初級翻訳・怪星ガン 第14話

怪星ガン

すると戸が開いて、艇長が事務長を猫の子のようにぶら下げて現れ、長椅子の上に放り出したのです。
テイイが死にかかっているようにぐったりしていると、艇長はどこから取り出したか、いばらの冠のようなものを手に持って事務長の頭にかぶせました。そして、その冠についている目盛盤を動かしたのです。

すると事務長は、電気に触れたようにピクッとなり、棒立ちになって飛び上がりました。彼の頭髪は箒(ほうき)のように一本一本逆立ち、目は皿のように大きく見開かれています。
「あ、あ、あ、あ、あッ!」
彼は唇をぶるぶる震わせたあとで、大きなくしゃみを一つしました。すると彼の頭から冠がポンとはね上がりました。スコール艇長はそれを素早く自分の服の中に隠してしまいました。
「ふふふ。人間というやつは哀れなものだ。脳や神経の生理について、何ひとつ知っていないのだから。ふふふ」
艇長は早口で独り言を言いました。
「艇長、今何かおっしゃいましたか?」
「おお、君の気分はよくなったかと聞いたんだ」
「そうでしたか……」「おかげさまで、気分がはっきりしました」
 事務長は、そう言ってすっかり満足してしまいました。
 もしスコール艇長のあの独り言を、他の人間が聞いていたら、さぞ不審に思ったことでしょうに。
 そこで事務長は、怪しい艇長のうしろに従って、艇長室へ入りました。
 ふたりは、せまいながらも、ふかふかとした弾力のつよい椅子に腰を下ろして向き合いました。その椅子は、重力に異常があったときに、体を椅子にしばりつけるための丈夫なバンドがひじかけのところについているものでした。

「さて、事務長。あのテッド博士のひきいる残りの九台の救援ロケットは、少しも早く破壊してしまわなくてはならない」
「はあ、なるほど」
 あんまりはっきりした話なので、さすがの古狸であるテイイ事務長も、簡単な返事しか言えませんでした。

「わしがこんど持ってきた器械に、『宇宙線レンズ』というのがある。これは太陽をはじめ、他の大星雲などからも飛んでくる強烈な宇宙線を、みんな集めて束にするんだ。そうして束にした宇宙線を、地球上で一番かたい金属材料として知られている『ハフニウムG三十番鋼』にかけると、どんな場合でも、まず百分の一秒で真っ赤に熱し、たちまち形がくずれてドロドロになり、そして次の瞬間に全体が一塊のガス体となって消え失せる。どうだ、宇宙線レンズはすごい力を持っているだろう」
「へへえッ、それが本当なら、大した破壊力を持っていますね」
「破壊力だけで感心してはいけない。またかなり遠方まで効くんだ。原則からいうと、無限大の距離でも届くんだが、まだ少し集めて一本にする技術が完全というところまでいっていないので、まず、四、五千メートル以内なら有効に働く」
「四、五千メートルまでなら、十分使い道がありますよ。役に立ちます」
「役に立たないものなんか、わしは持ってこない。そこでだ、この宇宙線レンズの力を借りて、きょうはテッド博士のひきいる九台のロケットを全部焼いて、九つの煙の塊にしてしまおうと思うんだ。しっかりやってくれよ」
「きょうのうちにですか。それはどうも……」
 と、事務長が艇長の気の早さにおどろいているその時、外から電話がかかってきました。
「艇長ですか、テッド博士ほか一名が、これから二十分後に、こちらへ来て面会したいと言って無電をかけてきました。どう返事をしましょうか」
「ふん、そうか」
 と艇長はちょっと考えて、
「わしのほうから伺いますと言ってくれ。なにしろ昨日は失礼しましたから、きょうはわしのほうがでかけますというんだぞ」
 艇長は、電話を切ったあとで、
「ちょうど都合がいい。これから向こうへ行って、相手の様子をよく見てきてやろう。うまくゆけば、テッドのやつの頭をおかしくしてやろう」
 と、平気な顔でそう言いました。
 いよいよ救援隊にとって油断のならない事態になってきました。あやしい、あやしい。

猫かぶりの客

 救援隊ロケットの司令艇では、突然のお客さんを迎える準備に忙しくしていました。なにしろあの傲慢で、約束もなんにも平気で破り、勝手なふるまいをしてはばからないゴロツキ艇「ギンネコ号」の首脳部が、昨日とはうってかわって、わざわざこっちへ来るというのですから、テッド隊長以下が面食らったのは当たり前です。

「ギンネコ号から、形の小さいロケットが発射されました。大きくまわって、こっちへ近づきます」
 監視員が、艇内へ放送しました。
 なるほどテレビジョンの幕面に、それが映っています。石油やガソリンを積む貨車に似たロケットでした。背中に、こぶのようなものが飛び出しているのが変わっていました。
 あっという間に三度ばかり司令艇のまわりを回りましたが、あとになるほどスピードを落として、四回目には母艇ギンネコ号の探照灯を浴びて胴中をキラキラ輝かせながら、司令艇の出入り口の上に、こぶのようなものが吸い付きました。あざやかな投錨(とうびょう)ぶりです。

 それから五分すると、双方の打ち合わせがうまくいって通路が開かれ、ギンネコ号の乗組員が五名、どかどかと司令艇の中へ入ってきました。
 先頭は、ひげの老艇長スコール。そのあとに長身でやせぎすの事務長テイイが、ラクダのような顔を興奮にふりたてて従いました。そのあとに空気服と兜(かぶと)をつけた、武装いかめしい三人の部下がついていました。三人とも目ばかりギョロつかせ、妙な形の機銃らしいものを構えています。

 テッド隊長は、副隊長のロバート大佐を従えて出迎えました。そのうしろにポオ助教授の神経質な顔と、帆村荘六(ほむらそうろく)の面白い顔とがのぞいていました。
「わしがギンネコ号の艇長だ。テッド博士はあなたかね」
 スコール艇長は、ぶっきら棒にものを言います。
「わたしがテッド隊長です。よくおいでくださいました」「部下の一部を紹介します」
 テッド博士は礼儀正しく、副隊長やそのほかの接伴員たちを紹介しました。そして、そのまま彼らを客間へと案内しました。
 帆村はスコール艇長を迎えた際、大きな驚きに包まれました。ギンネコ号の艇長といえば、てっきり顔なじみの鴨(かも)艇長だと思い込んでいたのに、目の前にいたのは意外にも別人の、髭もじゃの老人だったからです。帆村はもう少しで「あっ」と声を上げるところでした。

 帆村は一番最後に客間に入りました。その直前、彼はいつも影のように付き従っている三根夫少年の手を握り、指先を使った合図で何事かを伝えました。
 帆村からの信号を受け取った三根夫は、さっと顔を青ざめさせ、かと思えば今度は逆に真っ赤に上気させました。そして誰にも気づかれないように帆村のそばを離れ、どこかへ姿を消してしまったのです。

 客間では、テッド博士がスコール艇長に向かって、昨日部下たちが訪問した際に親切に扱ってもらったことへの礼を述べ、さらに行方不明の『宇宙の女王』号についての情報をもたらしてくれたことにも感謝しました。
「いやいや、助け合うのは当たり前のことですよ。

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