初級翻訳・地底戦車の怪人 第19話

地底戦車の怪人

リント少将は、ピストルを握って勝ってみるのはいいとしても、やがてこの戦車の中で、飢えと寒さのため死んでしまうことになるのですから。沖島をピストルで撃つことは、この地底戦車の中を自分自身の墓場にすることだと気がついたリント少将は、せっかく構えたピストルを、引っ込めなければなりませんでした。

「今に、氷の上へお出しいたしますよ。もうしばらくのご辛抱です」

沖島は、余裕たっぷりに操縦のハンドルを握っていました。

(全く、ピート一等兵はかわいい男だ。空襲騒ぎのとき、パイ軍曹の隙を見て自分の背後にこの私を隠し、そして氷の上へ逃がしてくれたからな。そのおかげで、自分はうまい具合にリント少将を戦車の中に閉じ込めて、すぐに氷の下へ潜り込むことができたわけだが、まるで神様が守ってくださるように、すべてがトントン拍子にいったじゃないか!)

沖島はのん気に、そんなことを思い出していました。地底戦車は、ごっとん、ごっとんと、ゆっくりと氷の中を縫うように進んでいきました。

その氷の上では、幕僚たちが顔を青くして、大捜索を繰り広げていました。しかし、さっぱり手がかりがつかめません。それもそのはずです。地底戦車が潜り込むときに空けた氷の穴は、一時的に水が溜まりますが、寒さのためにすぐに凍りついてしまい、穴は元通りに塞がってしまったので、見た目にはどこから地底戦車が入り込んだのか、全く分からなかったのです。

地底戦車の中では、沖島速夫が地図をにらんで、しきりに印をつけていましたが、

「さあ、いよいよ氷の上に出ますから、ご安心ください」

と、少将の方へ声をかけました。それと同時に、地底戦車は先頭をグッと持ち上げ、ギリギリと斜めに登り始めました。

「もうすぐです。ちょっとお見せしたい場所へ出ますから、そのおつもりで」

一体、沖島は地底戦車をどこへ顔を出させるつもりなのでしょうか。

大和雪原

地底戦車は大きく揺れると水平に戻り、それから間もなくエンジンが止まりました。沖島は操縦席を離れて、出入口の扉に近づきました。リント少将は、この中に取り残されては大変だと、沖島のあとを追って、彼の腰に抱きつかんばかりです。

「リント少将閣下。日本人はあくまで紳士的ですから、どうぞご心配なく」

そう言って、彼は扉をガラガラと開けました。外からサッと眩しい光線が差し込んできました。

「さあ、少将閣下からお先にお出でください。この中にあなたを閉じ込めるようなペテンはいたしませんよ」

リント少将は言われるまでもなく、真っ先に戦車の外へと飛び出しました。彼はそこで、すぐに部下を呼び集め、この乱暴極まりない『黄色い幽霊』を取り押さえさせるつもりでした。しかし、それは少将の思い通りにはいきませんでした。

「あっ、ここは……」

リント少将はそう言って、呆然と氷の上に立ち、あたりを見回しました。あたりは、彼の部隊が屯(たむろ)している場所とは違います。まず、氷山の上にヒラヒラと翻る日章旗が、リント少将をその場にすくませてしまいました。

「どうです、お分かりですか。ここがどこであるか」

「うむ」

「お分かりのはずですが、私が説明しましょうか。ここは大和雪原です。西暦千九百十二年、大日本帝国の白瀬中尉がロット海を南に進んで、この雪原に日章旗を立てたのです」

「大和雪原。それなら知っている。ああ、しかし、いつの間に日章旗が……おお、そしていつの間にあのように飛行機が……」

リント少将は、氷の上に翼を休めている飛行機の群れを発見して、驚きの声を上げました。

「いや、別に驚かれることはありますまい。ここは我が大日本帝国の領土であるがゆえに、飛行機がいても不思議ではないのではありませんか。我が日本人は今や、世界第一の飛行機乗りになったのです。内地からこんなところへ飛んでくるのは、何でもありません。ちょうど地底戦車については、貴国が世界一であるのと似たようなものです。では、少将閣下、大和雪原の日章旗をどうぞお忘れなきように。そして、ここで活躍を始めようとする日本人たちを妨害なさらぬように、私から特にお願いいたします。さっきもありましたが、日本機が一発も弾丸を撃たないのに、アメリカ機が機銃を撃って挑戦してくるなどということは、もうおやめください。そちらの損ですからね」

「うーむ」

「では、この地底戦車によって、閣下を再び司令部のあるテント村へお連れいたしましょう。長い間、この地底戦車をお借りしていまして、どうもありがとうございました」

沖島速夫はそう言って、リント少将に対して丁寧にお礼を述べたのでした。

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