このように、引力をうまく利用した安全な自動機械は、やはりあの蟻田博士が発明したものだった。
博士の考えでは、たとえ宇宙艇相手でなくとも、これからますます空中を飛ぶ飛行機やロケットなどの数が増えてくれば、空中衝突の事故もますます増えるに違いないと心配し、あらかじめこのような素晴らしい装置を作り上げておいたのだ。
だが、火星の宇宙艇の方には、そんな便利な装置は一切ついていなかった。
そのため、蟻田艇のまわりを取り囲んだのはよかったが、そのあとでとんでもない大惨事が起きることになった。
それは、火星兵団のリーダーである丸木がわめき散らしている声を聞けば、よく分かった。
「――おっ、また味方同士でぶつかったぞ!
ややっ、あそこでも、宇宙艇と宇宙艇とが激突したぞ!
あっ、危ない!
今、頭のうえをすごい勢いで飛び越えていったのは、いったい誰が操縦している宇宙艇だ!
もう少しで、この司令艇にぶつかるところだったじゃないか!」
火星の宇宙艇の群れと、博士の大空艇との戦いは、まさに今が最高潮に達していた。
博士の命令に従って、新田先生は「ここが正念場だ」とばかりに、ガス弾をあとからあとへと撃ち続けた。
こうして、空中の死闘は十五分から十六分ほども続いたが、その間に火星兵団は宇宙艇のなんと約半分を失ってしまった。
そうして、これではとても勝てないと悟ったのか、敵はついに足並みが乱れ、逃げ腰になり始めた。
「おお、火星兵団が逃げ腰になったぞ!
そこを狙い撃ちにして一掃するんだ!」
博士はますます元気になって、新田先生に攻撃の号令を下した。
その言葉通り、大空艇は横転や逆転といったあらゆる超絶テクニックを駆使して敵の宇宙艇を追い回し、狙われた敵の宇宙艇は必ず黄色い煙を吹き上げて撃墜されていった。
すさまじい大空艇の奮戦ぶりは、まるで恐ろしい鬼神のようだった。
「おい千二、丸木の艇は見えないか?」
博士が声を飛ばした。
「丸木艇ですか?
丸木艇は、まだどこにいるのか見えませんよ……」
そう言いかけたまさにその時、千二くんの目に赤い旗がちらりと飛び込んできた。
よく見ると、やっぱりあれこそが丸木艇だった。
逃げ出す宇宙艇たちのせいで、後ろの方にいた丸木艇はだんだん取り残されて、逆に前の方へ姿を現してきたのだ。
「いました、博士!
丸木艇が、ちょうど正面にいます!」
「なに、正面にだと……?
ああ、あれか!
わしの目にも見えたぞ!」
「丸木艇、なんだかうろうろと慌てていますねえ」
「うむ、その通りだな。
よろしい、これから丸木艇と一騎打ちをやるぞ!
新田も千二も、この勝負どころでしっかり頼むぞ!」
「わかりました!」
「やります!」
「よし、では突進するぞ!」
博士はぐっと大空艇のスピードを上げた。
猛烈な大追撃の始まりだ!
「おお、丸木艇め、なんだか変な動き方をしているぞ!」
蟻田博士は丸木艇を照準レンズの中にとらえ、今度こそ絶対に逃がすまいと必死に追いすがった。
丸木艇は、宇宙艇の群れの外側にぽつんと取り残され、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと、「逃げようか、それとも攻撃し返そうか」と、すっかり迷って途方に暮れている様子だった。
博士はその隙を一切逃さず、大空艇を飛ばして一直線に突き進んでいった。
すると、丸木艇はついに腹をくくったのか、機体の軸を立て直し、猛然と蟻田艇めがけて突っ込んできた。
「うむ、ついに正面切って決戦をする覚悟のようだな!
