初級翻訳・海底都市 第24話

海底都市

それで僕は気がついたのです。
すると、奇妙なたくさんの声が笑うのが聞こえました。
僕をあざ笑ったのに違いありません。
僕は空気兜の中から目をみはりました。
意外な光景が、目の前にあったのです。
そこにはあの黒ずんだ海水がありませんでした。
水のない空間が、明るく光っていたのです。
うす桃色の大きな波が、その空間を埋めて、左右上下にさかんに動いていました。
僕の目がだんだん落ち着いてくるにつれ、空間のうす桃色の大きな波と見えたものは、例の魚人トロ族がおびただしくこの洞窟のような中に充満し、そして彼らは僕をもっとよく見たがって、互いにひしめき合っているのだと分かりました。
その醜怪な魚人たちの姿! 僕は嘔吐しそうになって、やっとそれをこらえました。
ひしめき合う魚人たちは、急に静かになりました。
誰かが号令をかけたようでもあります。
そのとき僕の耳元で、僕に分かる言葉がささやかれました。
「君の兜を脱ぎたまえ。
君の服も脱ぎたまえ。
そうしても君は、楽に呼吸ができるよ。
ここには十分な空気があるからね」
僕は横を振り向きました。
するとそこには見覚えのある魚人がいました。
はじめ海底で会見したときに、僕に話しかけてきた彼でした。
彼は乳の上に、黒いあざをこしらえていました。
そのあざは、彼の体が或る角度になったときに限って、雄鶏のシルエットに見えました。
僕は彼のことを、これから「オンドリ」と呼ぶことにしましょう。
「いや、僕は脱ぐつもりはない。
このままがいいのだ」
僕は断固として断りました。
うっかり脱いでしまった後で、どこからか海水がどっと侵入してきたときには、僕はたちまち土左衛門にならなくてはならないからです。
「じゃあ、勝手にしたまえ」とオンドリは言いました。
「とにかくこんなにたくさんのわれわれの同胞が、海底の下わずか百メートルのところに住居を持っているんだ。
分かってくれたろうね」
「これが住居か。
ほら穴みたいだが……」
「第一哨戒線についている同胞なのだ」
「ははあ、ここが第一哨戒線か」
「こんな余計なところへ住居を構えなければならなくなったのも、元はといえば、君たちヤマ族の飽くなき侵略に対抗するためだ。
……今度は別のところを見せる。
こっちへ来たまえ」
オンドリが僕の腕を抱えて立ち上がりました。
すると魚人たちは奇声を発して左右に飛びのきました。
その真ん中の道を、オンドリと僕とが歩いていきました。
正面の壁に、突然明るい光がさしました。
と思ったら、そこは狭いトンネルの入口であることが分かりました。
僕たちはその中へ入っていきました。
僕は不思議なものを見たのです。
いや、不思議な出来事に遭ったのです。というのも、そのトンネルの入り口は、すぐ先で行き止まりのように見えているのに、僕たちがそこへ近づくにつれて、その穴が静かに後ろへ下がっていくからでした。
つまり、前方に行き止まりとして見えている浅い穴が、僕たちが一歩進めば穴の底も一歩奥へ広がり、三歩進めば三歩奥へ広がり、どこまで歩いても決して突き当たることがないのです。

「変だなあ。自然に穴があいて、通り道ができるなんて……」

僕は思わず感嘆の声を漏らしました。すると、僕の前を歩いていた「オンドリ」がこちらを振り返りました。

「はははは。自然に穴があくわけではないよ。この機械で穴をあけて進んでいるんだ。君たち人類は、こんな道具を持っていないようだな」

オンドリはそう言って、手に持っていた探検用のライトのようなものを見せてくれました。もちろん、それはただの電灯ではありませんでした。彼がそれをすぐ横の壁に突きつけると、壁はとろとろと溶けるように消えてなくなり、高さ二メートルほどの、人間が立って歩けるようなトンネルがあっという間に開いたのです。僕はトロ族の持つ恐ろしいほどの技術力に触れ、背筋が凍る思いがしました。

僕たちは前進しました。約二十分ほど歩いたとき、オンドリが僕を振り返りました。

「いよいよ君に見せたい場所へ来た。われわれの善良な仲間たちの住居が、君たちの海底都市工場のために、いかにひどく破壊されているか。さあ、こっちを見たまえ」

オンドリは僕の腕を引っ張り、急ぎ足になりました。
――僕は、どんな光景を目にしたのでしょうか。

その時、魚人オンドリの声に従って、僕は彼の指すほうを眺めました。ああ、一目見た瞬間、僕はその光景に目を向けたことを激しく後悔しました。それはあまりにも悲惨な光景でした。

洞窟の中で大きな崖崩れが起きており、その土砂の下から数百、数千もの魚人たちが血だらけになって助けを求めていたのです。そして天井から、無慈悲に突き出ているのは、間違いなく海底都市のボーリング調査で使われる鋼鉄の棒でした。

「突然あのように、大地震のような衝撃と共に、あの金属棒がわれわれの居住区を突き刺したのだ」

オンドリは地面を叩きつけるような激しい口調で言いました。

「そのせいで天井が崩れ、たちまち同胞たちは生き埋めになった。皮膚は破れ、肉は裂け、死ぬ者も数知れない。われわれは総力を挙げて救助しているが、この通り、まだ救い出しきれていないのだ。どうだ、君たちヤマ族が見ても、気分のいい光景ではないだろう」

「ごもっともです。海底都市の拡張工事が、こんな惨禍を君たちに与えているとは全く知りませんでした。すぐに報告して、直ちに解決策を講じるように伝えます」

「とにかく、無法にもほどがある。何の説明も警告もなく、上からどかどかと鉄の棒を突き刺して、こんな目に遭わせるなんて。もし君たちの住んでいる場所が、こんな風に荒らされたと考えてみたまえ。君たちはその時、どれほど怒り狂うことか」

「おっしゃる通りです。本当に、おっしゃる通りだ。すぐに警告を仲間に発信します」

僕はそう言って、カビ博士への通信器を取り上げました。しかし、それは反応しませんでした。その時です。まるで大雷が落ちたような轟音が響きました。それと同時に、僕が立っている地面が地震のように激しく揺れました。

「おっ、また来たぞ! 憎むべきヤマ族め!」

オンドリの呪いに満ちた叫び声とともに、右手の正面の壁がどっと崩れ落ちていきました。そのあとには、直径二百メートルほどの大穴が開いていました。底がどこまで続いているのか、土煙のために全く見えません。トロ族たちの叫び声。僕のまわりからも、土煙の上がる地底からも、哀れな悲鳴が上がってきました。

「また陥没だ。ひどいことをしやがる」

オンドリの声は、先ほどよりもずっと興奮していました。僕は目を覆いたくなりました。もしできることなら、すぐにその場から逃げ出したかったのです。しかし、それは不可能でした。僕はどの道を通ればカビ博士の待つ場所へ戻れるのか、全く分からなかったからです。

――オンドリが、僕の手を強くつかみました。

「あの声を聞け。トロ族の呪いの声を聞くのだ」

そう言って彼は、僕の耳にゴムまりを半分に切ったようなものをペタリと貼り付けました。すると、それまではただ「わあわあ」「ぎゃあぎゃあ」としか聞こえていなかったトロ族たちの叫びが、途端に言葉となって僕の耳に届きました。

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