔ロケットの距離は一千五百メートル。
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