新田、ガス砲をしっかり頼むぞ!」
「大丈夫です、博士!」
両者の宇宙艇は、刻一刻とすさまじい勢いで近づいていった。丸木艇のものすごいうなり声が、大空艇の中までハッキリと聞こえてきた。
千二くんは思わず手に汗をにぎりしめる。
「ついに、両方の宇宙艇が正面衝突してしまうのか?」
大空艇の中では、このところ自動操縦装置を切りはなし、蟻田博士自身がしっかりと操縦桿(そうじゅうかん)をにぎっていた。しかし今は、機械任せには絶対にできない重大なピンチの瞬間だったのだ。
博士は操縦桿を両手でグッと力いっぱい握りしめ、両足をしっかり踏ん張ったまま、まるで石像のように微動だにしなかった。
この土壇場で、進路をビクとも変えるものかと固く決心していたのである。
「いまに正面衝突するぞ!」
もし本当に正面衝突でもしたら、いったいどうなってしまうのだろう。
新田先生が「ここだ!」とばかりにガス弾を撃ち放つと、向こうの丸木艇からは恐ろしい怪力線が打ち出され、ガス弾をパッとたたき落としてしまう。
あたり一面にもうもうと立ちこめる煙の中で、ついに両艇はドカンとぶつかり合うのかと思ったその瞬間、ほんの一瞬の差で、丸木艇は船の先端をぐっと上に向け、ひらりとかわしてみせた。
そして、そのすぐ下を、蟻田艇がまるで恐ろしい砲弾のように猛スピードで通り抜けていったのだ。
丸木艇と蟻田艇のしれつな一騎打ちは、まだまだ続いていた。
だが、お互いにすさまじい腕前で、勝負はなかなか決まらない。
丸木艇が怪力線を打ち出せば、蟻田艇は頑丈な遮蔽網(しゃへいもう)を展開してしっかりと防ぐ。
また、蟻田艇が強力なガス砲弾をぶっ放すと、丸木艇はたくみにそれをひらりとかわして逃げてしまう。
まるでコマが回るように、敵も味方もぐるぐると回りながら、撃ちつ撃たれつ、上になったり下になったり、追いつ追われつの死闘を何度もくりかえした。
それでも、やっぱり勝負はつかない。
「博士、なんだか丸木艇に、ガス弾が1発も当たらないのですが……!」
新田先生が、ついに悲鳴のような声をあげた。
「当たらんとはおかしなことだな。
あせらず落ち着いて、一発必中のつもりでよく狙うんだ!」
「はいっ!」
大空艇は、ふたたび空中でクルリと見事な反転を見せ、丸木の乗った宇宙艇を追いかける。
「あっ、丸木が窓から顔を出して、こっちをのぞいていますよ!」
千二くんが大きな声で叫んだ。
「なに、どこだ。いったいどの窓だ?」
博士はすぐにテレビジョン(画面)のスイッチをつけた。
配電盤の上に、雑誌を広げたぐらいの四角い映写幕がみどり色にボーッと光り出し、なんと丸木艇の姿をハッキリとうつし出したのだ。
「一番あたまのところです!
うす桃色に光っている丸い窓から、丸木がこっちをのぞいていますよ!」
博士はテレビジョンの倍率をグッと高くして、映写幕にうつる映像をどんどん大きくしていく。
「おお、これか!」
博士はうなずいた。
丸い窓から、一つの奇妙な顔が外をのぞいている。
それは、宇宙服のヘルメットを脱いだ、丸木の「本当の顔」そのものだった。
それはまさに、奇妙な火星人の顔だった。
目はギョロリと大きく、鳥のくちばしのようなものが飛び出していて、ひたいのあたりからはアンテナのような触角がぶら下がっている。
丸木は、火星人の中でもかなりの年寄りなのだ。
宇宙艇の窓から、丸木の目が怪しくギラギラと動く。
そのくちばしが、ブルブルとふるえているところまで、手に取るようにハッキリと見えた。
「ふむ、なにかこちらに向かってしゃべっているようだな」
博士は、宇宙艇の丸窓が大うつしになっているテレビジョンを見ながら、そう言った。
コメント