射撃と拳闘の名手であるケネデー軍曹。そして三根夫。この発表で、三根夫は自分がいちばん最初に見物に行けるというので大喜びしました。
一行五名は、すぐに出発しました。空気服も脱いで、散歩に出るのと同じ軽装です。ですが、みんなの胸の中には、もっと重苦しいものがつかえていました。それは不安でした。ガンマ和尚の言葉はおだやかですが、ここは紛れもなく怪星ガンの中なのです。『宇宙の女王』号が、悲痛な最後の無電とともに警告を残していった、あの怪星ガンの内部なのですから。
ただ、どうしても納得がいかないのは、『宇宙の女王』号の場合は気温の急上昇などがあり、乗組員はかなり苦しんだようですが、本艇の場合にはそれがなかったことです。これはなぜだろう。まだ解くことのできない謎でした。
さて、偵察団の一行五名は、おそるおそる橋へ足をかけました。もしこれが妖怪屋敷の中にあるようなまぼろしの橋だったら、あっという間に身体は奈落へ落ちていくはずです。
「大丈夫だ。ついてきなさい」テッド隊長はさすがに一足先に自ら試して、安全であることを確かめると、続く者に渡れと合図しました。そこで残りの四名も橋を渡り始めました。横から見るとひょろひょろとしていて危なっかしい橋でしたが、こうして渡ってみると少しも揺れず、きしむ音もなく、しっかりしたビルの廊下を歩いているのと変わりません。
「この橋の材料は、何でできているんだろう」帆村がポオ助教授に聞きました。
「さっきから目をつけているんだが、これはめずらしい金属だ。われわれの知らない合金らしいね」助教授は、残念そうに答えました。
橋を渡り切ると、なるほどエレベーターがありました。それはコンベヤー式になっていて、上ってくるものと下るものとが、左右に並んで一緒に動いています。扉もありません。まるでメリーゴーラウンドの箱車のような形です。ちょうど前を通るときに、その箱車へとびこめばいいのです。一つの箱に十人ぐらいは乗れそうです。
テッド博士とケネデー軍曹が先頭を切って飛び乗りました。ポオ助教授と帆村、そして三根夫は、その次の箱車に乗りました。エレベーターはずんずんと下へ降りていきます。外は窓がないので、どんな景色になっているのか見えません。この道中はかなり長く、十二、三分間もかかりました。そしてついにホームのようなところへ箱車は入りました。博士の合図で、みんなホームへとび移りました。
「たしかに、これはしっかりした地面のようだがね」博士はそう言って足元を見ながら足踏みをしました。ホームの向こうに、大きなアーチが見え、そのアーチの向こうには明るい街並みが見えました。みんなはそのほうへ歩いていきました。たしかに見事な街路だった。
きれいに並んだ商店街。
街路樹もゆらいでいる。
なんだか狐に化かされたようだ。
「よう、テッド君じゃないか」隊長の肩へ手をかけた者がある。
老探検家
わが名を呼ばれ、テッド隊長はびっくりしてうしろをふり向いた。
「あッ、あなたはサミユル先生」
隊長がおどろいたのも無理はない。
彼の肩をたたいた者はほかの誰でもない、『宇宙の女王』号に乗って旅立った探検隊長のサミユル博士だった。
その『宇宙の女王』号が、悲壮な無電を途中で打って、消息を絶った。
それでテッド隊が、『宇宙の女王』号のゆくえを探すために地球をあとにし、困難な大宇宙捜査に出発したのであった。
ところが、サミユル博士一行の六十名を乗せた『宇宙の女王』号の行方はまったくわからず、テッド隊は不安の中にも捜査をつづけているうちに、怪星ガンの捕虜となってしまったわけだ。
ところがこんなところで、ばったりとサミユル博士と出会うとは、なんという不思議な縁であろうか。
「ほんとうに、あなたは、サミユル先生」
テッド隊長は、何度も目をこすって、前に立つ白髪まじりの老探検家を見直した。
「ふしぎなところで会ったね。
どうして、こんなところへ来たのかね」
老探検家は、健康的な顔に、ほほえみを見せて、テッド博士にたずねる。
「わたしたちは、先生のご一行を救援するためにここへやってきたのです。
不幸にして、このとおり怪星ガンの捕虜となってしまい、われらの目的ももう達成できないのかとなげいていましたのに、突然ここで先生にお目にかかるなんて、ふしぎというか何というか、びっくりいたしました」
テッド博士の話を老探検家はうなずきながら聞きとった。
そして強く博士の手をにぎり返した。
「ありがとう。
よく探しに来てくれた。
これまでに苦労をたくさん重ねたことだろう。
くわしい話を聞きたいが、わしの家まで来てくれないか」
「はい。
どこへでもお供をします。
あ、それからご紹介します。
これが隊員のポオ助教授。
それからケネデー軍曹。
帆村探偵、三根夫君です。
どうぞよろしく」
「おお、みなさん、よくはるばる来てくださって、ありがとう。
隊員もどんなによろこぶことでしょう」サミユル博士の言葉に、三根夫は、
「先生。
すると、『宇宙の女王』号に乗っていた隊員は、みんな無事なんですか」
と、きくと、博士はちょっと表情をかたくし、
「まあ、今のところ無事です。
もっとも、一時は隊員の半分が重傷を負うやら、中には死ぬ者もあったが、今はみんな元気です。
このことはあとでゆっくり、お話ししよう」
と、ここではそれから先のことを話したがらなかった。
一同はサミユル博士の家のほうへ歩きだした。
三根夫は、目をみはり、耳をそばだてて、町の両側に注意し、行き交う人にも注意した。
広場といい、道路といい、地球の上で見る広場や道路と変わりないようであった。
道路の両側にならんだ店や家も、地球の上で見るそれらとあまり変わったところがなかった。
もっとも店は、たいへん美しく飾りたてられており、商品は豊富であった。
料理店が店頭にかかげている料理の品書きも、おなじみなものばかりだった。
だが、三根夫は、ついにかわったことを発見した。
「ねえ、帆村のおじさん。
このへんの店は、変ですね」
帆村に話しかけた。
帆村はにやりと笑って三根夫を見おろした。
「何に気がついたのかね」
「だって、変ですよ。
店には、だれも店番をしている者がいないじゃありませんか。
どの店もそうですよ」
「なるほど。
それから……」
「それから? まだ、変なことがあるんですか」
三根夫は小首をかしげて考えこむ。
「ああ、そうか。
帆村のおじさん。
お客さんがひとりもいません。
変ですね」
「客の姿が見あたらない。
よろしい。
それから……」
「それからって。
まだ変なことがあるんですか」
三根夫は立ちどまって、店をまじまじとながめる。
「あ、これかな。
帆村のおじさん。
店の出入り口の戸が、ばたんばたんと、開いたり閉まったりしますね。
まるで風に吹かれているようだけれど、そんな強い風が吹いているわけでもないのに変だなあ。
おじさん、これでしょう」
「なるほど。
それから……」
「えッ、えッえッ。
まだ、それからって言うんですか」
三根夫はあきれてしまった。
変なことが、そんなにたくさんあるのだろうか。
帆村荘六がからかっているのかしらと、三根夫は帆村の顔をちらりと見た。
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